17・Sideカイル
「はぁ……」
ぼふん、と音を立てて自室のベッドの上に突っ伏す。
柔らかいそれは到底使用人の部屋に使うような代物ではなく、貴族が使うようなものだ。
護衛騎士は身体が資本の大変な仕事だから、寝るときはしっかり良いものを使うようにと、ここに来てすぐクリスティ様が買い換えてくださったもの。
いつでも守れるように部屋もクリスティ様の部屋の隣をいただき、ほぼ一日中彼女の傍に仕える。
それが今の私の仕事だ。
クリスティ様を初めて見たのは、じつはこのウルバリスが最初ではない。
昔。まだ小さなころ、父に連れられて参じた王宮で一度だけ彼女に会っている。
愛らしくも凛としたその姿に、思わず見とれてしまったのは今でも覚えているし、今思い出すだけでも恥ずかしい。
だけどそれくらい、目を引くお方だった。
マルボロ王家の人間には代々神からの祝福が付与され、特別な力が与えられていると聞いたことがある。
その内容については王族に近しい貴族までにしか周知されず、それが一切漏れることのないように魔法契約で以って秘密にされるというもの。
だがそう言う人間から広まったのであろう、クリスティ王女の力は役に立たない、と。
やがて力の内容を知らないものも”役立たず王女”などと見下すようになっていた。
当時私はそんな噂に興味もなくて、勝手に言っていろとしか思っていなかったものだが、あの日、噂の王女を前にして、思ってしまったのだ。
”この方をお守りしたい”と────。
それから私は、父に教えを乞い、剣術の稽古にいそしんだ。
騎士団に入団して、どんどん力をつけていって、ようやく王女の護衛にどうかという話が出始めた頃だった。
妹が────シシリアが獣人族によって連れ去られたのは──。
国家間の問題になる以上動くことができないという父の立場は、私も、そして他の家族も理解していた。
だけど、表立っては気丈に振舞い父の立場を理解していても、裏では涙を流し、声がかれるまで地下で一人叫び泣いていた母を、見てみぬふりは出来なかった。
私にとってもシシリアは大事な妹だ。
だから私は────あれだけ望んだものを捨てて、このウルバリスへ乗り込んだ。
その結果が、あれだ。
攫った獣人を探し出したのは、シシリアがそれと刺し違えて命を落としてから数日後のことだった。
それの家族に他国では誘拐とみなされ国家間の問題となると脅しをつけ、シシリアの亡骸について吐かせた私が再会したのは、共同墓地の一角、棺の中で眠る、まだ綺麗な彼女の姿だった。
私が動くのがもう少し早ければ。
何度も悔やんで、何度も自分を責めた。
国家間の遺体の移動は、厳重な調査を経て許される。
ということは、シシリアがなぜこうなったか、国家間の問題が浮き彫りとなり、父が守ろうとしたものも、シシリアの尊厳も危うくなってしまう。
そう感じた私はシシリアを見晴らしのいい丘に埋め直し、一人では寂しいだろうと、私もそのすぐ近くの屋敷に騎士として雇ってもらうよう手を回した。
主のいない別荘のような場所で、一日あたりの警備をする毎日。
そんな場所で、まさか初恋の女性と再会し、夢に見た彼女の護衛につくだなんて、誰が想像しただろうか。
思ったよりも豪胆で、冷静で、強く賢く、同時にとても優しい女性であるクリスティ様。
もう絶対、大切なものを失いたくない。
「他の何からも、誰からも、必ず守ります」
私に宙に伸ばした手を見つめながら、一人、そう誓った。
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