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バグった世界で俺たちは。  作者: Kaいト
切り捨てし飢餓、その果てに秩序は成る

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奈落より、灰燼の先に曙光を Phase 08

【タイガ、旧栄区】

かつての「庭」は、ひどく静まり返っていた

タイガは緩衝区を抜け、天導区へと続く最短ルートである旧栄区を駆け抜けている


かつて、このスラムに近い街で用心棒として日銭を稼ぎ、泥水をすするような生活で命を繋いでいた時期がある


ここの空気、下水の匂い、住民たちの怯えた視線

——そのすべてがタイガの血肉に刻まれている


だからこそ、今のこの街に漂う「違和感」が、指先に刺さる棘のように離れなかった


「……なんだ、この感じは」


報告するほどの実害はない

敵影も、待ち伏せの気配もない


だが、いつもなら路地裏に潜んでいるはずの「飢えた野良犬」のような気配が、一切消えている。

まるで、街そのものが呼吸を止め、巨大な何かに怯えて縮こまっているような不気味さ


「……まぁ良いか。まずはここを早く抜けないと、だな」


タイガは足を止めず、さらに速度を上げた


胸の奥で鳴り止まない警鐘

その正体を突き止める暇はない。今はただ、沈黙したままの天導区へ、そして仲間の元へ急ぐしかなかった



【閑世区・激戦地】


「……っ、しつこい……!」


凛は短く吐き捨て、ビルの屋上から屋上へと跳躍した


その下では治安維持局の者だろう。あたり一面を立ち入り禁止とし、人を近寄らせないようにしている



「私たち、まるで逃亡中の犯罪者みたいな扱いされてるね。どうなの?陽菜」


「んー、犯罪者ではないよ。あくまで"ご同行をお願いします"って感じかな?」


「じゃあ拒否させてもらうね。悪いけどっ」



そう言い放ったのと同時、凛はさらに他のビルへ飛び移る。

その背後からは、陽菜が操る「第二小隊」の兵士たちが、意思のない肉塊となって追いすがっている


斬っても、突いても、彼らは痛みすら感じず立ち上がり、数で押し潰そうとしてくる


「凛、こっち!」


ナインの声が響く

彼女は大口径のスナイパーを自らの足元へ後ろ向きに飛びながら放ち、その反動を利用して凛のいる屋上へと飛び移った


着地の瞬間、ナインは体を丸め、背中から転がるようにして衝撃を逃がす「前方受身」を完璧にこなす


小柄な体躯を活かした、無駄のないプロの技術。

そのまま流れるように立ち上がり、凛の側面に滑り込んだ



だが、状況は絶望的だ。

眼下には、およそ三十人の「ゾンビ兵」。


一人ひとりは脅威ではなくとも、死なない三十人が包囲網を狭めてくる重圧は、確実に二人の体力を削り取っていた




そんな様子を後衛から見ていた陽菜は薄々勘づいていた


(凛ちゃんの追記は、性能以上に代償デメリットが大きい。さっきの会話も 少しでも体を休めたいからこそ出たものかな?……だとしたら、)


陽菜の顔が一瞬曇る。

それは予想できた未来を……

親友の体を思う気持ちの……


ーー嘘偽りのない哀れみの感情だった




戦局は絶望的。

こうなった以上、一度、身を隠すしかない


そう判断し、次の一歩を踏み出そうとした瞬間。



「……ぐ、っ…………あ」



凛の視界が、ぐにゃりと歪んだ。


これまで無理に「追記アペンド」を重ね、酷使し続けてきた肉体が、ついに悲鳴を上げたのだ


身体中の細胞が内側から弾けるような激痛

神経を直接炙られるような熱


「凛?!」


膝をつき、肩を震わせる凛


その姿を……予想できた未来と対峙する陽菜は「敵」としてではなく、どこか哀れみを含んだ瞳で見つめていた。


救いたい、この苦痛から解放してあげたい

——そんな慈愛が、彼女の指揮をさらに冷徹なものにする


ナインが凛を支えようと手を伸ばした、その時だった


(……待って。誰かが 来てる?)



「ア、キ……?」



ナインの期待は すぐに裏切られた。

ーー地平に「一小隊」を捉えたから


まだ米粒ほどの大きさだが、それは凄まじい速度でこちらへ接近している



増援。

それも、これまでのゾンビ兵とは比較にならない「個」としての質量を持った暴力


考える暇はなかった。

ナインは凛の細い腕を自分の肩に回し、必死にその体を引きずる



「…ナ、イン。大丈夫だから。先に……」


「そんなの、私が許さない。」


激痛に顔を歪める凛を連れ、ナインは小柄な体を歪ませながら、必死に脚を動かす

迫りくる「死」の足音は、もうすぐそこまで届こうとしていた

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