第10話 新しい入居者
──オレがここにきてちょうど1年が経った。
オレはあれから文豪の3人とは話そうともせず、ひとり執筆に明け暮れるが、4作品目も最高傑作とは認められなかった。
そんななか、このヴァルハラ荘に新しい入居者がやってきた。
ペンネームに心当たりがある。
──渥汰川柳ノ輔。オレより後にWEB小説界隈に現れたにもかかわらず、もの凄い勢いで書籍化、漫画化、アニメ化と次々に決まっていった「運のいいヤツ」。いけ好かないが、あの3人よりは幾分かマシ。ここの先輩として、ふたりきりの時にアイツらのクズっぷりを教えてやった。
「なにを言ってるんですか? とてもありがたい言葉じゃないですか?」
どうやら文豪という存在を盲目的に信仰しているらしい。
だがコイツの作風はオレとそう変わらない。できた作品をせいぜいバカにされるがいい。
──1ヶ月が過ぎた。
渥汰川柳ノ輔は、漢字が違うが、あの有名な文豪、芥川龍之介のファンだということもあり、同じく芥川信者である太宰治と気が合い、よく渥汰川に助言をしているのをちょくちょく目撃していた。
するとどうだろう。
渥汰川は一発で、最高傑作を書き上げて、このヴァルハラ荘を卒業して、天国へと旅立っていった。
「オレには嘘を教えて、渥汰川にはちゃんと教えるなんてヒドイじゃないか?」
不満が口から出てしまい、制御不能の壊れたラジオのように吠えた。
「なにを言っているのかね? 同じことを伝えたまでだが?」
嘘だ! そんなの嘘に決まっている。
そのことを太宰治に伝えると、不思議そうな顔をしている太宰の隣にいた中原中也がオレを睨む。
「途中で考えるのをやめちまったお前にひとの気持ちなんて分かるわけがない」
「君とボク達の最高傑作の求め方は違うのだよ」
離れたところに座っていた石川啄木も発言する。
どういうこと?
「自分が書いた作品に君は心底満足しているのかい?」
また同じ質問か……。
返事をしないでいると、太宰治がさらに言葉を重ねた。
「言い方を変えてみよう。君が最初に書いた作品はなんだね?」
オレが最初に書いた作品……。それは。




