第一章 四月その8
カーリング部初日はあっという間に終わった。
シートを借りている時間は一時間のみ。
部活時間と考えると、確かに短い。
「どうだったかな?」
と、旭先輩。
「…難しいですね」
うんうんと旭先輩がうなずく。
野山先輩がすーっと滑りながら近づく。
「…楽しかった?」
「…あ、はい。楽しかったですよ」
「ニヤニヤ(。-∀-)」
絵に書いたようなニヤニヤ顔。
「ニヤニヤって言葉に出てますけど」
「ニヤニヤ」
そこに長峰友利も加わる。
「友利、お前もか!?」
「行こう、諸君!匙を投げた!」
「…匙投げたらダメだろう。賽投げろ」
友利と息のあったボケとツッコミを繰り広げる。
そんな様子をじーっと野山先輩が見つめる。
今なら、分かる。あれはきっと邪悪な妄想をしている瞳だ。
「(¬_¬)」
ふ、と。近付いた野山先輩の香りがした。
いや、例えばそれはキャスケットの柔軟剤の香りなんだろうけど。
カーリングってすごくクリーンなスポーツだな、と思う。
剣道をやっていた頃は、それはもう汗の臭いが凄かった。
カーリングでももちろん汗はかいているけど気になる程ではなかった。
そして僕はカーリングというスポーツに好感をもっている自分に気付く。
それは同時に今日出会った友利や旭先輩、野山先輩への好感でもあった。