ペン軸
「使ってないペン軸、いくらでもテープ巻いて太くしちゃっていいから! これはダメ!」
持っていたつけペンを後ろ手に隠して、千夜はベエと舌を出した。
「千夜ちんが描いてくれなくなると困るから、あれは取り上げないでやってください。ほら、弘法は筆をえらばずって言うでしょう?」
「そーそ。ヘテロのくせに女の子から愛用品を巻きあげるなってゆーの!」
「先に巻きあげられたのは俺だ」
紫苑は立ち上がって、パソコン机の上にあるペン立てに歩み寄った。
ペン軸とおぼしきフォルムがいくつも見えたからだ。
いくつか抜き取って手にしてみるが、いまひとつしっくりこない。
テープを巻いて改造するしかないか、とおもったとき、机の上に無造作に転がった白木の軸が目に入った。
どうやら丸ペン専用軸のようだが、彼女たちの原稿に背景を描くならぜったい丸ペンだろうとおもっていた紫苑は、なにげなく利き手で取りあげる。
左手ににぎると、カーブのあるフォルムが意外なほどにぎる指にフィットした。
「それ、私の──」
ぽつり、とそばで里沙がつぶやく。
紫苑はおもわず彼女とペン軸を見比べた。
当然、貸してはくれないだろうとおもい、謝って手を離そうとする。
「いいよ貸したげる」
「え?」
「貸してあげるって言ったの。どうせ、今使わないし。それでいいなら使っていい。でも、あげないからね!」
紫苑は、おもわず微笑した。
紫苑に対して怒っているのか、そうでもないのか、里沙の態度からはさっぱりわからない。
ただ、紫苑の触ったものなんかもう自分で使う気にならない、とはおもっていないということだ。
「じゃあ、借りる。さんきゅー」
いっそ、自分でもおなじものを買ってしまおうかと考えたが、里沙とのおそろいには無意識に男の下心が表れているようにもおもえて、口にするのはためらわれた。
もういちどにぎり直すと、なんだか里沙の指をにぎったかのような、わけのわからない気恥ずかしさがわいてくる。
そのペン軸のおかげか、それから丸二日以上におよぶ原稿の手伝いは、紫苑にとって意外にも創造的な時間となってくれたのだった。




