エントリー
イストリア第61支部のビルの中にあるジム、その中で、四課のメンバーはトレーニングをしていた。
そんな中、永戸がこんな事を話し始める。
「最近、裏路地にコロシアムができたっての、知ってるか?」
「裏路地? 君はそんなところに行ってるのかい?」
「行っちゃいけないのか?」
「行っちゃって…そりゃダメだろう、あそこに行くなんて百害あって一利なしだぞ」
ダンベルを上げるライからそう言われ、腹筋中の永戸はそんなもんか? と考える。
裏路地は余程の者でなければ入った瞬間事件に巻き込まれかねないほど危険な場所だ。
英雄殺しの肩書を持つ永戸だからこそ、闊歩できてるが、普通なら殺されかねない。
「で、そのコロシアムがどうしたって?」
一応内容が気になるのか、ライは永戸に質問をする。
「今、亜人を戦わせるのがブームらしいってさ、前にほら、亜人特区の改善されるって話が出ただろ、それで裏路地の方の亜人も、生活の改善を望んだそうだ、んで、戦って正式な市民権を掴み取るためのコロシアムができたってさ、まぁ…中身はどれも八百長試合で亜人側が負けて死ぬってことになってるらしい」
「見え透いた大人の嘘が見える汚い話だな、市民権なんていう絶対に取れないものをぶら下げて、金稼ぎの道具にして」
亜人の戦いなら俺たちは関係ないかと永戸達はまたトレーニングに励もうとするが、するとここで神癒奈がふと呟く。
「裏路地、コロシアム……そんなところがあるんですね?」
「知らない方がいい話ですよ…裏路地の治安の悪さは普通のこの都市とは比べ物にならないくらい危険な場所ですから…」
「ッアーーー! 足が折れる! エイル先輩はトレーニングのサポートに集中してぇええええ!」
桐枝のトレーニングを相変わらずサポートしていたエイルが、神癒奈にそう答える。
「でもこの都市って亜人特区があるんでしょう? なんで裏路地の亜人はそっちに暮らさないんですか?」
「裏路地はこの都市に住む最終手段なんです、この都市は他の都市と比べてあらゆる面で整備されててとても暮らしやすい場所で、亜人特区も排他された亜人が集まって暮らす場所ですがそれなりの市民権が約束されてる場所です。ですが、人も亜人も関係なく、都市の市民権をまともに得られなかった者達は、裏路地に入り、命を賭けてもなんとか暮らそうとするんですよ」
「そこまでしてでも暮らしたがるのですね…」
「そんな事よりきりちゃんの心配をしてほしいっす! 足が! 脚部がぁあああ!」
桐枝の悲鳴をよそに神癒奈は都市の外縁部から外の景色について思い出す。
一度、外縁部の方へ任務に向かったことがあったのだが、街の外は都市に入りたがる難民のキャンプがあったり、魔物が跋扈している程荒れ果てた場所になっていた。
そんな景色を見た事を思い出すと、たとえ危険と分かっていても裏路地に暮らしたがる人の気持ちがわかる気がした。
「みんな、仕事よ、課長が来るようにと」
「分かった」
「はい!」
「た、助かった…」
仕事を伝えにきたリオーネに全員がトレーニングをやめ、四課のオフィスへと向かった。
ーーー
オフィスに集まるといつものようにユリウスがニコニコとしながら待っていた。これからまたロクでもない任務が伝えられるんだろうなぁと全員が思う中、ユリウスが口を開く。
「さて、今回の任務はアーティファクトの回収だ」
「アーティ……ファクト?」
なんだろうと神癒奈は首を傾げる、すると永戸が簡単に説明した。
「要は聖遺物だよ、神々が作り上げた伝説の武器とか、人類が過去に生み出したオーパーツとか、異世界の技術的に解明できないものをそう呼ぶんだ。それで、目標のアーティファクトはどこにあるんですか?」
「今回回収を行うアーティファクトは裏路地のコロシアムにて勝者の報酬として出されている、名は"百獣の王冠"」
全員のEフォンにデータが送られ、そこにあったのは金色でギラついた装飾のついた王冠だった。
「百獣の王冠、これがあれば、あらゆる人を統べる王になれる……はて、こんな王冠が、何故裏路地のコロシアムなどにあるのでしょうか?」
「おそらくは裏ルートで入手したのだろう。コロシアムの大会運営者がこれを報酬にするとつい先日広報されたのだよ」
王冠の効果を見て、フィアネリスがふむ…と見つめる。見た目は普通の王冠だが、アーティファクトとはそんなにすごいものなのか、神癒奈は疑問に思った。
