社員旅行
「社員旅行に行こう」
新聞を抱えたユリウスが唐突にそんなことを言い出した。そんなことを気にせず四課のメンバー全員は仕事に戻ろうとするが、今聞いた言葉がもう一度頭をめぐると振り返った。
『社員旅行⁉︎』
全員が驚く。基本的に休日返上で出撃があり得る、仕事がブラックな四課にとって、社員旅行なんていう話は嬉しい話であった。
「社員旅行か…いいな、で、課長、どこですか行き先は?
「任務先」
任務先と聞いて全員がずっこける、結局仕事かいとがっかりするが、ユリウスは笑って話をしていた。
「まぁ待て待て、そうがっかりするものではないぞ、今回は二課との共同任務だ」
「二課ってなんですか?」
「異世界特別調査隊二課、僻地・危険地帯の調査を目的とした部隊です」
ほーっと神癒奈は頷く、で、それが休みとどう関係があると? と彼女は思った。
「今回は二課の後方支援を担当するのだよ、我々が直々に動くという話ではない、だから、ゆっくり旅を満喫できる」
「でも、危険地帯の調査ってことは…危ないところに行くんですよね?」
「あぁ、そうだね、全員、Eフォンのタスクを見てくれ」
そう言うと全員がEフォンから任務を見た。
「未知の病気が蔓延する町?」
「そうだ、幸い外界には広がってないが、その町には人を死に至らしめる病気が蔓延している。今回は、それを調査する二課のバックアップだ。町の外から気軽にお茶でも飲んで二課の状況をサポートするだけでいい」
なんだそれなら安心…と思い、ほぼ全員が楽しみにしようとするが、初期メンバーである永戸とフィアネリスだけは顔つきは違った。
「甘いぞ、二課のサポートに行くってことは二課だけではどうにもならない事態になる可能性があると言う事だからな」
「まさかー、先輩の考えすぎですよー」
「前に三課のバックアップに行った時は身体を盾にしてでも要人を護らなければならない事態にまで発展しましたからねぇ、あの時は流石に死ぬのではないかと思いました」
「……それ、冗談っすよね?」
能天気なコリーと心配する桐枝に怖い話をする永戸とフィアネリス。その言葉に、初期メンバーである三人以外が凍りついた。
「と言うことは、必要になれば我々も病原が何かを調査する可能性があると?」
「その通りだが?」
「あぁ……感染リスクを抱えながら仕事をしなければならないのですね……辛いですね……」
ライの質問にユリウスが答えると、エイルが泣きながら十字をきった。もう死ぬ気でいるらしい。
「だが悪い話だけではない、せっかくの社員旅行なんだから、全員、異世界間鉄道のチケットも購入してある」
「おお、大盤振る舞いじゃないですか、いつものつまらない転移魔法じゃなくてそっちを使うだなんて」
「だろう? 君達に少しでも旅行の気分を味合わせたくてね、任務を終えれば温泉にでも行こうかなとも考えているが」
『温泉⁉︎』
温泉ともなれば最早もうなりふりは構っていられない。全員のやる気スイッチが入り、早速旅行の計画を立てる者まで現れる始末。
「まぁ、いつも通り、愉快な仕事にはなるだろうけどねぇ…」
「課長がそう言うと大体シャレにならないんで期待してますよ、悪い意味で」
付き合いの長さから出る言葉か、ユリウスがため息を吐きながらそう言うと、永戸は苦笑いで答えた。
ーーー
「ほーーー、異世界間鉄道、これがそうですか」
旅行鞄と装備を持った神癒奈が異世界間鉄道の駅のホームに立つ。そこは、見た感じはごく普通の駅だが、ホームにはハイテクな列車が止まっていた。
「でも、私達普段転移呪文で移動してますよね? それがあるのになんでこんな物がなんであるのでしょうか?」
「お手軽だからだよ、四課は普通に使ってるが、転移呪文は通常は許可証や権限がないと使えないからな、お前の時みたいに勝手に使えば密航者で普通なら捕まる。国家間を渡るパスポートみたいなもんだよ、で、この鉄道はそのパスポート抜きでも誰でもお手軽に行きたい異世界に行ける簡単な異世界転移方法ってわけだ」
「運営はマシーニーエクスプレス社、お菓子メーカーも兼ねている大型企業となっております。行ける異世界は、安全が確認された世界が多いですが、今回はその安全が確認されたはずの世界で起きた未知の病気の対処となっております」
永戸とフィアネリスがそう説明すると、神癒奈は納得した。
「来るのが早くて感心するね、君達」
「5分前行動ですので、おはようございます、課長」
