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第二十三話 耳を集める男

 五日後。


 俺達はフェズリオ町へ向かう途中に通ったフェズリオ街道で、一人の痩せ細った男と出会った。


「もし、そこのお方……」


「どうしたんですか?」


 俺が近くに寄って耳を傾けると、男は続けてこう言う。


「ばあっ!!!」


「うるさっ!?何!?」


 鼓膜を破らんとする勢いで発された声に、俺は思わず数歩後退りをした。


 近くでよくみてみると、男には耳が付いていなかった。


「どうしたの、ベクタ?」


「この人が、俺の耳に向けて大声を……マジで何……?」


「わしはな、こうやって耳を集めておるのじゃ、人の耳の、ごにょごにょ……をな、ひひひ、ひひ」


「何なんだマジで……。もう行こう」


「え、ええ……」


 奇妙な男を置いて、俺達は去ろうと歩き出す。


 おかしな人もいるものだ。


 すると、後ろから猛ダッシュで近づいてくる足音が聞こえた。


「耳、耳ィィ!」


 足音の主は、つい先ほど俺の鼓膜を破ろうと?叫んだ男。


 男は俺の背中にしがみつき、耳に口を近づけようとする。


「ていっ!やっ!」


 俺は裏拳を繰り出し、男を振り払おうとするが、しかし男は攻撃を回避してしぶとくしがみついてくる。


「耳がな、耳が必要なんじゃ、ひひひ」


「た、助けてー!」


「うぐぐぐ……やっ!」


 声に気づいたアリサがいち早く駆けつけてくれ、男を俺から引っぺがしてくれた。


「ひひひ、ひひぃ……。耳をな、耳がな……ひひひ」


「ここは任せて、ベクタ。この男、普通じゃないわ!」


「そうみたいだね。ありがとう、アリサ」


「やれやれ。よく分からんが、其方を傷つける者なら許さんぞ」


 アリサとペクリルは、俺の前に立ちはだかり、構えをとる。


「ひひひぃ、ひひ……!」


 男は姿勢を低くして、這い寄るようにこちらへ迫ってくる。


 アリサは剣を抜き、魔力を纏わせた。


「【シルヴァスラッシュ】!」


 飛びかかろうと腰を上げた男に、アリサの斬撃が襲いかかる。


「ひょいっとな」


「あら?」


 スルリと身を躱して「シルヴァスラッシュ」を回避した男は、そのまま地面を這ってペグリルに近づく。


「セイッ!」


 しかし、そのままぺグリルの前蹴りに顔面を打たれて、男は力なく地面に横たわった。


「ありがとう。アリサ、ぺグリル」


「いいのよ。私の攻撃は躱されちゃったし」


「妾のおかげじゃな。嫁にもらってくれても良いんじゃぞ」


「それはしばらく考えさせてください」


 念のため、俺達は男に尋問をしてみることにした。


 ペグリルとアリサが男を木に縛りつけ、メリアがいつでも「ギガロビーム」を撃てるように構えておく。


「……どれ。では聞かせてもらおうかのう。其方が妾達に襲いかかってきた理由を」


「わしは耳を、耳を集めていてな」


「耳を集めてる……か。どういう理由で?」


「人の耳を、献上するんじゃ。耳の王……『アブレポル』にのう……」


「耳の王……聞いたことが無いわね」


「アブレポルというのはな、魔物じゃ。魔物なのじゃが、良い魔物なのじゃよ。人の耳を好むアブレポルに、耳を献上するのがわしの目的……。理解してもらえたかのう?」


 そんな魔物が良い魔物なわけ無い。


「何その邪教」


「理解できないわね」


「全くじゃ」


「怖ぁい」


「残念じゃなぁ……。アブレポルの加護があれば、わしのような者でも、快楽を得ることができるのじゃ。アブレポルの加護とは、快楽の加護なのじゃ。これが忘れられなくてのう……」


 ジャンキーじゃん。


「麻薬の類かしら?」


「そうじゃろうな。どの道、この男を放っておく訳にはいかぬ」


「そうみたいだね。という訳で俺から提案なんだけど……アブレポルとかいう奴、皆で倒しに行かない?」


「さんせーい」


「そうね。またこの男のような耳狩りが出るのは、治安が乱れる原因になりそうだし」


「そうじゃな。妾の主人から耳を奪おうとした男の親玉じゃ。許してはおけぬ」


「ま、待っておくれぇ、どうか、どうかそれだけはやめて」


 目の焦点が合っていない。


 前世の記憶にあった、ドキュメンタリーとやらに出演していた麻薬中毒者と同じ目をしている。


 俺達は男を殴りつけて気絶させて拘束を解き、近くにあった衛兵の詰所まで引きずっていった。


 そして衛兵に男を引き渡し、軽い事情聴取を受けた後に解放された俺達は、再びフェズリオ町を目指して歩くことにした。


 衛兵曰く、耳を切り取られた者はここ最近で急増しているようであり、しかしその被害は一人の犯行で間に合う程ではなく、犯人は複数いるだろうとの見立てであるとことであった。


 もしかすると、アブレポルとやらの情報も、フェズリオ町にあるかもしれない。


 そして翌日。


 フェズリオ町へ到着した俺達は早速、冒険者ギルドのフェズリオ町支部へ足を運び、「アブレポル」や「耳狩り」などに情報を絞って、掲示板から依頼を探すのであった。

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