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白織夜叉の冒険譚  作者: 蹴 鞠
一章から二章までのお話。
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27/56

1話 白猫の足跡 いつもの依頼

ここまで見てくれてありがとうございます。


二章始まりです。


――半年。


長いようでいて、過ぎてしまえばあっという間だった。


あの森の事件から、半年が経っている。


巨大な鬼神。


逃げ惑う魔物たち。


一夜にして消えた村。


そして、鬼神と戦った白織鞠凪。


あの事件は王都にとって、すでに過去の出来事になりつつあった。


森には現在も騎士団による監視が続いている。


しかし、新たな異変は起きていない。


少なくとも――表面上は。


その一方で。


王都の冒険者ギルドでは。


「……眠い」


朝から一人の白い猫耳が、完全に机に突っ伏していた。


「またかよ」


カイルが呆れた声を出す。


「だってぇ……朝早いんだもん……」


白織夜叉。


二十一歳。


小柄な身体に、長く美しい白髪。


頭には白い猫耳。


背中には大きくふわふわした白い尻尾。


そして、青い瞳。


その外見は、雪のように白い。


しかし、その姿とは裏腹に。


彼女は歴としたAランク冒険者だった。


「朝早いって言っても、もう九時だぞ」


レオンが言う。


「九時は朝だよぉ」


「まあ、朝だけどな」


「昨日、何時に寝たの?」


リゼットが尋ねる。


「……十二時くらいかなぁ」


「普通ね」


「でも、寝る前に本を読んでたら、面白くなっちゃってぇ……」


「また?」


リゼットがため息をつく。


「三日前も同じことを言っていたわ」


「そうだったかなぁ」


「覚えてないのかよ」


カイルが笑う。


レオンも苦笑していた。


半年前。


鬼神事件を経験した四人は、それからも変わらず冒険者として活動していた。


そして現在。


彼らには、正式なパーティ名がある。


受付嬢が掲示板を指差した。


「『白猫の足跡』の皆さん。今日はこちらの依頼はいかがでしょう?」


「白猫の足跡……」


カイルが呟く。


「未だに名前が可愛いな」


「私は気に入ってるよぉ」


夜叉が嬉しそうに言う。


「知ってる」


カイルが笑った。


「だから何も言えねぇ」


レオンが依頼書を手に取る。


「魔物討伐か」


「どんな内容?」


リゼットが横から覗き込む。


「近隣の村からの依頼だな」


依頼内容。


街道周辺に魔物が出没。


村人への被害は、今のところなし。


しかし、夜間になると複数の魔物が街道へ現れるため、討伐してほしいとのことだった。


「種類は?」


「ゴブリンと狼型の魔物」


カイルが頷く。


「十体程度なら問題ないな」


「油断はしない」


リゼットが言う。


「分かってるって」


「あなたはすぐ油断するでしょ」


「信用ないなぁ、俺……」


「日頃の行いよ」


夜叉が依頼書を見ながら首を傾げる。


「今日の日帰り?」


「そうみたいだな」


レオンが答える。


「じゃあ、これにしよっかぁ」


「賛成」


レオンが頷く。


「俺も」


「私も問題ないわ」


依頼は決まった。


受付を済ませ。


四人は王都を出る。


───


目的地までは馬車で二時間。


窓の外を眺めながら、夜叉はのんびりしていた。


「……いい天気だねぇ」


「寝るなよ?」


カイルが言う。


「寝ないよぉ」


「本当か?」


「……たぶん」


「絶対寝るじゃん」


レオンが笑った。


リゼットも小さく笑う。


そんな穏やかな時間は、半年経った今では当たり前になっていた。


四人はもう、互いのことをよく知っている。


レオンが前へ出る。


カイルが戦場を動かす。


リゼットが状況を組み立てる。


夜叉が遠距離から全体を見て、正確に敵を射抜く。


四人で一つ。


それが『白猫の足跡』だった。


やがて馬車が止まった。


「着きましたよ」


御者の声。


四人は馬車を降りる。


