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ヒトとキツネの異世界黙示録  作者: 遊戯九尾
最終章 終わり、始まる世界
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お引越し

「提案しまぁあああす!」


 仕事のない休日の朝、フィアネリスの怒号が聞こえた。


「め、めずらしいじゃないか、お前がこんな声張り上げるなんて」


 コーヒー片手に永戸が冷や汗をかきながら言う。実際のところ、フィアネリスが家庭で声を荒げる事態なんてないに等しかった。が、珍しく今、フィアネリスが声を上げた。


「新しい住処を買うことを提案します!」

「引っ越したいの? なんで?」

「なんでって……そこにいる泥棒猫の管理が大変だからです!」

「……にゃ?」


 永戸にべったりくっついている渚を指を差し、フィアネリスが声を荒げた。


「いやまぁ…兄妹だし、一緒にいるのは当たり前なんじゃないか?」

「貴方は何もわかっていません! 私が夜な夜などれだけ苦労して渚様を押さえてるのか!」


 そう言うとフィアネリスは理由を説明し始めた。


「食べ物は飲み散らかす! 汚れた手で本に触れる! 冷蔵庫のおやつを勝手に取る! ベッドを汚くする! テレビを占領する! 挙げたらキリがありません!」

「だって、おにぃちゃんの部屋で住ませてくれないもん!」

「兄妹だから何かの間違いも起きないと思うし、別に一緒でもいいんじゃないか?」


 永戸も困ったなぁと言う顔でフィアネリスに言うが、フィアネリスはそこですよと言ってきた。


「マスター⁉︎ 正気ですか⁉︎ 渚様は毎晩貴方の貞操を奪おうと部屋に行こうとするのですよ!」

「えっ……」


 それを聞いた永戸は渚の方へ振り向く。すると渚はバツが悪そうに目を背けた。


「…マジ?」

「大真面目です! マスターも知ってると思いますが、渚様は……」


 すぅっと息を吸うと、家中のフィアネリスは叫んだ。


「渚様は精気を喰らうサキュバス、それも、それをすべる女王(クイーン)になる存在ですから!」


 そう、渚は人間ではない、正確には人間ではあったのだが、ある理由でサキュバスの体になっていた。ふーっふーっと荒げた声でフィアネリスは、説明を始める。


「隙あれば貴方様の部屋に忍び寄ろうとし、忍び込んだと思えば貞操を奪おうとし、服を脱ぎ散らかしては一緒に寝ようとし、私の部屋に縛りつけたら魔法解除(ディスペル)までしてマスターの部屋に入ろうとするのですからね!」

「…そうなのか?」


 永戸も身の危機を感じたのか震えながら渚に聞いた。すると渚ははーばれちゃったかーと声を上げると、こう話した。


「そうだよ、サキュバスなら精気を喰らって当然じゃん、この家に男はおにぃちゃんしかいないんだから、別に狐のおねぇちゃんでもフィーネでもいいんだけど、やっぱり男のでないと足りなく感じてさぁ」

「でもお前、精力補給用のエナドリとかあるだろ、あれどうした?」

「アレ? あんなの、その場凌ぎにしかなんないよ、やっぱり濃厚なのが欲しいからね」


 ヘッドフォンを外すと、淫魔の尻尾と角を出して、髪色が黒髪から少々青がかった白髪に変わり、渚はぺろっと舌を出しておちょくる。


「兎も角! 私は引っ越しを提案します! こんな生活を続けていては、マスターの貞操がいくらあっても足りませんからね! それがダメならば家から追い出します!」

「追い出すってそんな、そこまで横暴にならなくても」

「貴方は自身の妹に搾り取られて死にたいのですか⁉︎」

「それは……あぁ、うん、やだな」


 永戸も納得したのか目を逸らして頷いた。すると渚は永戸の手を取って聞いてくる。


「おにぃちゃん、こんなに可愛い妹を追い出すの…?」

「………」


 渚のうるうるとした瞳を見て、永戸は彼女が可哀想に思ったが、ここで違和感を感じ、零をびりっと彼女に当ててみた。


「痛っ!! なんで魅了しようとしてるのに気づいたの⁉︎」

「なんだか頭の中をぐちゃぐちゃにされてるような感じがしたから……危なかった」


 後少し判断が遅れてたら彼女の魅了で堕ちていただろうと考えると、永戸はふぅっとため息を吐く。


「分かった、いつまでもこのマンションじゃなんか狭いしな、引っ越し、するか」


 そうして、永戸達凸凹異種族パーティーの引っ越しが決定したのだった。


 ーーー


「引っ越しを決めるなんて随分大胆な判断でしたね? しかもいい物件まで見繕ってもらうだなんて、お金とか大丈夫だったんですか?」


 知らないうちに引越しが決まり、部屋から荷物を転移魔法で持ち出していた神癒奈が永戸に聞く。


「四課は任務がキツい分対価も相応に支払われるからな、この都市の立地のいい家を買うくらいなら余裕あったんだよ、まぁ今まではフィーネやお前と暮らしてたから引っ越す気は無かったんだけどさ」


