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エピローグ せかいのてき

 エピローグです。

 ハッピーエンドかどうかは、あなたの判断に任せます。

 六月十三日



 単純な話をしよう。

 ある所に、みっちゃんそっくりな女の子がいました。

 ある所に、なっちゃんそっくりな女の子がいました。

 でも、彼女はみっちゃんほど強くなくて、

 でも、彼女はなっちゃんほど優しくありませんでした。

 みっちゃんそっくりな女の子は、僕に告白してくれました。

 僕はそれを素直に嬉しいと思って、僕たちは付き合うことになりました。

 なっちゃんにそっくりな女の子は、僕に嫉妬して、みっちゃんそっくりな彼女と僕を別れさせようとしました。

 それは、明らかな裏切りでした。

 みっちゃんそっくりな彼女は、世界に失望して自殺してしまいました。

 僕は、絶望に満ちた彼女を見つけてしまったのです。

 だから壊しました。

 なっちゃんそっくりな少女を、

 完膚なきまでに破壊しました。

 ねじって。

 折って。

 ひしゃいで。

 割って。

 刻んで。

 崩して。

 壊滅させました。

 僕はそれを一切後悔しませんでした。最低最悪な手段であの子を裏切った彼女のことを、僕は許せませんでしたから。

 後悔したのは、僕があの子を救えなかったこと。

 だから、僕は決意しました。


 世界のありとあらゆる不条理を叩き潰し、


 このちっぽけでありながら最強の力を使って、


 なにもかもを、作り変えてやろうと。


 傍観を忘れた言ノ葉使い。

 最強の相棒にして『箴言奏者』。

 それが、僕の正体。

『語り部失格』、漆磨京介。



 朝の日差しを感じて、少女は目を覚ました。

「やあ、起きた?」

「………え?」

 灰色の髪を持つ少年は、いつも通りに笑っていた。

 少女は目をぱちくりさせて、少年を見つめる。

「あの……貴方は、どちら様でしょうか?」

「僕は漆磨京介。しがない男子高校生だよ。ところで、君、名前は思い出せるかな? 階段から落ちて頭を打ったらしいんだけど」

「名前……ですか?」

 少女は思い出そうとして、

 それが、思い出すことでもないことに気づいた。

 なっちゃん。

「私は……夏木奈津美です。確か、そういう名前だったと思います」

「それ以外のことは? 思い出せる?」

「……いいえ。言葉は話せますけど、思い出せません」

 少女は困惑した瞳で、京介を見つめた。

「私は……何者なんですか?」

「君は、夏木奈津美だよ。ちょっと甘えん坊だけど、とても優しい女の子だ。君の親友が太鼓判を押すくらいだから間違いない」

「親友……?」

「うん。みっちゃんって君が呼んでいた、とても強い女の子だよ」

 少女は、その言葉に聞き覚えを感じる。

 たしかに自分は、彼女のことをみっちゃんと呼んでいた。

「……みっちゃん」

「うん。そうだよ。君たちは友達なんだ」

 京介は微笑みながら、奈津美の頭を撫でた。

「でもね、みっちゃんは今とても頑張ってる。会うことはできないんだ」

「………会いたいです。私、みっちゃんに、会いたい」

「病み上がりなのに無茶を言わないの」

 京介は、苦笑する。

「五年だけ、待ってくれるかな」

「五年ですか?」

「うん。その間に君は自分の体を治して、みっちゃんに胸を張って会えるようにしないとね? その方が、きっとみっちゃんも喜ぶよ。だから、今はゆっくり眠るんだ。いいね?」

「………はい」

 少女は、そう言ってゆっくりと眠りについた。

 少年は笑顔を浮かべながら、少女を起こさないように病室を出た。



 病室の外では、僕のメイドさんが待っていた。

「ご主人様、これで35481人です」

「……全然まったくさっぱり足りないけどね」

「3つの戦争と5つの災厄を食い止めて、それでも足りないのですか?」

「足りないよ。全然足りない。僕は困っている人間を助け、『前を向かせる』ために生きている。卑屈になっても、意味がないことを教えるために生きているんだから」

 救えないものなど、あって当然。

 助けられないものなど、あって当然。

 善もなく、悪もなく、中庸だけが蔓延り、なにが善くてなにが悪いのか曖昧で。

 極者は虐げられ、弱者は排斥され、平均者のみが生き残り。

 自分の想いすら偽善、友情すらも曖昧模糊、愛すらもいつか朽ち果てていく。

 そんな世界、僕は御免だ。

 だからこそ、全てを利用し、全てに利用されよう。ただみんなが笑顔でいられる世界を目指し、走り続けよう。不条理のすべてをぶち壊すために、僕の言葉を使おう。

 夢も希望もある世界を、僕の手で作り出してやる。


 それがあの子を死なせてしまった、僕の責任だ。


「さて、それじゃあそろそろ行こうか。相棒が僕を待っている」

 そして、僕はいつものように歩き出す。


 誰かを、助けるために。



 ちなみに五年後。

 開業したばかりの弁護士事務所で、

「と、いうわけで開業しましたっ! 拍手〜っ!」

「って言っても、従業員は私たち二人しかいませんけど」

「それは言わないお約束っ! さぁ、明日からバリバリ働いて、ガンガン稼ぐわよっ!」

「はいはい。それじゃあ、お昼ご飯にしましょうか」

「お、いいねぇ。引っ越し祝いといえば当然、SUSIでしょ?」

「……近所のスーパーの特売品ですけどね」

「………まぁ、確かにお金はないけどさ、せめて回ってるのにしようよ、なっちゃん」

「どっかの誰かさんがギリギリの予算で事務所を開業するから悪いんですよ、みっちゃん」

「細かい話はさておきっ! 腹ごしらえがすんだら早速仕事よっ!」

「はいはい」

「はいは一回よ、助手っ!」

「はいはい……所長」

 などという会話があったりしたのだが。

 それはまた、別の話。

 と、いうわけでここまでお付き合いしていただき、まことにありがとうございました。

 剣を振らなくても、銃を撃たなくても、

 言葉で誰かを幸せにできますように。

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