更なる勇者の受難
「うっうぐ……」
神域にて、神癒奈は困った状況になっていた。助手のフィアネリスでさえも引く状況で二人は目の前の光景を受け入れられずにいた。それは…」
「なー、あんたが神様なんだろう? これって異世界転生だよな? だったらさ、俺たち全員にチート能力をくれよ」
「何だよこの空間、俺らついさっきまで授業を受けてたよな⁉︎
「あーもう靴下水浸し!もう最悪、どうしてくれんの!」
所謂学校のクラス丸ごと転生の状況に陥っていた。桐枝が聞いてたら同じ境遇で発狂しそうなこの状況で、子供達相手に神癒奈は声を上げる。
「ええと、皆さんにはこれから異世界に転生していただきます」
「だから力をよこせって、あるんだろ? チート能力」
あまりに横暴な態度に神癒奈は手に持っていた神楽鈴を握り潰してしまいそうなくらいにイライラした。フィアネリスも察したのか耳打ちで「ここは我慢ですよ」と神癒奈を落ち着かせる。
「ええ、ちゃんと皆さん全員分のチート能力はありますよ、転生する世界もちゃんと……っ⁉︎」
羊皮紙で転生目的の部分を見て絶句する。転生目的がなんせ"戦争目的"と堂々と書いてあったからだ。桐枝の時は魔物の討伐という名目はあったとはいえ、今度は誤魔化さずに出してきた。しかも転生する世界が新たに誕生した世界で、戦争する相手がこの前交戦したマシンノイドだった。
「ちょ…ちょーっと待っててくださいね」
神癒奈はフィアネリスを連れると二人でこそこそ会話する。
(いくら何でもダメでしょうこれは!)
(一体誰がこんなクソッタレな目的の転生をさせようとしたのでしょうか)
(私、今度こそボイコットしますよ! 待遇改善のため!)
(それよりも今この状況を何とかしないと旅行気分できた特攻隊が生まれることになりますよ)
神癒奈は振り返ると転生者たちに言った。
「貴方達は転生すると特別な力がつきます! それぞれ個々の能力に応じた力がつくのでそれで"生き残って"ください」
「生き残ってって、何か問題があるんですか?」
転生の違和感に気づいた子供が声を上げる。あーーー気づいてくれた人がいたーと神癒奈は内心喜ぶと、事態の説明をした。
ーーー
「つまり俺たちは、危険なロボットがいる世界でロボットと戦争をするために送られるって事ですか?」
「そう言うことなんです、敵は非常に危険なのでなるべく無理に戦わず、危ないと感じたら逃げてください!」
説明を終えると、生徒達は夢見た異世界転生でないことに絶望し元の世界に帰してくれと望む方が大勢出た。だが返せない、元の世界の彼らは死んでいる事になっているからだ。返そうにも身体の肉片すら残ってない人もいて、返せる気がしない。
「転生しても俺たちは右も左も分からない、俺たちは何を頼ればいいんだ?」
「転生したら、まずは特差二課と呼ばれる人たちを探してください。彼らの庇護を受ければ安全にいられるので!」
特査二課に預ければ安全だろうと神癒奈は説明する。同じ特査なら人命救助の扱いにも長けているはずだ。
「で、でも、僕らを転生させた人が、保護を許すはずはないと思うんです…」
「そこは……! そこは、私に任せてください!」
「神様が? 神様が…何とかしてくれるんですか?」
「はい! 貴方達を転生させたら、すぐに追いかけます! だから、希望を捨てないで!」
そう言うと神癒奈は世界への転送を行う。転生者達は混乱の渦の中にいるが、最後に神癒奈は言った。
「貴方達は、必ず私たちが守ります! だから、決して負けないでください!」
その言葉で送り出すと、神癒奈はすぐに服を着替え、四課のオフィスに向かった。
ーーー
「そういうことなんです! 力を貸してください!」
