想像と現実
「信じてたものに裏切られたとおもえば、誰だって傷つくし腹も立つだろ。ケンカになるのだって仕方ねーさ。今回は、お互いさまだ。悪かったところは謝ればいいし、問題はみんなで乗り越えればいい。けど、こんなことで別れちまったら、それっきりだぞ。一生後悔するぞ。おまえら、杏が抜けたまま、三人でわいわいマンガが描けるか?」
「……描けない!」
「描けません」
「うん……描けっこない」
最後にうなずいた里沙の頭を、ぽんぽんと紫苑は撫でた。
「おまえはとりあえず飯を食えよ。そんで、原稿やろう。チー、おまえは杏に電話しろ。明日、いっしょに話し合おうって。ちゃんとはなしを聞くからって言え。おまえが言えないなら、俺が言ってやる」
椅子を立った千夜が、ふるふると首を振る。
「だいじょうぶ、言えるよ。言えるけど……──杏ちゃん、怒ってるかな?」
「杏は、今も里沙が頭にツノを生やしてるとおもってるだろうな。でもほら、こいつは杏を出て行かせた責任を感じて、部屋にこもってたんだぞ。想像と現実なんて、そのくらいちがうもんだ。見えないところで相手のこといくら想像したって、ほんとのところなんかわかりっこねーよ」
「そうだね。よしっ、電話してみる」
廊下へと出ていく千夜を見送って、紫苑はリビングに行く。
ローテーブルに置いた原稿を広げてみても、紫苑にはどこをどうベタに塗ればいいのか見当もつかない。
「なあ、真名。来てくれ。──この原稿、ベタ指定とかトーン指定ってねーのか」
「ない、です。前は、ペン入れしたあと、里沙ちゃんが書き込んでたんですけど。杏ちゃんが、トーン指定のところに影ベタを入れたり、ベタのふちを残したり、複雑な塗り方をするので指定する意味がないねってことになって。キャラの配色だけ決めて、あとは杏ちゃん任せでした」
「そうだよなー。考えてみりゃ、背景でも、太陽はこっちとか、こっちに窓を描くなとか、いかにも理屈屋が書いたっぽい指定だった。じゃあまあ、感覚で塗るしかねーのか。そのキャラの配色っていうのは?」
「里沙ちゃんにひととおり聞いて頭に入ってたみたいで、キャラ表とかはないんです。だから、すでに塗っている原稿を手がかりにするしかない……かな」
申し訳なさそうな真名の口調を前に、そんなぁ、などと情けない声は上げられない。
「いいよ。紫苑は、とりあえず義清の頭のつやベタだけやってて」
ご飯茶碗を手にした里沙が、ダイニングテーブルから声を投げてくる。
「あのさぁ。この線画の状態で、義清とそうじゃないやつが、俺に見分けられるとおもうのか? ふたりいるうちのどっちかが必ず義清だっていうならともかく、いたりいなかったりじゃ、ぜったいわかんねー」
「顔がぜんぜんちがうでしょッ!」
「みんな、目と眉と耳はふたつ、鼻と口はひとつずつだぞ? せめてメガネがあれば見分けられるのに。男ばっかり何人いるんだ」
「六人! そんなこと言って……どうせ、女が六人だったら見分けがつくんでしょ?」
紫苑は即座にうなずいた。
「それはつくだろ。髪型、体型、顔の造作や表情も女性キャラならみんなちがうし」
「男だってちがーう!」