永戸達が待ってると、最初にユリウスがやってきた。キャリーバッグを片手に私服姿で来ている。
「やっほー、おはようっす」
「おはよう…ございます…えへへ」
続いて、今時の女子な格好でリュックを背負った桐枝と、地味な服を着て大きなバックパックを背負ったエイルが来た。
「おはよう、みんな早いじゃないか」
その次に来たのはライだ。高そうな服を着てサングラス姿でやってきた。
「わぉああああ! 遅刻ですか⁉︎」
「ギリギリセーフだ」
そして最後にやってきたのはコリーだ、相当準備してきたのか、荷物がパンパンに詰まったバッグを背負っている。
「皆の分のチケットだ、ファーストクラスは取れなかったが、まぁ楽しい旅にしようじゃあないか」
ユリウスがチケットを全員に手渡すと、四課のメンバー全員は改札を通って列車に乗った。
「ほーっ、チケットを渡すと飴が貰えるんですね?」
列車に乗ると、神癒奈は改札を通る時に配られた飴を舐める。
「先ほども申しましたがお菓子メーカーも兼ねてますし、いい旅を、の意味を込めて配られるのですよ」
「私はここのお菓子が好きでね、お茶請けやリラックスとして菓子や飴をよく買っている物だ」
そう言うとユリウスは車内販売の姉さんから飴を一箱買った。
相当好きらしく飴を舐めてると顔が綻んでいた。
「温泉楽しみだね!」
「今からそれ考えるんっすか、仕事の前っすよ」
「でも…仕事が楽に終わったらいいですね」
いつもの鉄臭い装甲車ではなく、乗り心地のいい列車なせいか、メンバー全員の気分は上々になっていた。
そうして列車は走り出す。暫くは普通の景色になっていたが、トンネルに入ると、転移が始まった。
皆それぞれまったりとした時間を過ごしていた。永戸は持ち出してきたゲームで遊び、神癒奈は横からそれを眺め、フィアネリスは読書をし、ユリウスは自販機で買った紅茶を楽しみ、ライはゆったりと寝て、コリーは旅行雑誌を読みまくり、エイルはコリーに頼まれてEフォンでご当地グルメを探し、桐枝はウォークマンで音楽を楽しんでいた。
皆、これから任務に行くのに珍しくのんびり旅行気分を味わっていた。
ーーー
目的の世界に到着し、駅から降りて四課のメンバー全員は二課の装甲車に迎えられる。そしてそこから更に転移をすると、目的となる町の周辺までたどり着いた。
「アレが、今回の任務の町ですか?」
現地に到着し、荷物を持った神癒奈が遠くから眺める。
「あぁ、これが今回の私たちの任務を担当する場所、フォーリルタウンだ」
そこは、ミズガルズほどの大都市ではないが、村とかよりは遥かに建物が多いそこそこ大きな町だった。だが見てて不安に思うのは、その町の空には黒い雲が覆っており、遠くから見ても街全体がどんよりとしているのが見える。
二課のキャンプに到着した永戸達は、荷物を置いていつもの服装に着替えた。そのまま全員は、二課の課長がいるところまで案内される。
「よく来てくれた。私は二課の課長を務めているレナルド・ユングターニアだ」
二課の課長は、冷たい目線を放つ女性だった。軍服を着た彼女は、穏やかなユリウスとは真逆に氷のように冷たい表情で四課を迎え入れる。
「レナルド、これから四課は君の指揮下に入る。前線に送り出すかは自由だが、なるべく手荒には使わないで欲しい」
「ふん、旅行気分できた貴様らには分からんと思うがこっちは仕事できているんだ、その提案にはノーと答えさせてもらう」
するとレナルドは、Eフォンの端末からプロジェクターで町の全体像を出した。
「現在フォーリルタウンの入り口は全て二課が封鎖している。内部調査はこれから行うが、町の外に出回ってないあたり、病気の感染源は空気感染や接触感染などの自然的なものではない。恐らくは、人為的な何かだと思われる」
「つまり、誰かが病気をこの町だけにばら撒いてるってことですか?」
「狐、発言を許可した覚えはないぞ」
ユリウスと違いピシャリと言うレナルドに、神癒奈はひんっと気を引いてしまう。
「だがその発想は概ね正解だ。実際に調査隊が送り込まれたが、感染者の検査を行なって、何者かが菌を植え付けたのが確認できた。菌のデータは端末に送る」
レナルドがそう言うと全員のEフォンにデータが入ってきた。
「いいか、ここから貴様達は二課の管轄だ、督戦隊だろうがなんだろうが、貴様達は私の指示に従って動いてもらう。後方でのんびり茶を飲むそこの老害とは訳が違う、覚悟しておけ、四課の猟犬ども」
『了解!』




