第9話 君とは違う
「どうやらまだ理解されていないようですね」
「いや、今回こそ最高傑作です。勝手に決めないでください」
オレの側にいる編集者は、太宰、中原両名についている食事は鶏肉、飲み物はすべてプロテインを摂っていそうな編集者たちと違って、カラダの線も細くて、弱弱しい。
いくらなんでも、今回のものを最後まで読みもしないで、最高傑作ではないと断じるのは看過できない。
「では他の作家さんに見てもらったらどうですか?」
──いいだろう。
今回仕上げた作品「双子兄妹、転生して田舎領主をしながらのんびりスローライフを送る」は、現代から事故で転生した双子の姉弟が、田舎領主の子どもに転生して、現代知識を異世界の知識と融合させて本人たちも無自覚なまま、貧しい領地を豊かにしていくというこれこそが最高傑作だと自負できる。
「まだ“ことば”が霧の中をさまよっている」
「しょうもないモン読ませんな」
「つまらない。これ以上、聞きたいなら出すものを出すといい」
またか……。
三人とも答え方は違うが共通しているのは“否”……。
っていうか、このひと達も最高傑作が書けないから何十年もここに留まり続けているんだろ? 考えてみると聞くだけ無駄じゃないか。
なら後世で文豪と称えられていても、このひと達から得るものなんて何もないんじゃないか? それに考えてみたら3大クズなんて不名誉なレッテルまで張られているし。
「じゃあいいです。アンタらに教わるところなんて何もないみたいなんで」
「なんだお前? その態度は?」
「青鯖顔、暴力はイカン」
「放せッてらてらッ! オレがコイツをぶっ飛ばしてやるッ」
ふん、勝手にイチャついていろ! このクズどもが……。
拳をあげている中原中也をうしろから太宰治が羽交い絞めにして、止めている。
太宰治が止めなくてもそんなヒョロヒョロな男、オレならぶっ飛ばせるが?
ふたりを鼻で笑って、食堂を出て行こうとすると、ドアの近くに石川啄木が回り込んでいた。
「ボクらは後世でクズと呼ばれてるそうだが、君は色んな意味でボクらとは違うようだ」
──言ってろ。
石川啄木の横を通り過ぎて、部屋を出つつ開いていたドアを「バンッ」と思い切り閉めた。