目の前には小さな村。


畑。


家。


遠くには森。


平和そうな村だった。


「依頼主を探そう」


レオンが言う。


「はいはい」


カイルが歩き出す。


「私達、こういう時だけはちゃんとした冒険者って感じよね」


「こういう時だけって何?」


カイルが聞く。


「普段は?」


「うるさい」


「ひどい!」


夜叉がくすくす笑った。


しばらくして。


四人は村長から話を聞いた。


「最初は一匹、二匹だったのです」


「それが増えた?」


レオンが尋ねる。


「はい」


「どのくらい?」


「最近では、夜になると十匹以上現れることもあります」


カイルが腕を組む。


「十匹以上か……」


「森の中で増えている可能性があるわね」


リゼットが言う。


「昼間は?」


「ほとんど姿を見せません」


「分かった」


レオンが頷く。


「日没前に森へ入り、巣を探します」


「お願いします」


村長が頭を下げた。


───


森。


鳥の声。


風。


木々の揺れる音。


四人は静かに歩いていた。


先頭はレオン。


その少し後ろをカイル。


中央にリゼット。


最後尾に夜叉。


ただし。


夜叉は最後尾にいるだけではない。


青い瞳が森全体を見ている。


木々の間。


地面。


遠くの枝。


音。


匂い。


すべてを確認している。


「……」


突然。


夜叉の耳が動いた。


「止まって」


全員が止まる。


カイルが小声で尋ねる。


「何か?」


「いる」


「何体?」


「……五」


夜叉は弓を構えた。


「前方、百メートルくらい」


レオンが盾を構える。


カイルが短剣を抜く。


リゼットの指先に淡い魔力が集まる。


「来る」


夜叉が言った。


森の奥から。


何かが走ってくる。


木々の隙間から現れたのは――。


ゴブリンだった。


一体。


二体。


三体。


四体。


五体。


しかし。


「……?」


カイルが眉をひそめる。


ゴブリンたちは四人を見ていない。


こちらへ襲いかかってくるわけでもない。


ただ。


逃げている。


何かから。


「……どういうことだ?」


レオンが呟く。


夜叉は弓を下ろさなかった。


「分からない……」


白い耳が動く。


鳥の声がない。


虫の音も少ない。


森の奥が――妙に静かだった。


「リゼット」


「ええ」


「魔力の流れ、どう?」


リゼットが目を閉じる。


しばらくして。


「……変ね」


「何が?」


「魔物がいること自体はおかしくない。でも……」


彼女が森の奥を見る。


「魔物たちが、何かを恐れているように感じる」


カイルの表情から笑みが消えた。


「……またか?」


その言葉に。


誰も返事をしなかった。


半年前。


同じ光景を見た。


魔物たちが。


何かから逃げていた。


あの時。


森の奥にいたものは――鬼神だった。


夜叉は静かに森を見る。


「……でも」


「どうした?」


レオンが聞く。


「今回は、違う気がする」


「何が?」


夜叉は答えない。


ただ。


森の奥へ視線を向ける。


その瞬間。


――ず。


小さな音がした。


木が折れたわけではない。


足音でもない。


何かを引きずるような。


低い音。


ず……。


ず……。


夜叉の瞳が細くなる。


「……何だろう」


カイルが短剣を握り直す。


レオンが盾を構える。


リゼットが魔力を集中させる。


四人の間に、言葉は必要なかった。


半年間。


一緒に戦ってきたから。


レオンが前へ。


カイルが左右を確認。


リゼットが後方支援。


夜叉が弓を構える。


――『白猫の足跡』。


その名を持つ四人が。


再び、森の奥へ進んでいく。


ただの魔物討伐。


そう思っていた依頼だった。


けれど。


森のさらに奥。


誰も知らない場所で。


何かが――歩いていた。

読んでくれてありがとうございます!

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