第二十四話 フェズリオ名物
俺達が冒険者ギルドの掲示板を見ていると、妙な文言が目に入った。
「『耳狩り』の討伐要請……?」
「これって、あの男とは別よね」
「うん。お兄ちゃんを襲ったのはフェズリオ街道にいた男だけど、この依頼には反対側のルシャル街道って書いてある」
「あんなのが複数おるのか。不気味じゃのう」
「そいつを捕まえて、アブレポルがどこにいるのか、聞き出してみるのも良いかもね」
「そうね。もしかしたら、アブレポルも近くにいるかもしれないし」
俺は依頼書をカウンターへ持っていき、俺達が依頼を受託したことを示す証明書を受け取る。
それをポケットにしまい、早速依頼に書いてあったルシャル街道へ……と行きたいところだが、丁度今はお昼時。
腹の虫が鳴り始める時間であった。
「ねえ、ベクタ。ルシャル街道に行く前に、フェズリオステーキ……食べちゃわない?」
「ステーキ!私、すっごく楽しみにしてたの!お兄ちゃん、ステーキ屋さん行こうよ!」
「ステーキ……肉を鉄板で焼いた料理じゃったな。妾も興味があるのう。肉は大好きじゃ」
「そうだね。依頼に取りかかる前に、腹ごしらえにしようか。何より、元々はステーキ目当てでこの町に来たんだし」
俺達はギルドを出てすぐ、近くにあったステーキハウスへ足を運ぶ。
店の名前は「ステーキハウス シェンツォ・ダッカ」。
おそらく店主の名前なのだろう、入り口に立てかけられていた看板には、ステーキ以外にも、ハンバーグや焼き魚など、様々なメニューが書かれていた。
テーブルに運ばれてきたのは、おそらく一人前300グラムはあるであろう、巨大な肉の塊。
この辺りは、柔らかい肉質を持つ「フェルディオバッファロー」の飼育が盛んであるそうであり、故に、町の名を冠するステーキが名物とされているそうなのである。
「わぁ……!美味しそう!」
「お、大きいわね……!全部食べられるかしら」
「美味そうじゃなぁ。鉄板で焼いた肉の味、とくと楽しませてもらおうではないか」
「いただきまーす」
早速、切り分けた肉にかぶりついてみると、溢れる肉汁と柔らかい肉に舌が踊りだす。
脳に直接訴えかけてくる美味しさというのは、こういうもののことを言うのだろう。
「ん~!美味しいわね!」
「くーっ!やっぱり肉は最高じゃあ!それをここまで上手く調理できる人間も、流石といったところじゃな。食うことにここまで情熱を注げる種族というのは、人間以外に妾は知らぬ」
「私、こんなに美味しいもの初めて食べるよ……!連れてきてくれてありがとう……!」
「皆が喜んでくれて何よりだよ。特にメリアは、今までずっと病気してて美味しいもの食べられなかっただろうから……一度、こうして食べさせてあげたかったんだ」
「お兄ちゃん……!ありがとう、大好き!」
「良かったのう。メリアよ、其方は愛されておるのう」
「お兄ちゃん、私のこと大好きだもんね?」
メリアは目を細め、蠱惑的な笑みでこちらを見る。
「ま、妹だからね」
この言葉に照れ隠しが入っていたことは、言わないでおこう。
「なぁんだ、連れないお兄ちゃん。そんなところも好きなんだけど」
「この兄妹、さてはラブラブじゃな。これは強敵の予感じゃ」
「強敵って、何が?」
「ええい、何でもないわ」
俺達は不思議な空気感のままステーキを食べ進め、ステーキハウスを後にする。
そして、いよいよルシャル街道へ、「耳狩り」の討伐へ向かうのであった。
食事中、俺とアリサは終始、脳内に疑問符を浮かべていたが、きっと気にするようなことでも無いだろうと思い、今は聞き流しておくことにした。




