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肉じゃが

「紫苑さん。時間のあるときだけでも、だめですか? もちろん、ここに泊まれとか、徹夜しろなんて、ぜったい言いませんから」


真名は言わないだろうと信用できる。

ただ、千夜がここぞとばかりにこき使おうとするのは目に見えていた。


「紫苑、いーじゃん、女子高生の園だぞ。うらやましい。俺が引き受けたいくらいだ」

「そーそー、引き受けろー」


秋美と千夜を順に見やる。

こいつらの方がよっぽど従兄妹のようだ、と紫苑はおもった。

返事をしない紫苑に焦れたように里沙が床を踏みならした。

腰に手を当てた美少女の仁王立ちは、ぜひ秋美にデッサンさせてやりたいとおもうほど、絵になる。


「千夜と真名のだけなら、見えるところに下着干してあげてもいいから」

「……やめてくれ」

「ふうん? じゃあ、とくべつに、女性キャラのヌードを描いてあげてもいい。誰ならいいの? 推古博士? 市参謀? ああ、女スパイ璋子たまことか?」


璋子とか、じゃねえ……と紫苑はおもっただけで声を出す気力もなかった。

そろいもそろって日本人離れしたグラマーキャラなあたり、里沙にどうおもわれているのかが如実にわかろうというものだ。


「あの、私は、紫苑さんの好きな料理を作ることくらいしかできませんけど……」

「肉じゃがー!」

「肉じゃがだな」

「肉じゃがでしょ」


ほとんど同時に、紫苑以外の三人がおなじ料理名を上げた。

いつから俺の好物は肉じゃがになったんだ、と言いたい。


「──ほんとに、俺の好きな料理を作ってくれる? 毎回?」

「え、っと……すごく高価なものは、千夜と相談しないと──」

「それは大丈夫。うちじゃ、母親が嫌いだからって、断固として作ってくれなくてさ」

「えー、体に悪そうなものぉ?」


紫苑はまず千夜の顔を見て、里沙の顔を見て、ついでに秋美の顔を見てから、真名にだけ聞こえるように、耳元に顔を寄せた。


「笑うなよ? ………………オムライス。中身がチキンライスのやつな」


ちゃんと、ハイと返事をしてくれたくせに、きょとん、と目を丸くしたのもいっしゅんで、ぷっ、と真名は噴き出した。


「ガキみたいで、悪かったな」

「いいえ、作ります、ちゃんと。千夜も好きよね、オムライス────、あ……」


真名がパッと自分の口を押さえたが、時既に遅し、だ。

内緒にした意味がなかった、と紫苑はがっくりしたが、いずれ嫌でもばれることではある。


「しーちゃん、すっごい安上がり!」

「ほんと。紫苑、オムライスくらい、俺がいくらでもおごってやるのにー。てか、おごってやるから、俺にもマンガの描き方おしえてー」

「おまえは黙ってろよ」


秋美なら自宅に呼びつけることもできるが、真名ではそうもいかない。

紫苑がここに来ることになるのは、まあ仕方のないことだ。


「紫苑さん、ありがとうございます」


はにかんでもういちどぺこりと頭を下げた彼女のためなら、べつに嫌な気もしない。

またしばらくこの部屋に来ることになるのかと、紫苑は秋美が「女子高生の匂いがする」と評したリビングダイニングをぐるりと見回したのだった。



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