忌むべき記憶
一話投稿で行こうか悩んでいたのですが、話の展開が少し遅めなのもあり、7時17時の二回投稿で行こうと思います。
入り婿、今やその制度はこの国の貴族社会において珍しいものではない。
覇王と呼ばれる現王が即位してから、この国では実力主義が顕著になった。
場合によっては、実力のある者を血族に入れる為に、実の息子が要るのに入り婿を行う場合さえある。
だから、大抵の人間なら入り婿のことを指摘されようが気にもしないだろう。
だが、私の場合は違った。
……なぜなら、侯爵家が入り婿としてマーリクを迎え入れた理由は、優秀な血を入れる為ではなかったのだから。
マーリクを入り婿として迎えた理由は、女である私以外に跡継ぎがいなかったから。
……なぜなら、私の母は私を生んだそのときになくなったからだ。
そのことは私にとって、決して目を逸らすことの出来ない出来事だった。
故にマーリクの言葉に私は一瞬言葉を失う。
まさか、そんなことをマーリクが口に出すなんて思ってもいなくて。
しかし、言葉を失った私と対照的に、マーリクはさらにヒートアップしていく。
「ようやく上から話すのをやめたか。そうだよ、俺はずっとお前に言ってやりたかったんだよ、マーガレット」
濁った眼で私を睨みながら、マーリクはさらに言葉をまくし立てる。
「お前、ずっと侯爵家当主様に引け目を感じていたんだろう? 自分が母親を殺してしまったこと、その上で女として生まれてきたことを」
「……マーリク?」
「分かるよ。それはつらいよな。苦しむお前のそばんいいたから、多少は俺にも分かるよ」
……そう優しい言葉を重ねながら、マーリクの顔に浮かぶのはどす黒い感情だった。
それに、気圧された私にアルクは吐き捨てた。
「だからって、俺を、他の人間を巻き込むんじゃねえよ」
「……っ!」
「お前だって、理解しているだろう? お前のくだらない罪悪感を和らげる為に、一体どれだけの人間に迷惑をかけた?」
「……違うわ!」
冷え冷えとしたマーリクを前に、それでも私は何とか反論の言葉を紡ぐ。
「改革はそんな気持ちでやったことじゃない! あの覇王の治世下、このままの侯爵家じゃ生き残れないと思ったからやったのよ! それだけは偽りじゃないわ!」
そうまっすぐマーリクを見返した私に、一瞬アルクは一瞬気圧される。
しかし、その目からどす黒いなにかが消えることはなかった。
「まだそんな言い訳で進み続けるのか?」
「違う私は……」
「俺は、お前のそういうところが嫌いだ!」
「……え?」
面と向かって言われた嫌い、という言葉。
それに私は今までにない衝撃を受けていた。
確かに、マーリクは婚約者として頼りない存在だった。
けれど、ずっと一緒にやってきた存在だった。
……だから、ここまで明確な拒絶に私は衝撃を隠すことができなかった。
けれど、マーリクは止まらなかった。
「お前は改革という名目で、侯爵家の伝統をつぶしていっているだけだろうが! お前の改革が成果をだして文句をいえないだけで、誰もがそう思っている!」
「……わたし、は」
「もう、俺はお前にはついていけない。もう一度言うが、お前の尻拭いで侯爵家に縛り付けられて、今後を生きていくつもりなんて俺にはない」
そう言うと、マーリクは私の返答も聞かず、席を立って歩き出す。
そして、扉からでる瞬間に振り返って、私に醜悪な笑みを浮かべ吐き捨てた。
「そうそう、お前が信じまいが勝手だが……少なくとも、侯爵家当主様は、お前みたいな娘を持ったことを後悔しているだろうさ」
「っ!」
そう言って、今度こそ振り返ることなく去っていくマーリクの姿を見ながら私は悟る。
……この記憶は、忘れることのできない記憶になるだろうと。
それがこの私、侯爵令嬢マーガレットが全てを否定されたもっとも忌むべき記憶だった。
ここまでが序章となります。
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