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夜の都  作者: 水澤しょう
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トムが粋な恋文を書けるようになるまで ~7~

 そうこうしているうちにリード邸に到着した四人。

 コーディがドアを叩きながら「お母さーん? わたしー」と呼びかける。その間に、ジョゼが「そうだ」とトムに振り返った。


「あとでコーディお姉様に、私の住所をもらってくれる?」

「住所?」

「お手紙のやり取りするの! 構わないかしら?」


 構う、とアルは焦った。なぜならトムは、まだ文字が――


「わかった!」


 アルの心配を余所に、元気よく返答するトム。いいのかお前?


「ちょっと時間が掛かっちゃうかもしれないけど、絶対に送るね!」


 そう言ってアルを見上げ、にーっと笑う。こいつの考えていることは大方わかった。


「アルもジョゼの家まで行く? 久しぶりにルーファスに会えるかも」

「いや、いい!」


 *


 その夜のハックルベリー邸(邸?)にて。


「だから、rの向きが反対。あとmは二回飛び跳ねるんだよ」

「えー? 一回じゃなかったけ?」

「それはn」


 読み書きの指導をしているアルと、涙目になりながらペンを握りしめているトム。

 上手くいかないことに珍しく苛立っている様子のトムだが、ジョゼにかっこつけてしまった手前、それなりに頑張ってはいる。


 先ほど、どうして読み書きが出来ないのに文通相手を引き受けたのか、と尋ねてみたところ、トムは、


「だって物知らずって言われたんだよ! 頭よさそうなお手紙書いて見返さなくちゃ!」


 と息巻いていた。

 心意気は結構なのだが、アルにはわかっている。今のトムには、ジョゼを凌駕するだけの文才がない。あるはずがないのだ。


「……トム」


 教えるのを中断して、トムの目を見る。トムは何? と顔を上げると、シャツの袖で目をごしごしとこすった。


「頭よさそうな手紙を書きたい、とお前は言ったな?」

「うん!」


 トムは頭がいい。昨日コーディがそう言っていた。アルもまあ、そう思う。


 しかし、手紙にはきっと、学の有る無しが関係してくるとも思うのだ。


「ジョゼとトムとでは、知識の量が違いすぎる。知っていることの量がな。それだとトムが、いくら丁寧に字を書いても、いくらかっこいい言葉を使っても、ジョゼより頭のよさそうな手紙は書けない」

「そうなの?」


 悲壮な声を上げるトムに、アルは「ただし」とわざとらしく指を立ててみせた。


「ひとつだけ、解決方法がある」

「なに?」


 トムがテーブルに身を乗り出してきた。アルはもったいぶって微笑むと、既に答えの知れていることを問う。


「トム、お前、




 学校行くか?」


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