ダダ
みんなが戻るまで俺はマンガを描いてる連中のベタ塗りとかトーン張りを手伝った。学祭前は大学前の文房具屋のコピーも夜中までやってるから、朝までに原稿がアガりゃなんとか間に合う。途中で何回も下級生を中実に行かせたけど次の教室はまだ決まってないらしかった。部長が帰ってきたが小林の決意はカタいそうだ。もうそんなことどうでもよかったから部長はまだなんか言ってたけどヤメさして、一緒にもう一度中実のテントに行った。そしたらまだ決まってないって言われて、
「でももう11時ですけど。」
って言ったらしばらく無線機とかでゴチャゴチャやってて、その間またずーっと待たされた。で、やっとこっちに来た。
「あ、43番教室が取れましたんで移動してもらえますか?」
「43番って4階の?」
で、ヘタレの部長がまた「わかりました」っつって引っ込もうとしたから、
「あの、こっちの落ち度じゃないのに待たされたあげく、一番上の階に移動なんてヒドイじゃないですか。」
部長はどうせ「よけいなことを」みたいな顔をしてるんだろう。
「すいません、文芸部さんにはすまないんですけど、次の学祭のときには一番いい場所回しますから。」
って言われても、こっちだって次の学祭までいちいち憶えちゃいないしそっちもどうせ忘れてるに決まってる。教室に帰るとき部長が、
「吾妻さん、あんまり中実に逆らわないほうがいいですよ?」
「わかってるよ!んなこた。でもこのまま引き下がってお前ムカついたりしないの?」
「そりゃあまあ。」
エヘヘーって笑った。俺も怒るっていうか、逆になんか楽しくなってきた。
教室に戻って4階の教室への移動の作業に入ってると問題が出てきた。下の広場でやるバザーのおでんの仕込みに人が足りないそうだ。4年の女の先輩がケバい化粧でエプロンして、ケバいんだか所帯じみてんだかわかんない格好で教室に飛び込んできた。
「人が足りないって言われてもいま机運んだり本運んだりしてますからね、今じゃないといけないんすか?」
「ナベからゆでたおでん引き上げるのに人間が 要いるんだよ。ナベが5個も 6個もあるのに、あたしと下山だけでできるわけないだろが! このままグツグツ煮たらダメになる材料もあるんだから、後で人手もらいに行くって部長に言っといただろ!」
どっとまくしたてられた。俺はもちろん部長からそんな話は聞いてない。このケバい先輩は4年たちの間で「女王様」とか呼ばれててアル中たちもぜんぜん頭が上がらないとか、そんなふうにチヤホヤするからつけ上がるんだとか、でも地元の同人界では有名人で実力もあるとかいろいろ聞いてるけど普段ぜんぜん顔出さないし、俺にとってはなんだか疎遠だ。学祭だって毎回手伝いに来るわけじゃない。俺はコワイ女ってイメージしかない。ところでこのケバ子のアダ名は「ダダ」だ。ウルトラマンの怪獣の名前だそうだが、そのオタクっぽいっていうかシケたネーミングはウチの部らしいね。そのオタクどもに「ダダ」の写真見せてもらったけど(ウルトラマンの豪華写真集とか持ってんだよ気色わりい)、よく似てるよホント。ダダは言いたいことだけ言うとおでん作りに戻っていった。




