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ブラコン

「チー、目が覚めたら、コーヒー淹れてきてくれないか。いつもより濃いめのやつ。里沙も、そろそろ起きてくるだろうしな」

「いいけど、しーちゃんいつも、インスタントくらい自分でできるーって、頼む前にキッチン行っちゃうよね? さては、私をお嫁さんにする夢でも見たの?」

「見てねえ! 俺はずっーと起きてんだよ」


ピンっと千夜の額を弾くと、千夜がうめいて体を起こした。

とたん、じんっと右足に鈍い痛みが走る。

紫苑は、数秒、黙ってその痛みをやりすごした。


「……あのな。自分で行きたいのはやまやまだけど、足がしびれてて、今動けない」


とたん、にゃはは、と千夜が笑う。


「そっか、そっか。ごめんねーしーちゃん」


なぜか、よしよしと立ち上がった千夜に頭を撫でられる。

キッチンに行った千夜が、インスタントではなく香りたかいペーパードリップのコーヒーを淹れて戻ってきたころ、まるでタイミングを見計らったように、呼ぶまでもなく里沙が起きだしてきた。


「おはよう里沙。……さては、おまえも寝てないな?」


顔を洗ってきたようだが、充血した目だけは隠しようがない。


「ねえ、紫苑…………もし杏が許してくれなかったら、私たちバラバラになっちゃうのかな? 真名と千夜はいいよ、同人でもなんでもふたりでやっていくに決まってるんだから。でも、私は? 私とはもう、誰もいっしょに」

「里沙──」


遮った紫苑を、はっと里沙が見る。

紫苑が手招くと、里沙はすぐ側にきて膝を折った。


「そんな心配しなくていい。杏が来たら、きっと三十分もしないうちに元通りになってる。これがふたりならケンカ別れするのもたやすいけど、四人もいたらそう単純にはいかないさ。今回は俺もいる。わざわざ自分からぶっ壊さなくてもちゃんと修復できるから、やけになるなよ」

「ん」

「ん、じゃなーい! どさくさにまぎれて、何抱きついてんのっ。しーちゃんも、カモンとかやんないでよぉ」

「やってない! コーヒー渡してやろうとおもっただけだ。おまえも、ガタガタ言ってないで、ここ座って飲め。で、頭切り換えたら原稿やるぞ!」

「しーちゃん、昨日から原稿やるぞ、ばっかり言ってるー。変なのぉ」


たしかに、変だと言われても仕方がない。

紫苑はふたりの視線の前で頭を掻き回した。


「あのな。ここで計画が狂っちまったら、誰がいちばん責任を感じるとおもう?」

「……杏ちゃん、かな?」

「あいつの頭の中ではきっと、印刷のコストから経費、販売価格──ぜんぶ細かく計算してあるんだ。自分のせいで利益が減ったり、赤字になったりしたら、きっとおまえたちが気づかないところでバカみたいに落ち込むんだぞ。そりゃある意味あいつのせいかもしれないけど、あいつだけが悪いわけじゃねーのに、ひとりで落ち込ませるのはかわいそうだろ。何とかできるなら、何とかしてやりたい」


そーだね、とマグカップを手にした里沙がつぶやく。

千夜は、無言でにまにま笑いだした。

はっきり言って、こわい。


「チー、どうした? 頭のネジがどっか行ったか?」

「ちがうもん。しーちゃんはやっぱりやさしーなぁ、今杏ちゃんがいたら恋しちゃってたかも、いなくてよかったーっておもってたの!」


正直すぎる答えに、紫苑は何とコメントしていいものやらわからなかった。

里沙が、ブラコン、とあきれた口調で言ったが、千夜の耳には届かなかったらしい。



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