フットボール・サーカス
「ところで、そのひとがモデル頼んでたって友だち? しーちゃんの友だちがイケメンって、ちょー意外!」
指をさしてど直球に感想を述べた従妹に、紫苑はおもわず頭を抱えた。
が──
「おー、君がうわさの従妹か。なるほど、ちゃんと萌える妹系だな。はじめましてー、俺、松田秋美。紫苑の幼なじみで、一番弟子!」
応じた秋美のざっくばらんな口調もいい勝負だとしか言えない。
千夜は高校生だが、彼はすでに社会人であり、非常に初対面のひとと接する機会の多い仕事をしている。
大丈夫かこいつ、と紫苑はとたんに心配になった。
いつだれがおまえを弟子にしたんだ、とも紫苑はつっこんでやりたかったが、真名の秋美への視線に気づいたとたん、それどころではなくなる。じっ、と見つめていたかとおもうと、紫苑と秋美をいくどか見比べ、やがて足音もなく紫苑のそばに寄ってきた。
「あのう……紫苑さん。彼って…………」
ごく、と紫苑は息を呑んだ。
親友がモテるのは今に始まったことじゃないと、とっさに、次のことばに覚悟を決める。
「もしかして、F・シルコの選手じゃ──」
予想外のことばに、まばたいて真名を見る紫苑がなにか言うより先に、紫苑を押し退けるようにして、秋美が真名の手を取った。
あの、白くふわりとやわらかな手を。
なにを気安く──とおもったが、べつに紫苑のものではないのだから、怒るのは筋違いだと自分に言い聞かせる。
「そう。俺、F・シルコの一員。うち、あんまり強くないし人気ないから、なかなか気づかれることもないんだけどなー」
べつに求められてもいないくせに、秋美は勝手に握手した手をぶんぶんと振っている。
「オイ……強くないとか人気ないとか、いくら何でもおまえが言うな!」
とはいえ、紫苑も他の選手の顔と名前はひとりたりとも一致しない。
と、千夜がふしぎそうに首をかしげた。
「エフなんとか、ってナニ?」
見れば、里沙も何のことだかわからない、という顔をしている。
里沙は東京っ子だというから無理もないが。
「地元のプロサッカーチームだ、知らないのか、チー!?」
「しんなーい。そんなのあったっけ?」
紫苑は沈黙した。三年ほど前だったか、千夜が東京に引っ越したとき、F・シルコはまだアマチュアリーグに所属していて、チームの愛称も『フットボール・サーカス』といっていた。
ちなみに、Fはもちろんフットボールの略であり、シルコはスペイン語だかフランス語だかでサーカスを意味するのだという。
プロ参入時に改名し、かつホームタウンも拡大したため、日本一、いやもしかしたら世界一、地元での知名度が低いプロサッカークラブと言えるかもしれない。
「ってことは、しーちゃんの友だち、サッカー選手なの?」
「どーりで、膝まわりの筋肉の付き方が尋常じゃないとおもった……」
「あ、あのね、ふたりとも。松田選手って、去年のチーム得点王でね、1部リーグのチームからもオファーがきたっていう、F・シルコでいちばん人気のある選手なんだ、よ?」
「へー」
とおもわず口に出してしまった紫苑は、とたん、真名にアリエナイと言いたげな目を向けられてしまう。
千夜と里沙の薄い反応をどうにかしようという真名の気づかいは、紫苑の顔を立てる意図もあったのかもしれない、と今ごろ気づいたところで、後の祭だ。




