⑩-8 深層世界へ
神界には神々が集まっていた。
「魔王神の封印を解くなどあり得ない」
「倒せなければすべての世界に被害が出るんだぞ」
「どれだけの苦労をして封印したと思っているんだ」
反対派は多い。
「行かせてください。必ず倒してみせます」
「無理だ。アレに勝てるものなどいない」
「英雄神といってもまだ敵うものか」
「万が一があったらどうするのだ」
私の懇願も届かない。
魔王神とはそれほどのものか。
「私は賛成だ」
創造神が発言する。
キャラ変はしていない。
「私も賛成だよ」
続いて時空神も賛成してくれた。
「本気か!?」
「全責任は私が負う」
「私もだ」
「責任を取ると言っても世界が滅びたらどうしようもない」
「創造神、時空神、話にならないぞ」
「いざとなれば神殺しを使うよ」
場が凍りつく。
(ツバメさん、神殺しって?)
(神の命をもって神を殺すのさ)
「!」
(使った者に輪廻転生はない。本当の消滅だ)
「そんな!」
呆然とする私に創造神は笑顔で答える。
「案ずるなシシ。勝てるのであろう?」
「……はい」
時空神が引き取る。
「まあ簡単な話だよ、みんな。もし反対となれば。……おそらくシシは勝手に行くさ。そして私たちにはそれを止める手立てがない。誰がシシに勝てる?」
創造神が止めを刺す。
「思い出せ。あの時の怒りと苦しみを。思い出せ。倒れた者の顔を。みんな、ヤツはこのまま封印でいいのか?」
全員が言葉を失う。
中には涙を流している神もいる。
そうか。そうだよな。
みんな分かった上で世界を守るために反対しているんだ。
哀しみを、怒りを、苦しみを、嘆きを。
すべて抑えこんで反対しているんだ。
「いま分かりました。みなさんの心の中が。大丈夫です。みなさんの想いとともに戦います」
全員が言葉を飲み込み、私を見つめている。
そこにはもう反対の意思はない。
望みを託してくれているだけだ。
「私はまだ本気を出したことがない。英雄神もいる。私たちに倒せないヤツがいると思いますか?」
「実はね、私もまだ本気を出したことはないんだ。大丈夫だよ。みんなの苦しみをすべて解放してみせる」
その言葉に全員が心を動かされた。
「……頼む」
「ツバメ! シシ! やってくれ!」
「許せるはずがない! 頼むぞ!」
「頼んだぞ!」
神界はいまひとつになった。
神々に見送られて私とツバメは神の神殿に立つ。
ここから魔王神が封印された深層世界へ向かうのだ。
「ツバメ、シシ。頼んだぞ」
「そなたたちなら勝てると信じているよ」
「任せてください」
「神殺しなんて使わせませんよ」
そしてツバメの転移で私たちは深層世界へ飛んだのだった。
―――――――
そこは暗い闇に包まれた空間。
私と女神たちが落ちていた時空と同じような感じだが、性質は全く異なる。
「嫌な……感じです」
「魔王神の邪気が溜まって淀んでいるね」
ドロリとした怨念のようなものが身体に纏わりつく。
心もぞわぞわとして落ち着かない。
ここにいるだけでダメージが蓄積していくのがわかる。
「さて。やろうか!」
瞬間、ツバメから黄金色のオーラのようなものが迸る。
周りを支配していた邪気がすべて消え去った。
そしてその奥にいたのは檻に閉じ込められた異形の化け物だった。
そして封印が解け、檻が消え去った。
全身が黒い。
大きさは10メートルほどはあろうか。
身体中から禍々しい黒いドロドロした何かが垂れ流されている。
背中には黒い羽が生えており、頭には大きなツノが2本。
なにより身体中に目がついていた。
「こ、これが神だったんですか?」
「前の姿は知らないけどね。きっと負の怨念がカタチを変えたんだろうな」
「……ナンダ、オマエタチハ」
言葉がこもっていて聞き取りにくい。
ノイズも同時に発生している。
「悪いけど消えてもらうね」
「フハハ、ソノヨテイドノ チカラデ ナニヲイウカ」
「なあ、お前が木花と咲那に呪いをかけたのか?」
「ア? ナンダ キサマタチ、シンカイノモノカ」
「そうだ。女神を元に戻してもらうぞ」
「アノメガミモ ソロソロ シヌコロダロ。ザマアミロダナ。ジコクニ オチロ」
ダメだなこいつは。
私は少し深呼吸をする。
「ツバメ、やらせてもらうね」
「ああ」
これはただの悪意の塊だ。
救いようがない。
オレの大事な木花と咲那に。
お前のような輩が呪いをかけて汚していたと思うと。
許せないよ。
私はこれまでに出したことのない怒りを膨れ上がらせた。
「ナッ!」
「すべての魔法を混ぜようか。オレの持ってるすべてをぶつけてやるよ」
「ヤ、ヤメロ」
「サヨナラ」
途端、私からとんでもない力の奔流が巻き起こる。
右手にオーブを持ち、左手で魔王神に指を指す。
そこに向かって膨大な力が注がれる。
ほんの数秒。
あとには何も残っていなかった。
「やべ、やりすぎたのかな」
「オーブをみてごらん」
オーブは真っ白に輝いていた。
限りない純白、汚れなき白だ。
「成功だよ。シシ、よくやった」
「怒りで加減も忘れてました。大丈夫だったのか」
「あれはやりすぎ。世界が吹き飛ぶって」
「うわ」
「大丈夫。後ろにはバリアを張っておいたよ」
「まじで? やっぱツバメさん半端ないよ。本当はひとりで勝てたんでしょ」
「そんなことはないよ。シシがやるべきことだと思っただけかな。さあ帰ろう。みんな待ってる」
私たちの戦いは一瞬だったけれど。
神たちの長い戦いはいまようやく終わったんだ。
みんなを安心させてあげたい。




