異世界特別調査隊四課
翌日、永戸についてこいと言われ、同行することになった神癒奈は、街の中を永戸と一緒に歩く、フィアネリスは先に用事で目的地に向かったらしく、二人とは後で合流するらしい。
「前に俺の仕事について話したな」
「はい、世界を観察して回る、調停者だって」
永戸に聞かれ、神癒奈は彼の仕事を思い出す。彼は世界を回り、時に人を助け、時に敵と戦う調停者と呼ばれる存在だ。それがどうしたんだろうと神癒奈は永戸の話を聞きつづける。
「そっ、俺たちは世界の平穏を保つ調停者だ。んで、世の中には、そんな調停者を派遣したり、或いは戦わせたりする組織が存在する」
自分の仕事を改めて確認しながら、永戸達二人は歩き続けるが、ある程度説明を終えると、目的の建物に到着したらしく、永戸はそこで立ち止まった。
「それが、異世界管理組織『イストリア』だ」
そうして永戸と神癒奈はある建物の前に立つ。どうやらここがそのイストリアと呼ばれる組織のある建物らしく、そしてここが、永戸の職場らしい。入り口には警備の人が立っていて、外部から見て、とてもものものしい建物に見える。人の出入りも多く、敷地の広さとその構造から一つの軍隊の駐屯地のように見えた
「中に入るぞ」
「はっはい!」
建物のものものしさにあっけに取られてる神癒奈をよそに、永戸は建物に入っていく。神癒奈も遅れて建物に入るが、建物のロビーには、制服を着た組織の者達があちこちにいた。周りにいる者を見ながら、神癒奈は永戸についていく。ロビーの中心まで行くと、受付のあるカウンターへと向かう。
「おはようございます、陽宮 永戸さん、本日はどういったご用件でこちらへ?」
「先日受けた任務の達成報告と、破損した武装の修理、それと……そこの狐の入隊申請だ」
永戸は今日の目的を受付の人と会話する。神癒奈はその間、後ろでキョロキョロと周りを見ていた。
「はい、確かに、そちらの方はフィアネリス様より入隊の申請が来てますね、ご案内いたします」
「ふぇ? 入隊?」
自分の入隊申請が出されていると言われ、戸惑う神癒奈。そういえばと、昨日の「四課に配属させる」という永戸の話を思い出した。もしかしてアレに関係する事なのだろうか。
「俺は先に上に上がってるから、神癒奈は入隊検査を受けてから来てくれ。ちょっと身体を覗かれるかもしれないが、まぁ気楽にな?」
「えっ、えっ?」
それじゃあと永戸は状況の理解が追いつかない神癒奈を置いて、エレベーターに乗って先に上の階へと向かう。置いてけぼりにされた神癒奈は、どうすればいいかわからず、受付の人に聞いた。
「こちらにて身体検査を行うので、よろしくお願いします」
「は……はぁ」
突然入隊だの検査だの言われ、訳がわからなくなるが、彼について行き、世界がどんなのか見て、英雄になると決めたのだ。やるしかないと、神癒奈は諦めて身体検査へと向かった……。
ーーーーー
「うえぇ……疲れました……」
数時間後、様々な身体検査を終えた神癒奈は、満身創痍の姿で建物内を歩き回る。視力、聴力、血液と、様々な検査をとことんされ、神癒奈は非常にグロッキーになっていた。
検査を終えた時に。一階の受付の人のもとへ戻ると、例の配属の話をさせられた。
【貴方の配属は、『異世界特別調査隊四課』になります、現段階ではまだ仮入隊で、本入隊は後日行われる試験と適性検査の結果によって決められるので、覚えておいてください。四課のオフィスは上の階にありますので、向かってください】
"異世界特別調査隊四課"……どうやらそこが、永戸達の言っていた「四課」と呼ばれるところらしく、神癒奈はそこに入ることになったようだ。
なので、神癒奈はエレベーターに乗って、四課のオフィスを探しにいくが、部屋がなかなか見つからず、結果、今、建物の中で迷子になっていた。
「四課ってどこですかぁ……部屋が多くて分かりませんよう……」
涙目になりながら神癒奈は建物の中をうろうろうろうろと歩き続ける。道行く人に聞いて、その通りに歩き続けても、部屋の数があまりにも多く、見つからなかった。
すると、疲れによる不注意か、神癒奈は曲がり角から荷物を持って歩いてきた女性とぶつかってしまう。
「きゃっ⁉︎ ……あっ! ごめんなさい!」
「いたた……あっ書類が!」
ぶつかった衝撃で、ばら撒かれてしまった大量の書類を、女性はせっせと集める。神癒奈も、ぶつかった原因が自分にあるのが申し訳なくなり、床に座ると書類を一緒に集めた。
「はいっ、これ……ごめんなさい、ぶつかってしまって」
「いえいえ、ありがとうございます!」
