R15百合画
金曜日の夕方、紫苑は今や少女たちのたまり場になっている祖父母のマンションまで、家から二駅の距離を自転車に乗ってやってきた。
時間はかかるものの、電車代もかからないし、何より終電の時間をすぎても家に帰れるのがいい。
リビングのローテーブルには最初に来たときのように杏がいて、メガネ越しの視線を上げて、ハローと紫苑に向かって手を振る。
「紫苑くん、いいところにきた! ちょっとこれ、見てくれません?」
あまりにも気楽に呼ばれたので、紫苑は気楽に寄って行って杏の手元をのぞき込んだ。
────そして、絶句する。
「どう? うーん、無反応?」
床に座った位置から、杏の目線が紫苑の顔までを上下に往復する。
どこを見てるんだ、と紫苑は叫びたかった。
「…………杏」
「ほいな? どうぞ、率直な感想を」
とぼけた口調で促されて、紫苑は脱力してその場にしゃがみこんだ。
決して、しゃがまざるを得ない状況に追い込まれたわけではない。
が、それなりに際どくはあった。
「なんだ、これは──」
「百合です。まあ、R15くらいだよね?」
紫苑の目の前で、杏はひらりと紙を振った。
えんぴつで描かれているのは全裸の女性キャラクターふたりで、互いの肩に互いの手をかけて、今にもくちびるが触れそうに接近している。
何よりも紫苑を絶句させたのは、互いの体の間で押しつぶされ合う豊満な胸の描写だった。
ただの絵にちがいないのだが、そう言い切れる人間ばかりなら、マンガ市場がこれほど盛況なわけはない。
「……おまえら、何なんだ。俺をからかって遊んでんのか?」
「そんなことのために、忙しいときにわざわざ絵なんて描かないっすよー。私ら今、ちょっとお金に困ってまして。エロい絵なら、イベントで一万冊とか売り上げるサークルさんが買い取ってもいいって言うんで、試しにね」
「──それ、男性向けとかいうやつかよ?」
紫苑は額に手をやって聞いた。
同人誌の世界にはくわしくない紫苑だが、親友の影響である程度の知識はある。
「そのとおりです。女子は、ジャンル買いとかカプ買いが多いから、そんなに売れないもんねー。だから、男性向けで軍資金を稼ぐ女子もいるんですよ。上手くてエロければ、内容はテンプレでも売れるらしくって。男性諸君の方が単純だってことですね」
それはまちがいなく言えているが、目的のちがいだ、とはさすがに言えない。
紫苑はやって来た早々、気力をつかい果たした気分だった。
しぼり出すように言う。
「いいから、やめとけ……」
「うーん。やっぱ、私の絵じゃダメかな? 千夜ちんがペン入れしてくれたら、そこそこいいかんじになるかとおもったんだけど」
「──なんで、チー?」
「千夜ちんのGペンは、丸っこいもの描かせたら絶品じゃないですかー」
「ああ、あれは、ペンの持ち方にコツがあ……────」
紫苑は、杏の目がレンズの向こうできらんと光るのを見て、失言を悟った。




