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白織夜叉の冒険譚  作者: 蹴 鞠
白織夜叉
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1/56

番外編 遥か先のお話 狐妝夜行 チラ見せ


雪が降っていた。


屋根の上に。


石畳の上に。


木造の家々の軒先に。


白い雪が、静かに積もっている。


「わぁ……」


夜叉が。


目を輝かせた。


「すごい綺麗だねぇ」


雪の上へ駆けていく。


「雪だぁ〜」


両手を広げて。


その場で、くるりと回った。


「冷たいねぇ」


「こらこら」


フィルティーナが笑う。


「転ばないようにね」


「大丈夫だよぉ」


夜叉は。


雪をすくい上げる。


「ほら、真っ白〜」


「本当ね」


フィルティーナも。


手のひらに雪を乗せる。


その向こうでは。


古い木造の家々から。


白い湯気が立ち上っていた。


細い路地の奥からも。


旅館の玄関からも。


山肌に沿うように並んだ建物の間からも。


湯けむりが。


ゆっくりと夜空へ昇っている。


「温泉の町って感じだねぇ」


夜叉が。


嬉しそうに辺りを見る。


「こういうところ、好きだなぁ」


「夜叉らしいわね」


フィルティーナが微笑む。


少し後ろでは。


鞠凪とスバルが。


そんな二人を眺めていた。


「……楽しそうだねぇ」


鞠凪が笑う。


「うん」


スバルも。


嬉しそうに頷いた。


夜叉が。


雪を丸めながら振り返る。


「フィルティーナ〜」


「んー?」


「なんだか、お母さんたちの結婚式思い出すねぇ」


夜叉の尻尾が。


ぴくっ。


そして。


くるん。


フィルティーナの腕へ巻きついた。


「……ふふ」


夜叉が。


少しだけ頬を赤くする。


「私も、やりたいなぁ……」


「結婚式?」


「うん」


フィルティーナが。


夜叉を見る。


「……いつかね」


夜叉は。


嬉しそうに笑った。


「ふふ」


フィルティーナも。


少しだけ笑う。


「案外、すぐかもね」


「えっ?」


「なんでもない」


夜叉の尻尾が。


雪の中で。


ゆらゆら揺れていた。


───


その日の夜。


四人は。


町の古い旅館へ入った。


「いらっしゃいませ」


女将が笑う。


木造の廊下。


低い天井。


障子。


畳。


部屋の隅には。


古い火鉢が置かれている。


「わぁ……」


夜叉が。


きょろきょろと辺りを見る。


「なんか昔のお家みたい」


「こういう旅館も珍しいわね」


フィルティーナが言う。


やがて。


夕食が運ばれてきた。


団子。


漬物。


焼き魚。


それから。


見たことのない形の器に盛られた料理。


「これ何?」


夜叉が。


首を傾げる。


「昔からこの辺りで食べられてるものみたい」


鞠凪が答える。


「へぇ〜」


夜叉は。


箸を伸ばす。


「食べてみる!」


「ふふ」


スバルが笑う。


「本当に食べるのが好きね」


「だって美味しそうだもん〜」


旅館の食堂に。


笑い声が響いた。


───


食事を終えると。


四人は。


旅館の中にある小さな資料館へ向かった。


古い道具。


着物。


巻物。


壁には。


昔の絵が飾られている。


「わぁ……」


夜叉が。


足を止めた。


大きな絵巻だった。


雪の夜。


たくさんの妖怪が。


町の中を歩いている。


鬼。


天狗。


河童。


僧の姿をした妖怪。


そして。


狐。


「狐もいるねぇ」


夜叉が。


絵を覗き込む。


その中央には。


一際大きく描かれた狐がいた。


白い着物を着ている。


「……花嫁さんみたい」


フィルティーナが呟く。


「本当だねぇ」


絵の下には。


古い文字。


『狐妝夜行』


「きつね……の、よめいり?」


夜叉が。


ゆっくり読む。


「昔と字が違うんだねぇ」


鞠凪が。


絵を眺める。


「そうかもねぇ」


「へぇ〜」


夜叉は。


それ以上気に留めることもなく。


フィルティーナの手を引いた。


「そろそろ寝よっか」


「うん〜」


四人は。


資料館を出て。


旅館の部屋へ戻っていった。


───


夜が深くなった。


町は。


静かだった。


雪が。


しん。


しん。


と降っている。


明かりが。


一つ。


また一つ。


消えていく。


――シャン。


どこかで。


鈴の音がした。


――シャン。


もう一度。


――シャン。


今度は。


少し近い。


「…………」


雪を踏む音。


かこん。


かこん。


かこん。


誰かが。


歩いている。


白いものが。


雪の向こうを横切った。


一つ。


二つ。


三つ。


「…………」


青い光が。


揺れている。


一つ。


また一つ。


狐が。


灯火を持って歩いていた。


昼間。


夜叉たちが歩いた道を。


ゆっくり。


ゆっくりと。


白い打掛。


長い袖。


前で結ばれた帯。


高下駄。


狐なのに。


面をつけていない。


顔が。


見えている。


けれど。


その顔を。


見ていると。


なぜか。


目を逸らしたくなる。


狐の尾が。


雪の中で揺れていた。


一本。


三本。


五本。


「…………」


次に見た時には。


九本。


その次には。


三本。


数えていたはずなのに。


分からなくなる。


狐たちは。


何も言わない。


ただ。


歩いている。


――カラン。


――カラン。


高下駄の音。


白い打掛の裾が。


雪の上を引きずられる。


そして。


最後尾。


そこには。


輿があった。


誰も。


乗っていない。


なのに。


雪の上には。


何かが。


引きずられたような跡が。


ずっと。


続いている。


狐たちは。


歩く。


シャン。


シャン。


シャン。


やがて。


歌が聞こえてきた。


「お狐さん」


「お狐さん」


「雪降る夜に」


「嫁入りだ」


かこん。


かこん。


かこん。


「お狐さん」


「お狐さん」


「雪降る夜に」


「嫁入りだ」


かこん。


かこん。


かこん。


中央の狐が。


立ち止まる。


他の狐も。


止まった。


雪だけが。


降っている。


「お狐さん」


「お狐さん」


「鈴なる夜に」


「嫁入りだ」


かこん。


かこん。


かこん。


また。


歩き出す。


「お狐さん」


「お狐さん」


「鈴なる夜に」


「嫁入りだ」


かこん。


かこん。


かこん。


歌声が。


増えていく。


一人。


二人。


三人。


四人。


五人。


「狐妝夜行」


「狐妝夜行」


「狐妝夜行」


声が。


重なる。


誰の声なのか。


分からない。


「誰が来る〜」


くす。


くす。


くす。


狐たちが。


笑った。


「お狐さん」


「お狐さん」


かこん。


かこん。


「お狐さん」


かこ。


ん。


音が。


途切れた。


「…………」


静かになる。


雪が。


降っている。


「お狐さん」


今度は。


一匹の狐だけが。


呟いた。


「狐妝りよ――」


……。


「かくりよ」


雪が。


止まった。


一瞬だけ。


町から。


すべての音が消えた。


湯けむりさえ。


動かない。


狐たちも。


動かない。


そして。


「かーらー」


青い灯火が。


一斉に。


揺れた。


コン。


コン。


コン。


コン。


――もんたたく〜。


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