そんな権利あるかバカヤロウお前らなんか
小林の下宿に行ったらさ、いたよあのバカ。部長がおっかなびっくり確認取ったら、あのノートはやっぱり本人が書いたもんらしかった。俺は戸口のトコで黙って立っていた。アル中どもも部長も、この期におよんでもまだ和気あいあいに事を進める気らしい。
「いやぁだからさ、俺たちも吾妻が書いたもんだとばっかり思ってたから、ちょっと焦ったんだよな? あんまりヒドイからさ。」
「いや、僕が書いたんですよ。」
小林は部屋の真ん中で腕組んでヒョロっと立っていた。
「ゲンコーのことは?」
って俺が言うと、部長は思い出したように訊いた。
「ああ、それじゃあ今度の部誌の原稿は出来上がってますか?」
「2枚くらい書いたけど、全然できてない。前から書いてるのはあるけど、これは長編だし文芸部の本には載せたくない。」
「ああ、そうですか。」
しばらく間があって、
「それじゃあ完全に部を辞めるってことですね?」
「ああ。」
小林は腕組んで勝ち誇ったようにこっちを見てる。別に勝ち誇ってなかったかもしれないけど俺にはそう見えた。部長も腕組みして下向いてしばらく考えてたけど、
「しかたがないですね……わ、かりました。」
って言った。本人は決然と言ったつもりだろうが、こいつの言い方は顔にへばりつくように粘着質だ。シラけて、みんな帰ろ帰ろみたいな雰囲気になってきたけど、俺にしてみたら冗談じゃなかった。こいつら何下手に出てんだ? マジか? 原稿落として詫びもなしに逃げようとしてんだよ、こいつは! 思いっきりナメられてんのにヘラヘラしやがって、だいたい俺とはずいぶん態度が違うじゃねえか。だんだん顔が仮面になってきた。俺が切れる前兆だ。
「それで終わりですか?」
っつって俺は手袋を外した。そしたら急にアル中が焦りだして俺を押さえつける態勢に入ろうとした。
「お前もう帰れ。あとは俺たちが話すから!」
って言って俺をドアから引っぺがそうとした。俺もこのまま帰されても納得いかないので、
「ちょっと待って下さいよ。なんにもしませんから、ホントに。」
「いいから! 先に帰ってろ。俺も一緒に帰るから。」
って、その場から退場させられた。バイクで大学に戻りながら、どうしようもないぐらいムカついてきた。脳溢血寸前だった。
教室に戻ると、アル中が俺に小林のコトを説明しろって言うからした。いま思うと、わざと俺にさしたんだと思う。それ聞いてた2年のネーチャンたちは「あんたがヤメさせたクセに何言ってんのよ」って感じだった。でもな、確かに最初イジメだしたのは俺だけど、俺が小林の悪口言うのをだんだん面白がってきてお前らだって一緒んなって悪口言ってたろうが、ゲラゲラ笑ってよー。それを自分たちは無実みたいなツラして「小林さんかわいそう」なんてヌルイことぬかしてんじゃねえだろうな! そんな権利あるかバカヤロウお前らなんか。小林イジメがだんだんマジモードに入ってきたからヤバイと思って、部会(部の会議)で「小林保護週間」を設けたんじゃねえか。お前らそんときも笑ってたけどな、あれ半分マジだったんだぜ。まったくお前ら手加減ってもんを知らねえからよ。ただあんまりマジで言ったらヤボだからギャグっぽく言ってただけなのに、なんでそういうことわかんねぇかな? だいたい小林もあんぐらいでイジケやがって、いったいどんなオボッチャン環境で育ったんだ? イジメったって「小林保護週間」レベルのシャレ段階だろ? ホントのイジメってのはな、靴隠したり雑巾の汁飲ませたりすんのをイジメっつーんだよ。俺が育ったのはバリバリのヤンキーばっかいるトコだったから、あんなんイジメでもなんでもないんだよ。顔にアザのひとつでも作ってからはじめてイジメって言えってんだ。