真名のきもち
「今回、その杏のきもちが裏目に出たんだ。けど、俺がおまえらの一員だったら、杏に対して怒りは湧かないとおもう。──杏は、俺には伝えたし理解されてるとおもってるから、悪いようにはしないって信用できるのかもな」
紫苑は真名を見つめ返した。
すこし迷ったが、口にすることにする。
「真名……いい機会だから、おまえも明日、ちゃんと自分のきもちを話してしまえ。おまえ、きっと複雑なおもいしてるんだろ? そういうのを黙って抱えてると、きっとまたおもわぬ亀裂を生むんだぞ。仲間に言えないことがあるのはそれだけで苦しいし。いちばんいいのは、隠しとおすことなんかじゃなく、ぜんぶ伝えて理解してもらうことのはずだ」
みるみる、真名の頬が紅潮した。
「紫苑さん……ッ!」
「え、なに? どーゆーこと、しーちゃん?」
「怖いのは、仲間を失うことか? でも、おまえは杏を失ってもいいなんておもってない。チーも里沙もだ。なら、どうしておまえを失う選択を、こいつらができるとおもうんだ? おまえが大切におもってるくらい、みんなもおまえを大切におもってるさ。──ちゃんと信じてやれ」
とたん、千夜が紫苑の両腕をつかんだ。
「うっそ! 背景描きをおしえてる間に真名とできちゃったとか、そーいうこと? うそだぁ。真名は、私がしーちゃんのこと好きなの知ってるもん。横から誘惑なんてしないもん、里沙じゃあるまいしー! しーちゃんのばかばかっ! でも、真名は仲間だし親友だよ。仲間外れになんてしないもん。しないけど…………うえーんっ」
遮る間もなく一方的にまくし立てられ、紫苑は真名を、次いで里沙を見た。
三人して、けっこうな言われようで、みなことばもない。
「────おい真名、なんとか言ってやれ」
「紫苑が何とか言ってやりなよ」
「里沙ちゃんは怒っていいんじゃないかな、今のは……」
意見が割れたので、紫苑が代表して、胸に顔を伏せている千夜の頬を両手でむにーっと引っぱった。
あひやあ、と千夜がなぞの悲鳴を上げる。
「チー。今日ほど、おまえがバカにおもえたことはねーよ。まったく見当違いも甚だしいけど、それでも仲間で親友だって言ったことに免じて、聞かなかったことにしといてやろう。おまえは、何があっても真名の味方だよな?」
「う……ほんとに、できちゃってない?」
「しつけーぞ、チー!」
「ぐ。はい……誓って、味方でス」
ちら、と紫苑から真名へと千夜の視線が流れる。
紫苑は、赤くなってしまった千夜の頬をおもいきり撫で回した。
「よしよし。じゃあ、原稿やるぞ。チー、俺がつやベタやるから、義清の頭に、の、でも西、でもわかるように印つけてくれ」
「それは私がやるから。しーちゃんは背景描きやって。和風庭園とか、書院造りとか、真名には難しそうなのがいーっぱいあるからねー。分業、分業ー、適材適所!」
いちばん面倒なところを押しつけられただけだ、とおもうが、真名がおずおずと図書館から借りてきたとおぼしき資料を差し出したので、紫苑は受けとるより他なかった。