 永戸も荷物を持つと転移用のゲートを潜っては向こうの物件に物を置きに行く。そういえばと思って神癒奈は渚について聞いた。


「妹って言ってましたけど、渚さんと永戸さんって本当に家族なんですか?」

「あぁ、生まれや育ちは違うけど渚は俺の唯一の家族であり妹だ」

「でも永戸さんの家族って全員……」


 飛行機事故で死んだはずと神癒奈は言おうとした、永戸も察したのか、わけを話す。


「あぁ、家族まとめて死んだ。けど渚は俺の母さんの胎内にいたんだよ。あいつは生まれる前に死んだ。けど、なんの因果か2人とも転生して、別々の道を辿って、で、これまたなんの因果か兄妹揃って再開できたんだ」

「再開したのはいつなんです?」

「イストリアができてすぐの頃かな、課長と一緒にナハトヴォルフに提携を結びに行った時に会った。最初は互いに兄妹とは思えなかったけど、病院の検査を受けたら同じ血筋だって分かってね、それ以降は時間があれば会いに行ってたんだ、まぁ、結局一緒に暮らすことになったけどさ」


 次の荷物へと永戸がむかい、持ち上げては運ぶ。神癒奈は2人のことを考えた。家族を失った自分とは違って、違う運命を辿ったとしてもちゃんと一緒になれた家族なんだなと。


「渚さん、大切にしてあげてくださいね」

「…分かってるさ、大事な家族だからな」

「なーに話してるの?」


 その時、自分の荷物を移動し終えた渚が部屋から出てきた。にぱーっとした笑顔で2人を見る。


「なんでもないですよ、荷物を移動し終えたなら部屋でゆっくりしててくださいね」

「はーい! あ、そうだ……名前、みゆな…だっけ、みゆにゃんって呼んでいい?」

「はい、大丈夫ですよ」

「ありがと! よろしくみゆにゃん!」


 ぎゅっと抱きついて笑顔を見せては彼女は自分の部屋へと行った。それをみて神癒奈は笑顔をこぼす。


「元気な子ですね」

「裏路地で強く生きてた子だからな、あいつもなかなかやるよ」


 そうして引越しの作業は進み、しばらくして、荷物の完全な移動が終わった。


 ーーー


 その夜……各々に部屋が割り当てられ、寝静まった頃のことだった。


「…ふふーん」


 こっそりと部屋を抜け出した渚が永戸の部屋に行く。


「げ……鍵付きの部屋に住んでるのか…なーんて、こんなのボクには関係ないもんね」


 魔法で扉の鍵を開けようとするが、おかしな事に鍵が開かない。


「あれ? なんで開かないんだ? このっ…開けって…!」


 ガチャガチャと鍵をいじるが全然開かない、そうしている時だった。


「あぁ、そこの鍵は開きませんよ、最高級の鍵にしておきましたので」

「へーそっかー、それなら納得……⁉︎」


 声が聞こえたので振り返るとそこには笑顔のフィアネリスがいた。


「ふぃ…フィーネ……なんで?」

「貴方が部屋に入ろうとすることは分かりきっていましたのでね、部屋自体を特殊な魔法で覆って外敵の侵入を不可にしているのですよ」

「へ、へぇ……そんなすごい技術があったんだ」


 汗ダラダラで渚は自分の部屋に戻ろうとするが、ガシッと肩をフィアネリスに掴まれた。


「逃がしませんよ……たっぷりといたぶって差し上げますから」

「えっちょっ! 離せよ! ボクもう悪いことしないから! どこに連れてくのさ!」

「私の書斎です、今から貴方にたっぷりと調教を施しますので」

「嫌だ! 怖いよ! 助けてよ! おにぃちゃああああん!」


 その夜、渚の悲鳴とフィアネリスの悦ぶ声が聞こえたらしいのだが、永戸と神癒奈は部屋でそれぞれぐっすり眠っていたのだとか。

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