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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
第二章 機械仕掛けの天使と死神と呼ばれた部隊
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死神部隊

 世界を移動し、目的地についた永戸達三人。そこは、辺りがさびれた街の跡だった。戦争か、あるいは魔物にでも襲われたか、朽ちた建物の景色があたりに広がっている。


「うーわ、ただの犯罪組織にしては、これはまた随分とヤバめだな」


 双眼鏡片手に、犯罪組織の根城となる倉庫を覗く永戸。その先にあったのは、銃や旧世代の兵器で武装した犯罪組織の構成員たちだった。同じく双眼鏡で覗く神癒奈は、彼らの持つ兵器に、興味を惹かれる。


「なんなんですか? アレ?」


 一際大きな、7mほどの巨大なモノに指を差しながら、神癒奈は永戸に聞く。


「アレか? あぁ、神癒奈は初めて見るか、魔導兵器って言ってな、魔法を科学で再現しようとした兵器だよ。多分アレはその中の二足歩行戦車型のモデルだな。ちょっとばかし古いタイプだけど、恐らく、軍からの横流し品か払い下げ品か何かだろうな」


 そうして永戸は魔導兵器を見つめる。魔導兵器と呼ばれたモノのその見た目は、大木のように太い二本の足に、戦車の砲塔がくっついたような見た目をしていて、黒く塗られたその装甲を纏う姿は、無骨ながらもいい見た目をしている。

 ただ、これからソレがこちらを襲う兵器となるのだと考えると、永戸はゾッとした。


「戦車砲くらいは弾けそうだけど、この剣じゃ、破壊は難しそうだな……」


 以前の機械剣と比べて、貧相な直剣を見て、永戸は毒つく。もし以前の武器だったなら、装着されているパイルバンカーで戦車の堅牢な装甲を抜くことだってできるし、内蔵された聖剣の魔力を通せば、切ることだってできただろう。だが今のこの直剣では、精々強引に突き刺して足止めするのが関の山だ。


「私でも、流石に機械に対して炎で戦うのは難しいですね…」


 神癒奈も、自分の持てる能力を確認して、アレを倒せるかどうか分析をする。弾丸型の炎を放つ「絶火」を、限界まで炎を収束させて撃ったのなら、装甲を溶かして撃ち抜く事はできるかもしれないが、それ以外であの装甲を破るのは、神癒奈も難しいと判断した。


「でしたら、外の人間とあのガラクタの相手は私にお任せしてもよろしいでしょうか?」


 私ならやれそうですとフィアネリスが二人に言う。それを聞いた二人は顔を合わせて、勝算はあるのかとフィアネリスに問いかけるが、彼女はそれに対して、にっこりと笑いながら頷いた。


「いいんだな?」

「はい♪ お二方は、私がアレらの相手をしてる間に、中の掃除をお願いします♪」


 何か考えがあるらしく、満面の笑みでフィアネリスは答える。信頼してのことか、永戸はフィアネリスに頼むぞと言うと、フィアネリスの提案を聞くことにした。


 ーーーーー


「ふわぁああ……流石に暇になるな」


 とぼけた顔をしながら、犯罪組織の構成員の一人である男は、害する者があらわれないか巡視をする。こんな寂れた街に人も何も来るわけないだろうと内心文句を言いたかったが、やっている仕事の都合上、敵対組織に襲われることもあるので警戒を続けていた。


『おい、誰も来てないか?』

「来るわけねーよ、こんななんもない街に。全く、何もなさすぎてつまんないぜ、これ終わったら"商品"に手を出してもいいか?」

『ダメに決まってるだろう、お前みたいな下っ端が商品で遊ぶのは、上が許してくれねーよ』


 "商品"と何やら不穏な言葉をちらつかせる男達、どうやらここでしている事は真っ当な事ではなさそうだ。


「はぁ、せめて、可愛い女が迷い込んででもしてくれねーか……な?」


 暇を持て余して、男は銃を掲げて背伸びをするが、ここで、正面から誰かが走ってきた。男はすぐに注意をそこへ向けるが、だがその注意はすぐにそれる事となる。何故ならば、視界に入ってきたのは、美しい天使の少女であったからだ。


