二番弟子志願
「あー、ごめん! いや、こいつ、そういうかんじのこと、全っ然言わないし」
とはいえ、興味を持っていればメディアから簡単に得られる情報ではある。
紫苑は親友として深く反省したが、ひらひらと手を振る秋美はそんなものをふっ飛ばすほどに軽かった。
「そうは言っても、チームはほーんと弱いし。俺、サッカーはマンガで稼げるようになるまでのツナギでやってるようなものだからさー。俺にとっては、マンガ描いてる人間の方が、よっぽどリスペクトの対象。同人誌つくってるだけでもすげーとおもうけど、商業誌にマンガ描くとか、しかも高校生でとか、君たちの方がよっぽどすげー!」
な、と同意を求められた紫苑は困った。
少なくとも、サッカー少年たちがあこがれる職業について、それなりに活躍もしておきながら、それをつゆほども自慢しない秋美の非常識さは、ある意味すごいと紫苑もおもう。
「んで、彼女は誰ちゃん?」
「真名です。あの、すごいのは他のみんなで、私は千夜や里沙ちゃんとちがって、ひとりでマンガ描いたりできないから……」
「ん、もー。真名はまたー! あのね、しーちゃん、真名がね──」
頬を膨らました千夜がローテーブルに向かってしゃがんだまま、紫苑の服を引っぱる。
「千夜、待って。私からおねがいするから」
と、言ったかとおもうと、真名が唐突に床に膝をついた。
正座をした真名のセーラー服すがたは、里沙とも千夜ともまたちがって、清楚な印象を与える。
まったくおなじ制服のはずなのに、ふしぎなものだと紫苑はおもった。
「紫苑さん、私を二番弟子にしてください」
両手をついて頭を下げられた紫苑は、とっさに半歩うしろに飛び退った。
と、ローテーブルの角にふくらはぎをぶつける。
「いてっ。……いや、待って。こいつも弟子なんかにした憶えはないから」
「でも、千夜にマンガの描き方をおしえたのは紫苑さんなんですよね?」
紫苑は居心地の悪さに耐えかねて、とりあえず自分もしゃがんでみた。
それでも、両手をついたままの真名よりは目線がだいぶ上に来てしまう。
紫苑は、ちら、と従妹を見た。
「まあ、おしえたっていうか、見るに見かねたっていうか──」
紫苑は、小学生時代の千夜をおもいだした。
紫苑の父は筋金入りのマンガ好きで、酒もたばこもギャンブルもゲームもやらないぶん、月に何十冊とマンガの単行本を買ってきては所蔵していたため、千夜もよく家に遊びにきてはマンガを読みふけっていた。
顔を合わせたことがないだけで、実は、秋美もまったくおなじだ。
そのころからマンガ家になりたいと言っていた秋美の影響でペンと墨を使ってイラストを描くようになった紫苑は、描いた絵をねだる千夜にあげていた。
千夜が自分でも描くようになったのは、小学四年生ごろだっただろうか。
それ以前から、お絵描きが好きだった千夜に、いろんなものの描き方を訊ねられるのは日常茶飯事だったし、五才のころ美術に目覚め、ひまさえあれば絵を描いていた紫苑には、千夜におしえてやれるだけの画力があった。
ちなみに、母親いわく、あんたの美意識は私譲り──なのだそうだ。




