これが世に言う『ツンデレ』か
その日の夜。
俺の部屋には継母と義姉2人がやってきた。
「全く……相変わらず寒いし汚いわね」
そんな第一声言いながらハンカチを口元に添えて、嫌そうな顔をする継母。
(だったら来なけりゃいいのに)
というか、俺をこの部屋に追いやったのはそもそも継母なのに。
よく言えたものである。
「何の用事ですか?」と俺が尋ねれば、継母はこんな事を言ってきた。
「お前に新しい仕事をあげるわ、喜びなさい」
それを合図に、義姉達が俺に上等な布状の物を押し付けてきた。
反射的に受け取ると、継母がニンマリと微笑む。
「明日、お城で舞踏会が開かれるの。だから夕方までにこのドレスを直しなさい」
急なお達しだったから今からドレスを新調すると特急料金が掛かるし、その点アンタに任せればタダだから。
そんな風に言葉を続けた彼女に、俺は思わず「ははーん」と思った。
この流れには覚えがある。
ついに『シンデレラ』のイベント発生という訳だ。
「期限までにちゃんと3着仕上げなさい! 着まわしてるなんて周りにバレたら恥だから、そうと分からないように完璧に! プロと遜色ない様に! 良いわね?」
そう言うと、満足したのか。
彼女はいち早く部屋を出て行った。
ソレに続いて、義姉の1人が出ていく。
そして最後に。
退室する直前に、オネエサマが一度こちらを振り返った。
しかしすぐに踵を返し、慌てて先を行く2人の背中を追う。
そんな彼女の後ろ姿を見送りながら、俺は思わず「可愛いところもあるんだな……」と独り言ちる。
さっき、彼女の顔には不安げな表情が浮かんでいた。
おそらくあれは、俺を心配してくれたのだろう。
心配するのも無理はない。
だって確かにこれは無茶振りだ。
もしもこれが、俺でなければ。
3人が去って、部屋が再びの静寂に包まれる中。
「……よし」
俺は小さな声で自身のやる気スイッチを押した。
彼女達の居た場所には、小箱が一つ置かれている。
多分ソーイングセットだろう。
(糸と針、そして改造する服達さえあれば、俺には十分だ)
なんせ俺は、インドアを極めたが故に最近では服を自分で作る様になっていた。
何故かって?
だって服屋に行って店員に絡まれたくないじゃん。
そういう奴らって大体がリア充、つまり俺の天敵だ。
(……いやまぁ、もしかしたらただの被害妄想かもしれないけど)
そしてネット注文をすれば、届けに来るのは配達のお兄さんである。
奴らも存外、キラキラしている。
汗水垂らして働くのは、そんなにも有意義なのかと思うくらいに。
そしてそのキラキラは、やはり俺の天敵だ。
(……まぁこれも、ただの被害妄想かもしれないけど)
まぁ、とりあえず。
そんな経緯の元で磨いた俺のYouTube仕込み裁縫スキルを以ってすれば、こんなの朝飯前だ。
(三着も服があれば、材料にも事欠かないしな)
それぞれを裁断して縫い直し、新しい服を三着作る。
俺がすべきはたったそれだけの事だ。
「……よし、オネエサマのは一段と力を入れてあげよう」
ちょっと可愛いオネエサマを1段階特別扱いする事に決めてから、俺は自身の手元に没頭し始めたのだった。
***
次の日の昼。
「シンデレラ? もう出来たでしょうね?」
そんな声と共に、俺の部屋に3人がやってきた。
その顔には明らかな『意地の悪さ』が浮かんでいる。
間違いなく、作業の終わっていない俺を罵倒しに来た顔だ。
予定では、ドレスは夕方までに出来れば良い筈である。
(きっと俺に文句をつけて遊ぼうという魂胆なんだろうな。まぁ、「進捗具合を確認する」っていう側面もあるのかもしれないけど)
しかしそんな彼女の目論見は、ものの見事に外れる事になる。
何故なら。
「はい、義母さま」
既にドレスは完成しているのだから。
俺が3人にドレスを見せると、まず口を開いたのは義姉だった。
「あら、前よりも可愛いじゃない!」
彼女は、弾んだ声でただシンプルに喜んだ。
そしてその隣で。
「凄い、まるでお店に頼んだみたいに綺麗な仕上がり……」
オネエサマが、そんな賞賛を呟く。
その声に、何故だか心が温度を持った。
驚きながらも瞳の中の煌めきを隠せていないオネエサマの様子を、俺はどこかくすぐったさを抱えながら眺める。
すると。
「っ! べ、別に普通ね!」
俺の視線に気付くと、今度は一転そんな言葉を吐いてくる。
そんな彼女に、俺はというと。
(ーーなるほど、これが世に言う『ツンデレ』か)
そう思って、心のポカポカを堪能してると。
「フンッ、まぁ良いわ。2人とも、早くこれに着替えなさい」
継母が2人にそんな指示を出し、早々に部屋から退室させる。
そして最後に。
「ご苦労だったわねシンデレラ。でも貴女はお留守番。だってドレスが無いんだもの」
俺をいびるという目的を最後の最後で果たして、彼女は去っていった。