「すみません♪ どうやら道に迷ってしまったらしくって、連絡を取るために電話をしたいのですが、どこかにあります?」


 光輪をクルクルと回転させながら、天使の少女は男に近寄り、満面の笑みで電話がないか聞く。

 急に近寄られて笑顔で見つめられ、男はドキドキとしてしまう。目と鼻の先に顔があり、彼女からはほんのりといい匂いもしている。先程までの警戒心はどこへ行ったのか、鼻の下を伸ばしながら男は少女を見つめる。


「あっあぁ、建物の中のすぐにある、案内してやるからついてきな、はっははは!」

「本当ですか? ありがとうございますぅ♪」


 優しく扱われて、天使は嬉しそうに手を合わせて感謝を述べる。そんな彼女の美しい笑顔を見られて、男は幸せそうだ。


『おいっ! 勝手な事をするな!』

「いいじゃねぇかよぉ、こんなに可愛いお嬢ちゃんだし、ちょっとくらいは自由にさせてくれよ」

「まぁまぁ、ふふふっ♪」


 戦車の操縦士が、男を叱るが、男はどこ吹く風と全く気にせず、少女を案内しようとする。男に褒められて少女はくすくすと笑うが、操縦士はその笑顔に対して、何やら嫌な予感を感じていた。


「ああ、それと言い忘れてました、私の探している電話なのですが」

「へぁ?」


 すると、天使は男の口の中に、腰から取り出した"モノ"を入れる。

 突然口に何かを入れられ呆気にとられる男、直後、甲高い銃声と共に、その男の頭は吹き飛ばされた。突如として血が飛び出し、その場にいた全員が、惚れたなどとは違う意味で少女に釘付けとなる。


「地獄への直通電話(ホットライン)です♪」


 天使が男の口に入れたのは拳銃だった。硝煙が漂う銃口に付いた血を、ハンカチで綺麗に拭き取りながら、天使は笑顔で犯罪組織の男達に向く。

 男達の目の前に立つ翼を生やす少女は、拳銃を大事そうに抱えながらとても可愛い天使の笑顔をするが、その笑みは男達からすれば、命を刈り取る悪魔の笑みだった。


「なっ……てっ、敵襲!」


 少女の言葉の意味をようやく理解した男達は、すぐに各々の武器を少女に向けるが、少女は拳銃をホルスターへしまうと、虚空から武器を取り出した。

 それは、身の丈以上の長大な銃槍と体を覆えるほどの巨大な盾だった。彼女はそれらを片手で軽々と振り回して構えるが、その手に持つ槍は、銃の機能がついているにしてはあまりにも大きく、小さな砲のように見えた。盾も、その辺の鉄の盾と比べて、非常に分厚く、その形状は、堅牢な壁のようだ。男達は、そんな彼女の持つ武器を見て、気が引いてしまう。


「さてさて、では、楽しませていただきますね」


 複数人から銃口を向けられてもフィアネリスは余裕の笑みを崩さずに、戦闘を開始した。槍を構え、駆け出すと、一斉に銃を撃たれ、弾丸の雨が彼女へと降り注いだ。


「あはっ! 手厚い歓迎でありますね!」


 盾を斜めにしながら前に構え、降り注ぐ弾丸を傾斜させたソレで防ぐと、フィアネリスはまず、一番動きがのろそうな男へ飛びついた。


「わぁあああっ⁉︎」

「まずひとつ♪」


 怯える男に対して容赦なく槍が振るわれると、それは男の胸元を綺麗に貫通した。そのまま彼女は槍を振り回すと、貫かれていた男は明後日の方向へと飛んでいき、グシャリと音を立てて地面に叩きつけられる。


「ひぃっ⁉︎ なんだこいつ、躊躇なくやってくるぞ!」

『怯えるな! 撃て!』


 男一人を殺し、笑顔のまま立つ彼女に、男達は恐れながらも銃を乱射する。だが、飛び出した弾丸は彼女が宙へひらりと飛んだことによって回避され、そのまま二人目の男に対して、槍からレーザーが放たれた。


