『3』と4人組
うながすと、ようやく真名は椅子を立った。
まだ迷っているようだったが、気力が限界なことは自分でもわかっているのだろう。
残りの力をふりしぼるように紫苑に向かっておやすみなさい、と頭を下げると、頼りない足どりで廊下へと出ていく。
紫苑は、真名がトーンを貼っていた原稿を取り上げた。
港のドックを下書きしたのは紫苑で、真名は入浴後の髪が乾くくらいの時間をかけて、その線をGペンでなぞっていた。
紫苑がペン入れをすれば、下書きもふくめると、きっと四分の一の時間で描けただろう。
けれど、紫苑の目には、修正のホワイトがひとつもない、丁寧すぎるほど丁寧に引かれたその線が、自分が背景を描いた原稿よりもずっと完成度の高いものに見えた。
印刷してしまえばおなじかもしれないが、生原稿は歴然と、真名の努力と誠実さを物語っている。
紫苑は、椅子に座ったまま、大きく伸びをした。
ついでに、凝った肩をゴリゴリと回す。
もういくつか背景を描いて寝ると真名には言ったが、どこになにを描いて欲しいのか千夜が指定していった背景部分は、まだいくつもあった。
下書きさえ終わらせておけば、真名にペン入れをさせてやれる。
トーン貼りは誰にだってできるし、最悪、紫苑がやったって構わない。
これは、彼女たちの原稿なのだ。
描く気がある真名に描いてもらうのが筋だと、紫苑は千夜と戦ってもいいとさえおもう。
『がん、ばらないと、私……』
真名のつぶやきが耳によみがえる。
がんばらないと、いったいどうなるというのか。
紫苑には、千夜がおなじような考えや心がけを持っているとは、到底おもえなかった。
なぜかはわからない。
でも、何とかしてやりたいとおもう。
紫苑が助っ人に呼ばれたことには、里沙も多少なりとも責任を感じている口ぶりではあったが、真名の方がよほど申し訳なくおもっているふしがある。
単に性格のちがいだとおもっていたが、今夜の様子で、それだけではないのかも、と紫苑はおもえてきた。
四人の関係は実に良好に見えたが、紫苑の目に見えない部分で、彼女たちはもっと複雑なのかもしれない。
その象徴が、グループ名に入っていた、『3』の数字で────まさか、だれかひとりを除け者にしようとしているとはおもわないが、三人組であったほうが誰の目にもしっくりくるのは、まちがいない。
がんばらないと、私……
…………要らないって言われる──?
紫苑は、ふと浮かんだことばを、首を振って打ち消した。
彼女と引き離されるのを泣いて嫌がった千夜のすがたを、紫苑はよく憶えている。
千夜が親元を離れてこの部屋に住んでいるのは、彼女といっしょにマンガを描くことを望んでいる何よりの証拠ではないのか。




