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第二十五話 中毒者

 三時間後。


 俺達はルシャル街道にて、一人の耳が無い女と出会った。


「もし、そこのお方……」


「どうしたんですか?」


 おや、どこかで聞いたようなシチュエーションだぞ。


 小さな声でボソボソと呟く女。


 しかし、俺は耳を近づけないで、話を続ける。


「ごにょごにょ……」


「あの、何て言ってるか聞こえないので……もう少し大きな声で喋ってはもらえませんか?」


「ごにょごにょ……」


 女は手招きをして、こちらに耳を近づけるようにハンドサインを送る。


 俺はそれに対して、両手の平を上にあげて首を振った。


「よく分かんないや。行こう、皆」


 そして、会話を切り上げるフリをして、アリサとペグリルを後方に配置し、皆で街道を再び歩き始める。


 すると、やはり後方から地を這うような音が聞こえた。


「耳ぃ、耳を、くださいぃぃ」


「やぁっ!」


「ぐえええ!いだい、いだいぃぃぃぃ!」


 女はアリサの背に飛びつこうと急接近したが、アリサが振るった剣に胴体を斬られ、その場にうずくまった。


「ふぅ。この手の動きはもう見切ったわ」


「お疲れ、アリサ」


「さ、ベクタ。尋問を始めましょ」


 そして俺達は傷口に応急手当を施した上で、女を木に縛りつけ、尋問を始めた。


「アブレポルについて、教えてもらえませんか」


「おお、貴方達、アブレポルを知っているのですか」


「他人(ひと)から聞いただけですけどね」


「そうですか、ひひ、良い、良いことです、アブレポルを知っているのは、ひひひ」


「ぜひ一度、私達も会ってみたいと思ったんです。どこにいらっしゃるのか、教えてはもらえないかしら?」


「わ、わたしを、斬ったのに、ですか?アブレポルを知ってるなら、わたしが、耳を欲がってるって、知ってるはず、ですよね。耳をくれなかったのに、アブレポルに、会いたいん、ですか?」


「ちょっと怖気づいちゃっただけよ。耳を切り落とすんだもの、誰にでもあるでしょう?」


「そ、そう、ですか。なら、仕方ない、ですね、ひひひ、ひひ……。良いですよ、連れて行って、あげます、ひひひひ」


 拘束を解くと、女は立ち上がり、アブレポルの元へ案内すると言って、近くの森へと入っていった。


 道中で女は、纏っていたボロ布から一輪の花を取り出し、気が狂ったかのように嗅ぎ始めた。


「ええ……怖……」


「ススゥ、スゥ、ククゥンクゥン……!いひゃ、えひひひひひひ……!ひひぃ、ひぃ」


「完全に中毒者じゃない」


「終わってるのう、人間として」


「ああはなりたくないね……」


「いひゃひゃ、あひゃひゃひゃ……!これが、これがアブレポルに、耳を捧げると、もらえる、ものです、とても、気持ちが、良くってぇ、ひひひ、スゥゥゥゥゥ……」


「キモい」


 完全に薬物中毒者である。


 俺達は女が花を吸い終わるまで待ち、その後、再び案内を始める女についていった。


 そして、数十分後。


 森の中にひっそりと佇む、祭壇のようなものを発見した。


「こ、ここがぁ、アブレポルの、祭壇、ですぅぅ……!今、呼びますねぇ……!」


 そう言うと、女はまたしてもボロ布の中に隠し持っていた、明らかに人間のものであろう耳をいくつか置き、その場にひれ伏した。


「うえっ……マジで人間の耳じゃん……しかもそこそこ数あるし」


「被害者がそこそこいるっていうのも、本当見たいね」


「物騒じゃのう」


「怖いよ、お兄ちゃん……」


 すると、どこからともなく暴風をが吹き始め、辺りの草木を揺らした。


 現れたのは、全身にボロ布を纏った魔人。


「ザザザ、ザザ……」


 アナログテレビの砂嵐に似た、掠れたような音を出しながら、魔人はゆっくりと女に近づく。


「ああ、アブレポル、様ぁ……!耳を、耳を、持ってきましたぁ……!あと、新入りも、来ていますぅ……どうか、どうかお受け取りください……!」


「ザザ……ザザ……」


 そして、祭壇に供えられた耳を手にしたかと思うと、魔人は続けて女の手に何輪かの花を握らせた。


「あぁ、あぁ、ありがとう、ございますぅ……いひひ、いひひ……!」


「ザザザザザ……ザ……ザザザ……!」


 魔人はこちらを向き、ゆっくりと歩き始める。


「来る……!」


「構えるわよ!皆!」


「うむ!」


「はぁぁ……!」


「ザザ、ザザザザ、ザザ……!」


「……まずいッ!」


 そして、こちらにゆっくりと手を伸ばしたかと思うと、俺の左耳へ、揺らめく右手を伸ばした。


「【シルヴァスラッシュ】!」


 その手に、アリサが斬撃を放つ。


「ザザザ、ザ……!」


 魔人は斬られた胸を右手で押さえながら、後方へ。


「な、ななな、何、してるんですかぁ、アブレポルに、なな、何、をぉ……!」


 戸惑う女を前に、俺達は答える。


「私達は、最初からアブレポルを倒す気で来たのよ」


「これ以上、耳を切られた人も、花の中毒者も、増やす訳にはいかないからね」


「う、嘘ぉ!?嘘、つ、ついたんですかぁ、嘘ぉ?」


「うむ、真っ赤な嘘じゃな」


「誰が新入りになんてなるもんですか、べーっ!」


 メリアは舌を出し、いよいよ女を煽り始めた。


「ザザザ、ジジ……」


 魔人はネジのような音を立て、女の側へ近寄る。


「ああ、アブレポルよ、どうか、どうかこの不届き、不届き者、達を、葬り……!その耳、をおおおおお!?」


 すると、魔人は女の両耳に指を入れた。


「何をするつもりかしら……?」


「あ、ああ、な、何、を、するの、で、ぇぇぇぇぇ!?」


 そして、魔人は耳の穴から、おそらく鼓膜であろうものを引き千切り、それを指先から吸収した。


「ザーザザザ、ザザ……」


 耳を押さえながらその場に寝転ぶ女を尻目に、魔人は再び、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「【パワードスーツ】!【ランガル】!アブレポルを止めるぞ、皆!」


 俺は全員分のパワードスーツと「ランガル」を生成し、自身はランガルのコックピットへ乗り込む。


「ええ!」


「了解じゃ!」


「うん!」


 相手は得体の知れない魔人。


 しかし俺達は一歩も引かずに、戦闘態勢へ入るのであった。

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