「ぁ……⁉︎」


 撃たれた事に気づかぬまま、男はレーザーで頭を吹き飛ばされる。


『何者なんだこいつは⁉︎』


 次々と仲間が殺されていくのを見て、戦車の操縦士はフィアネリスに対して恐怖を感じる。数ではこちらが上の筈なのに、攻撃はかわされ、かえす刀で次々と人が死んでいく。このままでは全滅は時間の問題だった。


『くそぅ! これでも喰らいやがれ!』


 このままやられるのはまずいと感じた操縦士は、戦車の主砲をフィアネリスに向けて撃つ。爆音と共に放たれた砲弾が、地面に降りていた彼女へと命中すると同時に煙が舞い上がる。生身の生物だ、戦車の主砲を受ければ流石に身体はもたないだろう。そう思って操縦士は煙の舞う天使のいたところを凝視するが、煙が晴れると、操縦士は驚愕してしまう。


「あれ? あれあれ〜? その程度の攻撃しかできないのですか?」

『嘘だろ……そんなバカな話があるか…⁉︎』


 そこにいたのは、盾で砲弾を受け、無傷で立っていたフィアネリスだった。余裕そうに、悪戯気に笑いながら、彼女は戦車へと向く。


「ガラクタ風情とはいえ、少しはやってくれるとは思っていましたが、まさかそこまでポンコツだとは」

『ひ……ひぃいいいっ⁉︎ 来るな! バケモノ!」


 ゆっくりと、オモチャで遊ぶように、笑顔で槍を構えながら近づく彼女を見て、操縦士は恐怖で恐れ慄く。彼女が一歩一歩と近づくにつれ、戦車が後ろへと後退していく。


「まだまだ遊び足りないので、もう少し楽しませてくださいませ♪」


 そう言うと、フィアネリスは戦車へと駆け出した。戦車はそれに対して軋みを上げながらまた主砲を放っていく。


「おーおー、見事におっ始めたな」

「すごいことになってますね…」


 フィアネリスが派手にドンパチしている姿を見ながら、二人は隙を突いて倉庫の中に入る準備をする。武器は互いに取り出していて、すでに臨戦態勢だ。


「そういえば、さっきされた噂のことなんだが」

「はい?」


 すると、唐突に永戸がイストリアの本部であった噂について話しかけてきた。いきなりどうしてここでそれを話すのだろうと神癒奈は疑問に思う。


「お前に伝えておくことがあってな。俺たちの部隊には固有の名前があるんだ」

「固有の名前?」


 自分達の所属する部隊の固有の名前、そんなものがあるのかと神癒奈は思う。


「一つが四課、単純明快でわかりやすい組織の部隊としての名前。普通はこっちを呼ぶのだが、ただ、この部隊にはもう一つの名前がある」


 確かに、永戸は昨日の夜、四課と言っていたなと神癒奈は思い出す。しかし、ここでもう一つ名前があると聞いて、一体どんなものなのだろうと考えた。少なくとも、あの噂の話と関係があるのだろう、ロクな名前ではないことは確かだと感じる。


「俺が英雄を殺すように、この部隊は、他の隊と比べて、数多の力を持つ者を善悪関係なく、容赦なく殺してきた。その事からつけられたもう一つの名が"死神部隊"」

「死神……部隊?」


 死神部隊……これまた随分と物騒な名前だと神癒奈は思った。だが、これまでの永戸の行動からして、そういう呼ばれ方をされているのは必然なのだろうかとも思う。英雄や大罪人を殺すことが彼の任務なのだ、そう呼ばれても仕方ない。

 となると、先程された噂は、本当に畏怖がこもった噂だったのか、そう考えた神癒奈はこの部隊に入った事を、少し後悔する。これから先、マトモな精神をした戦いにはおそらく出会わないだろうと。


「これから俺たちがどんな仕事をしていくかは、さっきの噂とその名前でわかるな? じゃあ、覚悟を決めて行こうか」


 グローブをしっかりとはめ直すと、永戸は悪い笑みを浮かべながら、神癒奈に向き直る。その笑顔を見て、彼女は、今からまたひどい目にあうのだろうなと考えると、不器用に笑い返すことしかできなかった。

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