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新しい日々

 窓から、入ってくる日差し。

 何より雄弁に今が朝だと教えてくるそれを眺めながら、私はぽつりとつぶやく。


「……懐かしい夢を見たわね」


 そうつぶやいた私の脳裏に残っているのは、先ほどまで見ていた夢。

 マーリクに婚約破棄をされたときの夢だった。

 実のところ、その夢を私が見るのは初めてではなかった。

 婚約破棄された当初は、嫌と言うほど夢で見ていたものだ。

 けれど、最近はほとんどその夢を見た記憶はない。

 一体なぜ今になって、そう考えて私はすぐにその答えにたどり着いた。


「……昨日アリミナと出会ったからね」


 そういって、私が思い出すのは昨日の記憶。

 しかし、その記憶をすぐに私は頭から振り払った。

 もう、その記憶なんてどうだっていい、そう思っていたが故に。


「今日も忙しいんだから」


 そう言って、さっさと身支度をして私は自室を後にする。

 その背中には、一切の悲哀も存在しなかった。



 ◇◇◇



 勝手な宣言をしてマーリクがさってから、侯爵家にも多少のごたごたはあった。

 しかし、諸々のトラブルは多少の域をでることなく収まった。

 というのも、マーリクはその程度の存在でしかなかったのだ。

 マーリクの生家である伯爵家が謝罪に訪れ、全面的に非を認めたのも、今後の対応を楽にさせた。

 何せ、マーリクの一方的な暴走であると伯爵家まで認めたが故に、私は一切の責任も問われなかったのだから。


 ……といっても、責任が問われなかっただけで、私の精神的にはかなり参ることになっていた。


 初めての近しい人間からの、明確な拒絶。

 その経験は、私にとってすぐには立ち直れないものだった。

 と、そこまで考えて私は笑う。


「今は、あんなに悩む必要なかったと思えるのが不思議ね」


 そう、その思い悩んでいたときからはや数ヶ月。

 もう私に葛藤も悩みも存在はしていなかった。

 悩みに悩んだそのときは、私にとって既に過去の光景へと変わっていた。

 あんなに悩んでいたのが嘘の様に。

 そう考え、私は小さく笑う。

 私の背後から足音が響いてきたのはそのときだった。


「……お嬢様、また侍女がくる前に部屋を抜け出したのですか!」


 そういいながら、姿を現したのは執事服姿の青年、ハンスだった。

 その小言に私は笑いながら答える。


「あら、仕方ないじゃない。侍女が来るまで待っている間に仕事がこなせるんだから」


「さすがに朝ぐらいはお嬢様にもゆっくりした時間を……」


「あら、私がどれだけ仕事できるか分からない訳じゃないでしょうに」


 瞬間、なにもいえなくなったハンスに思わず笑いながら、私は仕事場へと向かう。


「……お願いですからきちんと休んでくださいね?」


「私、朝の分早めに仕事終わらせてるじゃない?」


「……それはそうですが」


「ならいいじゃない。ほら、いくわよ」


「お嬢様! まだ話しは終わって……! ああ、分かりましたよ!」


 後ろから追いかけてくるハンスを見ながら私は、仕事場へと向かう。

 声をあげ、笑いながら。


 婚約破棄から数ヶ月、決して悩まなかったとは言わない。

 ──けれど、現在私は忙しくも充実した日々を送っていた。

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