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ああー、したよ。したした、復権。

 ん?あれ? 何の話だっけ? 復権? ああー、復権ね。したよ。したした、復権。いやもういいじゃん、その話は。ここで終わっとけば結構感動的だって。あ?タイトル詐欺? ちっ、っせーな。わかったよ。話すよ。


 えっとー……俺の信仰告白論文(笑)が筑大文芸部の部誌に載ったときの反応がー、とにかく最悪だったらしくてー、向こうの部員とかドン引きしたんだと。あちらさんの相互批評ノート(部員同士でお互いの作品を批評しあって議論するんだって。大手の文芸サークルはそういうのあんだね)を見せられたけど、なんか「意味がわからない」っていっぱい書かれてあって、中にはこんな辛辣なのもあった。

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「サイバーパンク」「M&A」「2進数判定問題」「標準誤差」「LBO」といった、それらしい専門用語が散りばめられてはいるが、使われ方に脈絡がなく必然性に乏しい。これらを持ち出した理由はひとえに作者の衒学(げんがく)的な趣味を満足させるためだろう。巷で最近売れている本にこの手の語り口のものは多いが、問題は中身が伴っていないことだ。この作品も多分に漏れない。

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あー……だから話したくなかったんだよ。クソが! とにかくこれをね、福岡の喫茶店に呼び出されて向こうの部長に見せられたんですよ。で、俺は「必然性なく見えんのはお前らがクソど文系だからだろうが!!ウチの大学の理系にも何人か読ませたけど、理解できんかった奴は1人もおらんわ!」とか速攻思った。言わなかったけど。だってなー、部長さん頭下げて謝ってくれたんだよなあ。こんな風に受け取られたしまったのはひとえに自分の説明が足りなかったからだ、申し訳ない!!って。まあ、事前説明がないと受け入れられない作品って時点でもうアレなんだけど、「いやまあいいっすよ。これも俺の実力だと思うんで……」って言ってトボトボ帰ってきた。別れ際に「いや、いずれ仕切り直してまた書いてもらう!僕は吾妻君の才能を買ってるんだ」みたいな恥ずかしいセリフ言ってたけど、その後彼からの執筆依頼は結局なかったね。うん、まあそうよな。


 で、急にヒマになっちゃって「どうしよっかなー」って考えてたときにこっちの部長の池上から連絡があってさ、「部に戻ってくれ」って。俺も行くトコなかったからおめおめと戻っちゃった、カッコ悪いねぇ。とにかく自分の作品が発表できる場だけは欲しかったんだろうな。戻った感じとしては雰囲気よくなってたね、アル中もほとんどいなくなってたし。俺もカドがとれてたから最後の1年はおおむね平和だったよ。作風もその時期だけ変わった。「退部届」みたいな作風を封印して、文章も自分なりに勉強して変えて、恋愛物とかの短編を3ヶ月くらいかかって書いてた。論文だと当時も3日ぐらいで書けてたんだけどね。そん時の文章の先生役はもうOBになってた水原さんだったけど、なんで小説はすぐ書けないんだっていつも言われてた。でもね、それは小説書く才能に恵まれた奴の傲慢(ごうまん)ってヤツだよ。いわゆるみんなが言うような「普通の小説」を俺が書こうとしたらどうなるかっていうと、1行書いちゃ考え、もう1行書いちゃ悩んで結局全部消しちまう。そんで3ヶ月もかけて書いた恋愛短編って、言っとくけど尺は400字詰20枚ぐらいだからね。コスパが即死級に悪かったよ。思うに論文とかっていうのは目的がハッキリしてるじゃない? 文意を正確に伝達するっていうさ。つまり必要な情報を全部出してそれを整合的に組み立てたら終わりなんだよ。それ以上の改良は必要ないの。ところが小説っていうのは洗練されてればされてるほど良いってことになってるから、いくらでも精緻化(せいちか)できるんだよ。キリがねぇんだ。そんでも水原さんは少しずつ文章は上達してるって言ってくれてたんだけどね、でもあの人のパワハラ指導と引き換えの上達だったから卒業間際に本当バカバカしくなってさ、書きなぐるように暴力的な恋愛短編を書いたった。DV彼女に殺されるかもしれないけど好き、みたいな内容だったかな。それも「退部届」みたいな文体で。もー、超気持ち良かったね。でもそれ読んだ時の水原さんは本当に悲しそうな顔で「こんな作品誰も読まない」って言ったんだよ。いろいろ世話になったけどさ、最後の最後に決裂しちゃったなあ。


 でもその間、部では完全に復権してたからね。部長の池上は最後まで使えない奴だったけど、次の代の部長はオタクには珍しく合理的な考え方ができる奴だったんで、2人で組んで一時期減った部員を元の人数ぐらいには戻せた。まあ、いろいろ政治的な手段使ったわけだけども……人気がある書き手を他サークルから引き抜いたりとか、文芸部から分派したサークルを再統合したりとか。あと、作品を書かない「読むだけ部員」も大量にリクルートした。まあ、それはともかく、今度は逆にみんな俺に感化されすぎちゃってさ、俺「スジを通せ」ってのが当時の口癖だったんだけど、どいつもこいつもそれ言うようになってなんか不気味だったわ。卒業間際になると俺のコトはみんな「悪ぶってるけどいい人」って考えてたみたい。バーカって感じかな?


 恋愛小説ばっか当時書いてたのは、たぶん自治会の彼女の方とウマくいってたからその影響だと思う。彼女とは卒業するまでは続いたけど、就職してこっちもいろいろ忙しくなってから自然消滅。どーゆういきさつだか知らないけど俺をクビにした筑大文芸部の部長と結婚したとかしないとか、未確認だけど。文芸部には2年ぐらい前、世話んなった指導教官に挨拶に行ったついでに寄ったけどさ、俺のこと知ってるヤツもほとんどいなくなってて(知ってるヤツは知ってるヤツで俺のコト変な伝説とかでおぼろに知ってやがんだよな)なんかヨソヨソしい感じだったから「二度と来るか」って言ってそれからホントに行ってない。

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