四課のオフィスにて神癒奈は頭を下げる。勝手な依頼を用意して怒られるかもしれない、厄介ごとを増やしてどやされるかもしれない、そう思いながらも彼女は頭を下げたが、その時、桐枝が声を上げた。
「頭あげてくださいよ、その話だと、きりちゃんと同じ目に遭うかもしれない子供が大勢いるってことっすよね、だったら協力するっす」
「…桐枝さん…!」
「子供達が危険に遭おうとしてるんだろう、なら、私たちが彼らを守らなければね」
「しょーがないわね、依頼にはないけどアタシが特例で依頼を回しておくわ、ちゃんと、守るのよ」
「はい!」
桐枝が協力すると言った途端、他のメンバー達も協力の意を示した。四課はいつでも出撃可能なようだ。
「課長…そう言うわけです、行ってきても構わないですよね」
永戸がユリウスに問いかける。するとユリウスはにっこり笑いエールを送った。
「うむ、我々の目的は異世界の平和を守ること、今回の任務はただの人命救助だ、何の問題もないよ」
「課長!」
「だが、場所は新世界、マシンノイドが動き回っている可能性がある、完全な未知の領域だ。私から二課に調査隊の増員として四課のメンバーを送ることを言っておこう、あとは、君たちに任せる、四課総員、出撃だ」
『はい!』
ユリウスから命令が下され、神癒奈達は今すぐ出撃の準備に入った。それぞれが持てる武器や装備、あらゆるものを持ち出し、長期作戦の準備に入る。
「新人、今回は実戦だ。分からないことがあれば聞いていいし、先輩の動きを見て、よく学んでおくように」
『はい!』
「よし、行くぞ」
オフィスから13人のメンバー全員が出て、それぞれのタスクをこなしながら車両の格納庫へと向かう。格納庫には、魔道エンジン搭載の新型装甲車が2台、新型トライクが2台用意されていた。
トライク2台には永戸とライがそれぞれ乗り、フィアネリスやエイルは装備を着て立ち、他のメンバーは装甲車に乗り込んだ。所定の位置まで車を動かすと、転移装置が起動し、四課のメンバーは行き先となる新世界へと送られた。
ーーー
新世界へと送られた四課、そこで見たのは…。
「凄い…」
「緑が、溢れてます」
そこは、緑あふれる世界で、木々の生い茂った森や、水が張られた沼地など、何も手のついてない世界だった。が、多少の人の往来はしていたようで、一定のレベルの文明が発達していた。
「強いて言うなら、アメリカの西部の開拓時代みたいだな」
「なんです? アメリカって」
「昔いた世界の話だ、あんま気にすんな」
街中には一攫千金を夢見た冒険者たちが、自然の環境に整備された街で歩き回っていた。建物はすべて木材でできており、一応機械もある程度あったが、まだ未整備なのか、電気は回ってなかった。
「フィーネ、防衛対象と二課の位置はわかるか」
「はい、防衛対象はマッピングがされてないここから数十キロ離れた土地にいます、二課はこの街のはずれに、要救助者の情報は逐次Eフォンのマップアプリに映しておきますね」
「だそうだ、神癒奈、俺たちは転生した学生達を探しに行こう」
「了解した、ならこちらは、二課と合流してレナルド課長の機嫌取りをしてくるよ」
メンバーは半分に分かれ、二課の方にはライと新人達が、残る半分は全員学生達を探しに行くことになった。時間は朝方、澄んだ緑の空気が鼻に入る…だが毒ガスを警戒して全員マスクやヘルメットを着用した。
「行くぞ」
街の降りてきた場所を転移用のポイントに指定すると、永戸の命令で車が動き出した。新たな世界の草原を、永戸たちは走る。
「神癒奈、装甲車の上のハッチを開けて顔を出してみろ、空気が心地いいぞ」
