第五章 八月その30
下の階でドアが閉まる音がする。
黒崎が家を出たのだろう。
僕の部屋に僕とリューリ二人きりになる。
前にも二人になったことはある。
…あのときに僕はリューリからリョージさんと関係を持ったことを聞いたのだった。
思い出したくないことが次々と脳裏に浮かんで頭を振る。
「…大丈夫?」
リューリが僕を覗き込む。
二段ベッドの天井は低いので、自然と僕に覆い被さる体勢になる。
…顔が、胸が近い。
リューリに真っ直ぐ見つめられ、僕は目を逸らす。
「もう、大丈夫だよ」
『少しは心配してくれた?』
と聞こうとして僕は迷う。
「そう。頭痛は?大丈夫?」
「うん。もうほとんどない」
「そう。なら…」
リューリが言葉を区切る。
突然の沈黙に僕は驚いて彼女の目を見る。
「本当に心配したわ!!」
思い切り叱られる。
びくっっ!僕はタオルケットを口元まで上げる。
「いきなり目の前で倒れたらびっくりするわ!体調管理くらいしっかりしなさいよ!!今度ミックスダブルスの試合もあるのよ!?その前に倒れてどうするの!?人のこと体力ないだの散々言っておいて自分が倒れるんじゃないわよ!」
そこまで一息に言ってからまたすぅっと息を吸う、リューリ。
また来る!と身構える僕。
「それに昨日のは何!?言いたい事だけ言って置いていかないでほしいわ!ようやく…」
そこでトーンダウンする。
「…ようやく自分の気持ちを伝えてくれたのに…」
そのまま静かになる。
「…なのに私の返事も聞かないでどっか行くとか何なのよそれは!?最後まで、最後まできちんと話しなさいよ!!」
また急上昇する。
まるでジェットコースターみたいだ、とは口が裂けても言えない。




