アングル
「私らの中で、いちばん機械モノに強いのは、真名ちんなの。まぁ、ちゃんと『取り説』を読むからって気もするけど。メカ系もいちばん描くの好きそうだけど、見せるコツをつかまなきゃだから。紫苑くんが、手取り足取りおしえてあげてくれると助かるなー」
紫苑はおもわず視線をそらす。
手取り足取りが、なんだかちがう意味に聞こえた。
「良かったら、下絵の段階でいちど、コピーしといてくれます? ペン入れ前と後、両方ある方が、のちのち勉強になるから」
杏が筆ペンのうしろで、リビングに置かれた複合プリンターらしきものを指した。
業務用とまではいかないものの、コピー機と言ってもいいほどの存在感がある。
えらく立派だな、とおもった紫苑の心を読んだように、それね、と杏がつづけた。
「コピー誌も刷れるように、こないだ新しく買ったんです。里沙ちんが外貨を稼ぎに行かなきゃならなくなった理由、その一」
もしかして、理由その二やその三もあるのだろうか。
訊ねるより早く、紫苑さん、と呼ばれた。
真名が、パソコンのモニター前からこちらを振り返って、手招きしている。
椅子を立ち、紫苑はそばに寄って行った。
手には、千夜に押しつけられた、5とページ数が振られた原稿を持っている。
「いくつか、見つけました。形状はこんな感じだとおもうんですけど、広さはこっちくらいかなって。うまくバランスとれるでしょうか」
「これって、操縦室に入ってきたシーンだろ。俯瞰のアングルにしないで、人物とおなじ視点にするって手もある。そしたら、手前は人物の肩とか扉に隠れて、奥のモニターあたりだけが背景になるから、空間の配置に誤魔化しがきく。……意味、わかる?」
問いに、真名は首をかしげた。さらりと肩を流れる黒髪に、つい目を奪われる。
「まあ、単純に、席を増やして空間を埋めてもいいけど。これ、本になったら相当縮小されるよな? 細かくなりすぎて逆にわかりにくい絵になったら、描く意味もないだろ?」
紫苑は、手近な紙にえんぴつで、ことばにしたアングルのちがいを絵で説明するべく二コママンガのように同サイズの長方形を描くと、その中に大まかな線を描き入れていく。
しばらくして、真名が千夜を呼んだ。
「このページ、ぜんぶ描き直しになってもいいかな?」
「えー、やだよぉ。メンドイ」
「紫苑さんの言うとおり、俯瞰で室内全体を描くと、絵が細かくなりすぎちゃうよ。でも、人物を手前に配置しちゃうと、このページ、みんなおなじような高さのアングルになるでしょ」
「んー。じゃあ、部屋に入るところを、背中側からじゃなく、正面から描くのはどう? 部屋の中身をだいぶ削れるよね?」
「突き当たりのモニターなしで、操縦室っぽさが出せる?」
「……出せない、かぁ。でも、描き直しはやだ。なんとかして、しーちゃん!」
俺はどこぞの青い猫型ロボットか、と紫苑は内心ぼやいた。が、策がないこともない。




