初仕事
「さて、新人を迎えたところで、早速だが、君に仕事を与えよう」
「はいっ! なんでも任せてください!」
椅子に座るユリウスが、にっこりと笑いながら神癒奈に任せる依頼の準備をする。いったいこれからどんな事をするのだろうと神癒奈は興味津々だ。
「今回の任務は単純だ。ある世界を根城にしている犯罪組織のいる場所を一つ潰してほしい」
「犯罪組織……?」
犯罪組織と聞いて神癒奈は「随分とまともな仕事ですね」と疑問に思う。永戸のような英雄殺しの仕事をいきなり任されるかと思いきや、警察のような仕事をいきなり任せられて、神癒奈は戸惑う。
「あぁ、初めての君に説明するが、我々の組織、イストリアでは、そういった異世界に蔓延る悪を裁くのが仕事なのだよ」
「すごいですね……ちょっとかっこいいです!」
丁寧に説明するユリウスの話を聞いて、神癒奈はそんな誇らしい仕事をしているのかと思い、期待に応えられるよう頑張るぞと決意する。気合十分な顔をして尻尾を揺らすが、だが、神癒奈のそんな顔を見たユリウスは、どこか悲しげな表情をした。
「だが神癒奈君、張り切っているところ悪いが、我々の仕事をあまり誇りに思ってはいけない。この課では、さきほど言ったとおり、汚れ仕事を任されることがあるからな」
釘を刺すように、汚れ仕事をしていると繰り返すユリウスに、神癒奈はハッと思い返す。先程、ユリウスに問われた覚悟を。
汚れ仕事と聞いて永戸の方をチラリと見ると、神癒奈の視線に気づいた永戸はバツの悪そうに頭をかいた。
「今回の犯罪組織についても、おそらくは他の課では手を出さないような"何か"があるのだろう。だから気をつけたまえ。ここは、他の課よりは甘くないし、誇らしい仕事をしているわけでもない」
先程まで紳士的な態度を取っていたユリウスに、冷たく、強く目を見つめられ、神癒奈は言葉をなくしてしまった。ここはそれほど甘くない、その言葉を聞いて、先ほどまで浮いていた心も静かに沈んだ。
「そうだ、永戸君、長期任務を終えたばかりで悪いが、今回の任務、神癒奈君に付き添ってあげられないかな?」
「わかりました。ついでに、ここについて色々と指導しておきます」
「うむうむ、頼もしいな」
永戸がわかったと答えると、ユリウスは頷いて顔をほころばせる。神癒奈はまた永戸と仕事ができるのかと考えると、嬉しいような少し怖いような、複雑な気持ちになった。
「今回は私はついていかなくてもいいかな?」
「ライ君は別件の調査に行ってほしい、その任務も、いずれ皆でやるつもりだからな、その下準備としての調査をしてほしい」
「了解、だそうだ、今回は私は任務を一緒にはできないらしい、彼女の世話は永戸に任せるよ」
ユリウスに任務を頼まれ、ライはちょっと寂しそうな顔で気安く神癒奈の肩を叩くと、永戸にニコニコしながら声をかけた。
だーってろバカと永戸が呟くのを聞いて、神癒奈はくすりと笑う。
「この課に入るからには専用の制服も作らないといけませんね!」
ぱぁっとした表情のコリーが神癒奈に制服を作ろうと話しかけてくる。制服と聞いて神癒奈は永戸の赤いコートを連想したが、専用ということは、自分用の特徴的な服装が用意されるのだろうかと考える。実際、周りにいる五人は、制服と呼ぶにはあまりにも独特な格好をしていた。
「私のために、みんなと似たような制服を用意してくれるんですか?」
「はい! 後で開発部に申請をしておきますので、神癒奈さんは今日は任務をやっていてください」
自分の制服、一体どんなのになるんだろうと神癒奈は楽しみにする。落ち着く和服みたいなのならいいなぁと考えながら、外に出る永戸についていくが、その後ろには、何故かフィアネリスもいた。
「あれ? フィアネリスさんまで行くのですか?」
「私はマスターの従者なので、ついていける時にはついていくのですよ」
コツコツとハイヒールを鳴らして歩きながら、フィアネリスは凛とした表情で答える。神癒奈は、フィアネリスがどんな事をするのだろうと思い、気になった。
「そうだな。今回はフィーネにも手伝ってもらおう。せっかくのコイツの初仕事なんだ。フィーネからも色々と教えてやってくれ」
「かしこまりました、マスター」
そう話しながら課の武器庫につくと、永戸は、この前壊した剣の代わりの武器か、普通の長剣をケースの中に入れる。そういえば、昨日使っていた光り輝く聖剣はどうしたのだろうと神癒奈は思った。
「あの時使った聖剣は使わないのですか?」
「あぁアレか、アレは使わない。封印用の外装が壊れたからな。外装の修理の為にさっき出してきた」
外装と聞いて、神癒奈は、パイルバンカーのついた、あの鋼鉄の剣を思い浮かべる。聖剣を封印する為の外装……にしては、物騒な力を持った外装だったなぁと振り返る。
「さて、荷物は持ったな? 行くぞ」
そうして三人は、部屋から出ると、エレベーターに乗って、建物の一階まで降りる。扉が開いて、三人は再び歩き出すが、その時、遠くでこそこそと話す声が聞こえた。
「オイ、四課がまた人を殺しに行くぞ……」
「あそこにいる狐、確か今朝検査を受けた奴だろ、あいつも四課に配属されるのかよ」
「あーあ、ロクな事にならないぞ……絶望しなければいいが」
どうやら四課はいい噂がないらしい。周りの話し声から、これからすることへの不安を神癒奈はつのらせる。
「気にするな、仕事内容がこれだから、みんな怖がって避けてんだよ、きっとな」
永戸は周囲の話し声の内容について、神癒奈にフォローを入れる。だが、それとは裏腹に永戸の顔は、厳しそうな目をしていた。神癒奈は、周囲の噂がどういうものか気になるが、それは後で聞こうと考え、初の任務に集中しようとする。そして、周囲が彼らの噂をする中、三人は建物を出て、任務の場所へと向かった。
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初の任務に向かった三人を見送って、ユリウスは椅子にゆったりと座り直す。疲れたわけではないのだが、だがあることが気がかりだった。
「焔月の妖狐……神癒奈か」
机の上に置いてある彼女のプロフィールの書かれた書類を見て、ユリウスは目を細める。
(焔月の一族……かの大妖狐の末裔か……偶然か運命か、とんでもないモノと彼はであってしまったな)
焔月がどんな一族かはユリウスは知っていた。焔月という一族の詳細、彼女が焔月の次期当主にして、そして最後の生き残り、ここまでの経歴と事前の情報から、彼女がただの旅の狐ではないことがわかる。それに、ユリウスにとって、焔月は因縁深い関係にあった。故に、ユリウスは危惧した。四課にとって、神癒奈という存在が大きな危険を及ぼす存在にならないか。
紅茶を飲みながら、ユリウスは考える。人に襲われ、家族をなくした彼女にとって、ここが第二の家となるか、あるいは、破滅を生む者となるか。
「たとえ彼女が"禁忌"とされる者だとしても、なんとか御すしかないな……」
椅子に深々ともたれこみ、ユリウスは天井を見て、任務に向かった三人を考えた。永戸やフィアネリスは神癒奈をうまく指導してやれるだろうかと。ここがどういう部隊か彼女に知ってもらう為に、彼らに任務を与えたが、完遂することはできるのだろうか。
これからのことを考えながら、ユリウスは三人の健闘を祈る。