「早速王冠の奪取に向かいたい…ところなのだが、厄介な事にこの王冠は裏路地のマフィアによって厳重に管理されている、力づくで奪おうとすれば都市で乱戦になるのは不可避だ、それに、王冠の力を万が一使われたら、こちらの勝ち目はない、と、そこでだ、今回の任務は亜人組、つまりは神癒奈君とエイル君にメンバーを絞る事にした」
うんうんと頷くと、ユリウスは神癒奈とエイルに向けて言った。
「私達2人に…ですか?」
「うむ、君たちの役目はコロシアムで勝ち進み、優勝して王冠を入手する事」
「それってつまり…」
「向こうのルールに則って真っ向から勝負するという事になる」
罠があるかもしれない中、飛び込んでこいとユリウスは目で語る、だが神癒奈はそれを了承した。
「現地の参加云々はアタシが裏で根回ししておくわ、こう言うのには顔がきくから、アンタ達はアタシの名義で参加という事になるわ」
リオーネが胸を張ってそう答えると、ユリウスが最後にと口を開いた。
「他のメンバーは万が一の時を考え、最低限の武装でコロシアムに紛れ込むように、いざとなればイカサマをしても構わない」
何も向こうの土俵で堂々と戦う必要はないと、ユリウスは落ち着いた口調で言った。
ーーー
コロシアム当日の日、目立たない姿でこいと通達を受けた神癒奈は、武器はいつもの夜廻桜ではなくごく普通の刀で、服装も地味な服と防具を着て、尻尾を一本に絞って準備を整えた。
「まさか前の異世界で着てた服や防具をもう一度着る事になるなんて」
使っていたのは永戸と最初に出会った時の格好だった、この作戦の為に、永戸が神癒奈に用意してくれた。
「永戸さんも案外粋な事をしますね」
目的となる裏路地の前にまでつき、神癒奈は他の人が来るまで待つ。しばらくするとエイルがやってきた。
「お待たせしました…神癒奈さんは…本当に地味な格好で来ましたね」
「そう言うエイルさんこそ、武器、最低限しか持ってないじゃないですか」
防具なしのローブで来たエイルだが、愛用のバトルアックスはおろか、少し長めのロングソード一本でやってきた。
「2人ともちゃんと来たようね、今日は頼むわよ」
最後にリオーネがやってくるが重役らしいピシッとしたドレスで来た。一番新人のくせして偉そうな態度だが一応四課唯一の独立支援者なので2人は何も言わない。ここにフィアネリスがいたら物凄い毒舌を吐きそうだと神癒奈は思い、ホッとした。
「じゃあ行くわよ、アタシの後ろをついてきなさい」
そうして三人は裏路地の中へ入っていく。裏路地の通りは表の都市の通りとは違い、入り組んでて、尚且つ薄暗く、家のないホームレスや荒くれ者達があちこちにいた。
そうして歩いていると、2人の荒くれ者に出会い、声をかけられる。
「おい、随分な格好したお嬢さんじゃないか、けどなぁ、ここを通りたければ金をよこしな」
「…はぁ、なんで?」
「ここが俺たちの縄張りだからだよ、わりぃが通行料を取ってんだ、道を開けて欲しければさっさと金を出しな?」
「分かったわ、いくら差し出せばいいのかしら?」
すると、男達は下卑た笑みで額を提示してきた。
「有り金全部だ、そら、さしだせ!」
そう言うと男はリオーネの手を取るが、その瞬間、リオーネの体が変化し、狭い裏路地に巨大な竜が顕現した。
『それじゃ額が小さすぎるわ、通行料は、アンタ達の命って事でいいわね?』
「は…え………ひ…ひぃいいいいいっ⁉︎」
「化け物ぉおおおっ!」
ドラゴンの姿で脅すとあっという間に荒くれ者たちは去っていく。つまんないわねとリオーネは元の姿に戻ると、再び歩き出した。
(リオーネさんってドラゴンって聞きますけど、実際どのくらい強いんでしょうか?)
(現時点で確認できるサイズだとまともな人間では太刀打ちできないレベルですね、ですが、見る限りまだ変化する余地はあると思います)
「聞こえてるわよ、一応アレでもサイズは抑えてる方だから、最大サイズが見たいならまた今度にして」
2人でこそこそ話してると、気づいてたのか、リオーネがそう返してきた。
しばらく歩くと、目標となるコロシアムが見えた。
「ついたわ、2人は選手の待合室に行ってなさい、エントリーはアタシがやっておくから」
「わかりました」
そう言われると神癒奈達は脇の通路を通って選手達が集う待合室に行った。