言われた通りハッチを開けて装甲車の上に体を晒す。すると突き抜ける風の感覚があってとても心地よかった。周りには一面緑の大地が広がっており芽生えた大地で魔物達が生きていた。
「すごい、景色が綺麗です」
「まだ人の手の加わりが少ない世界だからな、こう言う世界は景色がいいんだ」
Eフォンを出してマップデータを見ると、フィアネリスのマッピングで世界が綺麗に記録されていき、これまで辿った道がわかる。上空を見上げるとフィアネリスが偵察用に変形させて飛んでいた。
周囲に警戒すべき敵の存在はない、好都合だと全員は車両を走らせる。暫くすると目的地の勇者達のいる街までついた。
車から全員降りて周りを見渡すが、最初の街と同様にまだ開拓したての文明の街になっていた。だが奇妙なことに、人の姿は通りにはなかった。
ひとまず、全員で周囲の探索を行う
「何も…誰もいないなんて不気味ね……」
「いや…違いますね」
フィアネリスが目配せをする。すると、建物の影から住民達がコチラを見ているのがわかった。
「我々が余所者であることを警戒しているのでしょうか」
「それにしたっては目つきのぎらつきようが半端ないっすね、まるで敵視されているようで…」
「…嫌な予感がする、早く子供達の方へ向かおう?」
子供達のいる方へ永戸達は歩く。やはりずっと見ているのか、街の住民は建物の影からずっと睨むように見ていた。そして、子供がいるはずの目的地に着く。それを見た途端、永戸達は息を呑んだ
「おら! 死にたくなければ訓練を受けろ! これは救世の英雄になるための訓練なんだ!」
そこでは、駐屯していた軍の人間が、子供達に厳しい訓練をしていた。互いに戦わせたり、危険な地帯を通過させたり、一歩間違えれば犠牲者が出かねないトレーニングを行なっていた。
「もう、やだよ…」
「怠けるな! お前達が戦わなければ、我々はこの戦争に勝てやしない! あのロボットどもを駆逐することができないのだ!」
「だからって、仲間同士で戦うのはどうかしてるよ!」
「うるさい!」
鞭が振るわれ、子供はなすすべもなく暴力を受ける。
神癒奈は、その場から心の声を聞く。「助けて」と、多くの者が心で叫んでいるのが聞こえた。
その声を聞き取ると、神癒奈は訓練場に入り、声を上げる。
「やめてください!」
「…何だお前は、軍の外の者が、勝手に口出しをするな!」
鞭が振るわれるが、神癒奈はその鞭を切り刻んだ。
「貴方達ですね! 年端も行かない子供達を戦争目的のために異世界転生させたのは!」
「何でそれを……テメェらは何なんだ!」
神癒奈と軍人の揉め事を聞いてか、訓練していた子供達の動きが止まり、声のする方へ振り向く。
「なぁ、あの狐の人って!」
「俺たちを守るって言ったあの神様じゃないのか⁉︎」
子供達が希望を抱く中、神癒奈は口につけていたマスクを取ると、鋭い視線で言った。
「私達は、異世界特別調査隊四課、死神と恐れられた部隊ですよ!」
その言葉を聞いてやばい組織と悟ったのか、その場にいた軍の人間どころか、街中の人間が一斉に現れて武器を向けてきた。
「お前ら、ここがどこだか分かってんのか? ここは一つの町に偽装した大きな軍事基地だ、それを、たった7人、しかもほとんど女がこんなガキどもを救うために戦うだと? やれるわけがない!」
「一人でも子供を傷つけてみてください……その時は、災厄を起こしますよ」
神癒奈の体から放たれるオーラが神聖なものから禍々しいものへと変わる。そのオーラを浴びた軍人達は一瞬怯えすくんだ。
「お前らなんか…ただの兵士如き怖かねぇ! 総員! 第一種戦闘配置!」
神癒奈達を囲んで、兵士達が動く。その時、永戸から戦いの火蓋を切り落とす言葉が言われた。
「戦闘開始、障害を排除するんだ」
『了解!』