よくみると、その女性は、神癒奈より少し小さな体格の女性だった。栗色の髪をした女性で、世界を見守る組織であるイストリアには屈強な人間しかいないのかなと神癒奈は思っていたが、こんな小さな人間もいるのかと驚く。
「ここでは見ない顔だけど? 新人さんかな?」
「はい! えっと……異世界特別調査隊四課というところに今日配属されるんです!」
四課に配属されると説明すると、女性は目を丸くした。
「四課……ってことは、ウチの部署じゃないですか!」
どうやら、この女性は四課の人間らしい。神癒奈から四課に入ると聞いた途端、嬉しそうに声をあげた。
「ふぇ? じゃあ、あなたも…?」
「はい! 私、四課のコリー・バーミアスと言います!」
コリーと呼ばれる女性は、荷物を片手に持つと、後輩となる神癒奈に笑顔で敬礼をする。
「よかった、同じ四課の人がいてくれて! 四課の部屋を探していたんですけど、なかなか見つからなくて困ってたんですよ!」
「ここは広くて部署もたくさんありますからね、四課の部屋ならあっちにあります、私が案内しますよ!」
そうして、神癒奈とコリーは四課の部屋まで歩き出す。後輩ができるのが嬉しいのか、コリーはエヘヘと笑って小躍りをしながら歩く。
「わー、嬉しいな! 私に後輩ができるんだぁ、私、部隊では一番下っ端だから、後輩ができるのに憧れてたんだぁ」
全身で嬉しさを表すコリーを見て、神癒奈は面白い人だなと感じた。同時に、これからこんな人達が上司かと考えると、ちょっと楽しそうにくすりと笑う。
しばらく歩いて、ようやく神癒奈は四課のオフィスの前に着いた。殺風景な看板とドアを見て、神癒奈はいよいよかと息を呑む。
「他とは違って数人しかいない小さな部署だけど、すぐに馴染めるから、安心してね」
緊張する神癒奈に対し、コリーがフォローを入れると、彼女は四課のオフィスの扉を開いた。二人は中に入ると、そこは、言われた通り、数人分の机しかない、小さなオフィスだった。
「おっ? 来たか」
「噂の新人くんのお出ましだ」
「ふむ……?」
声のする方へ向くと、そこには、永戸ともう一人若い黒髪の男がいた。他を見てみると、フィアネリスが部屋の隅で静かに立っており、一番奥の机では白髪で穏やかな顔をした初老の男性が新聞を片手に椅子に座り込んでいる。
「ええと、本日付けでここに配属が決まりました! 焔月神癒奈と申します! よろしくお願いします!」
硬い表情で、神癒奈は敬礼をする。すると、永戸の隣にいた男が近寄ってきた。
「神癒奈って言うんだね、ライ・カルカロスだ、よろしく頼むよ」
ライという男が、握手をしようと手を伸ばす。それに対して神癒奈は緊張しながらも握手をすると、彼はそんな神癒奈を見て優しく笑った。すると、奥にいる男性が、神癒奈に声をかけてきた。
「初めまして、神癒奈君、私がここの課長のユリウス・グリフ・レーゲンだ」
奥の机にいた初老の男性、ユリウスと呼ばれる男も、新聞をおいて、彼女の方に向いては挨拶を交わしてきた。凛とした振る舞いをしていて、神癒奈は礼儀正しそうな人だと感心する。
「早速だが神癒奈君、ここの仕事については聞いていると思うが、君はどういう気持ちでここにきたのかな?」
「どういうって……?」
唐突に質問をされて、どういう意図があるのかわからず、神癒奈は黙り込む。正直に言えば、神癒奈には、ここの仕事に、どんな感情を抱いて入ろうとしたのか、まだわからなかった。入隊の話も突然で、流れるように入ったのもあって。神癒奈には自分の抱く感情がどんなものか、まだ理解が難しかったからだ。
「では質問を変えよう、ここの仕事は並大抵の人間がする仕事ではない、異世界特別調査隊とは言われているが、はっきり言えば、表沙汰にはできない汚れ仕事が多い。君に、それをする覚悟はあるかね?」
「あります! どんな仕事でも、私はやってみせます」
「うむ、よろしい」
ユリウスは自分達の仕事が危険でそれをやれるかと神癒奈に問いかけるが、彼女の覚悟を聞くと、反応に満足し、にっこりと笑った。どうやら、仕事をする覚悟の辺りは、永戸からの叱咤などで、すでに決まっていたらしい。
「にしても、永戸が連れてきた新人がまさか九尾の妖狐だなんて、驚いたな」
「ここでは珍しいんです?」
「九尾の妖狐そのものが珍しいからな、けど、こうして部隊に入ってきてくれたんだ、歓迎しよう」
はははと笑い、ユリウスも神癒奈と握手を交わす。周りにいる永戸達も、嬉しそうに彼女の入隊を笑って祝う。そんな風景を見て、小さいながらも、どこか、暖かみのある職場だと、神癒奈は感じた。




