なんでそうなる
「ば、バカ。腕を振り上げるな、パンツが見えるぞ。寝ぼけて、おまえ全然はなしが見えてねーんだろ?」
殴りかかってきた千夜が、紫苑に手首をつかまれ、とたんにおとなしくなった。
「うん。でも、里沙が、しーちゃんを怒らせたままだとみんなの迷惑だから、ヌードモデルやって機嫌をなおさせてやる、だって」
「……なんで、そうなるんだ」
ため息をついた紫苑の肩をぽんと杏が叩く。
「ごめんなさいを言うのがニガテな子なんだよ。察してあげて」
「だけどさー、呼んできてくれなきゃ自分から行くって、もう服脱いじゃってて。しょーがなく起きてきたんだよ。なんとかしてよー、しーちゃん!」
「そりゃ、止めてくれてさんきゅー、チー」
紫苑は千夜の頭を撫でた。
まぶしそうに目をしばたかせた千夜はくちびるをとがらせる。
「だぁって。里沙の裸なんてしーちゃんに見せたくないもん。とりあえず里沙の部屋に押し込んできたけど、行っちゃだめだよ!」
「行くか! けど、なんとかしてって言われてもな。放っといたら裸で来ちまうのか?」
「くるだろうねー、里沙ちんは、べつに私たちに裸見られてもへーきな子だから」
「お風呂に行くのに忘れものしちゃったって、ペタペタ裸で歩き回ってるもんね」
「そーそー、ここに干してあるパンツ穿きにきたり、しょっちゅうだよ里沙は」
「はあ? ここ二階なんだぞ。夜、カーテン閉めてないと外から丸見えだろうが。大丈夫なんだろうな?」
紫苑のことばに、少女たち三人が無言で顔を見合わせる。
紫苑は青くなった。
「なんだその、そんなの気にしたことなかったなー、みたいなツラは」
「た、たぶんだいじょうぶだよ」
「たぶんじゃねえ! 里沙とおまえはここに住んでるんだからな。しかも、小娘がふたりきりで。──たく、危なっかしいったらないな。とくに里沙……ヘテロがどうとかいう以前に、あいつが気を抜きすぎなんじゃねーか」
うんうんと、杏がうなずく。
「まあそーだね。里沙ちんがおもってるよりかは、世の中の男は圧倒的に、女の子の裸を見たい派だわなー。今後は用心します」
「そうしてくれ」
ふと、メガネを外してから、杏は紫苑にふわりと笑い掛けた。
それから、千夜の肩を叩く。
「そんじゃま、行こう千夜ちん。だいじょうぶ、里沙ちんには、私から紫苑くんは怒ってなんかないよって話します。身内の男の心理ってのも……まあ、マンガを例に出せば里沙ちんもわかってくれるでしょ。任せて」
Tシャツのすそでレンズを拭いてから、メガネをかけなおし、杏はひらりと手を振った。
「さんきゅー、杏。助かる」
「お金の件、解決してもらった恩があるし。真名ちんに手ほどきしてもらってる恩も、手伝ってもらった恩も、ま、いろいろあるんで」
千夜の背中を押しながらリビングを出ていく杏を、紫苑は戸が閉まるまで見送った。




