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第12話 グッド・バイ (完結話)


「いいです……これは最高傑作といえますね」


 ヒョロヒョロとした編集者は、最後まで読み上げた原稿用紙を丁寧に揃えて、こちらに戻した。


 一ヵ月前のあの日、太宰治に言われたことが、胸に残った。

 自分の最初の作品は、いわば自分の創作における原点であり、かけがえのない宝物。

 そこに最高傑作を導き出すための方程式が、眠っていた。


 ひとの目なんて気にしなくていい。自分の好きなものを満足のいくまで書くこと。

 それが、自分の歩んできた人生で経験してきたことや、修飾されてなくても素のままの心のこもった言葉で描くことで、“ことば”に深く、重みを持たせることができた。


「ようやく、書けたか」

「いいんじゃないかな」

「勉強代として、返済は無しとしよう」


 中原中也、太宰治、石川啄木と次々に作品について、おおむね“最高傑作”であると認めてくれたようだ。


「これはサービスだ。ボク達と君の違いを教えよう」


 石川啄木が口を再び開く。

 彼ら3人とあの日、口論になった時に食堂を去ろうとしたオレに石川啄木が告げた言葉を忘れていない。


「君は好きなものを満足いくまで書くことが“最高傑作”であることに対し、ボクらは人生のすべてを”形”にして現世に置いてきた」


 彼らの最高傑作は、すでに世に広まり認められ、代表作などと呼ばれている。

 クズと罵られようが、彼らの人生は紛れもない、線香花火のような刹那の輝き。その人生の軌跡を糧にして、原稿用紙に刻みこんだ”ことば”は頭のなかの想像だけではどうしても塗り替えることができない……。


 人生をさらに刻まないと、自分の”最高傑作”を超えることができない、と石川啄木は話し、太宰治や中原中也もその言葉に納得している。


「私はあと5回ほど愛人と入水じゅすいしないと書きかけだったグッド・バイを完成できないかもしれない」

「あはは、じゃあ転生しないといけないですね」

「転生、か、なるほど」


 冗談で言ったつもりだったが、真剣な表情で腕組みして悩み始めた。


「それはさておき、唯今ただいまくん、おめでとう」


 ヴァルハラ荘の玄関……天国への扉が輝き、その中に入ろうとすると、3人を代表して太宰治が別れのあいさつを口にした。


「それでは、またどこかで、グッド(・・・)バイ(・・)





 ─了─




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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです。なろう系の小説の軽さの批判とともに、主人公が昭和の文豪とのやり取りで教養小説風の成長をしつつ、グッド・バイで締めるのは綺麗でした。 [気になる点] 一話が短すぎるとかえって…
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