女子高生か母か
「紫苑はなに描かせても上手いだろ? 横で見てると自分の下手さに落ち込まない?」
「ううん! ねーねーどう描くの、って描けるようになるまで訊いたもん。しーちゃん、おまえには無理だとか、言わないからさ。教われば描けるもんだとおもってたの!」
そうかー、とつぶやいてこちらを見た秋美から、紫苑はあわてて目を逸らした。
小学生の従妹にならいざ知らず、成人している男に「ねーねーどう描くの」なんてまとわりつかれては敵わない。
「横で、紫苑さんが描いているところを見せていただけるだけでもいいんです。今回は時間も手も足りなくて、出来上がった絵を見ることしかできなかったから……」
紫苑は、後ろ髪を撫でた。
真名と千夜の顔を見比べる。
「…………それってさー、俺に、このあとも原稿手伝えとか言ってんのか?」
「次は、夏のイベント合わせの本が二冊。印刷代が二割引になんの、今月の二十日ごろまでなんだよねー。けっこうギリ!」
ふざけんな、と紫苑は怒鳴りたかったが、生憎とその場にいるのは千夜だけではない。
「あのな。俺にだって大学の授業はあるし、自分の作品づくりだってあるんだぞ」
「私じゃなくて、真名に言いなよー」
言われて、紫苑は真名に視線をやった。
と、びく、と細い肩が揺れる。
俺はそんなに恐い顔をしているのか、と紫苑は前髪を掻き回した。
「今まで、四人でちゃんと手分けしてやってきたんだろ?」
「──パティスリーは、千夜と里沙ちゃんと杏ちゃんがいれば、マンガは描けるんです。私はいたって雑用くらいしかできない。でも、みんな、紫苑さんのことはすごく頼りにしてたから……これから先たくさん必要になってくる背景が描けたら、私でも役に立てるとおもって。もちろん、すぐにそんなふうになれるなんておもってません。何年後かでもいいんです。ちゃんと、私もマンガ家ですって言えるようになりたい…………」
おねがいしますと、もういちど、床に額が付かんばかりに頭を下げられる。
「手伝えじゃなくて、おしえてって言ってんじゃない。あんた、私たちにヌードモデルさせるんでしょ? だったら、そのくらいのおねがいは聞いてくれてもいいんじゃないの?」
腕組みした里沙に見下ろされ、紫苑はおもわず腰を浮かした。
「まっ──」
「なっにぃー? ヌードモデル? それはやべーだろ、紫苑!」
「待て! そんなもん、させる気なんてハナからない。チーが勝手に言い出したことだろ」
紫苑のことばに、千夜はぱちくりと目をまたたかせる。
「えー? しーちゃん、友だちの前だからってかっこつけなくていいよ。モデル雇うお金なんてないんでしょ。……ハッ。まさか、しーちゃんのママさんに頼む気?」
紫苑は人目もはばからず頭を抱えた。
我が従妹ながら、だれかこいつをどうにかしてくれ、と心の底からおもう。
「だ、れ、が、自分の母親にヌードモデルを頼むんだよ! 金積まれたってごめんだ!」
「えー、ママさん、スタイルいーじゃん。しーちゃんといっしょに歩いてたら年上のカノジョとまちがわれちゃうんじゃないの?」
「………………」
あと五年くらいしたらもしかして夫婦とまちがわれたりするんだろうか、と紫苑はゾッとした。
そのくらい、母親が体型だの美容だのに気をつかっていることは紫苑も知っている。
今のところ、その努力は実っているともおもう。




