第7章 : 桜雨の下で
窓の真上から差し込む淡い朝の光が、昨夜の冷気を孕んだ部屋の空気を切り裂くようにマットレスへと届いていた。私は目を覚ました。まだ強張っている顔を両手でこすり、準備を始める。
毎朝、目覚めて最初に行うルーチンは薬を飲むことだ。最近頻繁に起こる、胸の奇妙な痛みに襲われないよう、いつも時間通りに飲むようにしている。
洗面所へ向かい、手早く顔を洗った。
部屋に戻ると, 花弁学園の制服が数着、冷たい床の上に畳まれて私を待っていた。静まり返った私の部屋の中で、その服だけが明確な構造を持ち、異質な贅沢さを放っているように見えた。
私はマットレスの端に腰を下ろした。まず、胸と両腕に巻かれた包帯を整え、左目の眼帯が正しい位置にあるかを確認する。後で主人公やヒロインたちの前に出たとき、無様な姿を見せるわけにはいかない。
それから、腰をかがめて白いシャツの春用制服セットに手を伸ばした。鏡に頼ることなく、私は指先の感覚だけを頼りにする。指先が硬い生地の質感をなぞる。ゆっくりと、ほとんど音を立てない動きで、袖に腕を通した。
下からシャツのボタンを留め始める。指先で一つ一つのボタン穴を慎重に確かめ、硬い襟元に達するまでカチッとはめていく。
次に、シャツの上に重ねる白いベストを手に取った。ベストの首元に頭を通す。暗闇に慣れた私の手は前面をなぞり、光の下で見れば金色に輝くであろう小さな金属ボタンの列を見つけ出す。指先に冷たい金属を感じながら、一つずつボタンを留め、ベストが私の体に綺麗に、そして正確にフィットすることを確認した。
上半身を終え、白いプリーツスカートを履く。それを身に纏った後、両手でスカートの鋭いプリーツをなぞり、どこも折れ曲がっていないことを手触りだけで確かめて整えた。
シャツの襟元を再び確かめ、黒いクロスタイを取り出す。色のコントラストは見えないが、筋肉の記憶を頼りにシャツの襟の下に紐を通し、フックをかける。胸元の結び目が左右対称で、中央に直立していることを指先で確認した。
最後に、外側の保護層である白いブレザー。少し重みのあるブレザーを持ち上げ、包帯を巻いた腕を袖に通した。軽く肩をすくめると、ブレザーが定位置に落ち着く。それからブレザーの襟をなぞり、目を引く赤いラペルの質感の違いを感じ取りながら、肩の折り目がパリッと整っていることを確かめた。
今、私は誰もいない部屋の真ん中に直立している。シャツ、ベスト、黒いクロスタイ、プリーツスカート、そして赤襟のブレザー。完璧な装いだ。
鏡がないため、今しがた誕生したばかりの「花弁学園の生徒」の姿を見ることはできない。けれど、窓からの光と頭上の薄暗いランプによって床に伸びた自分の影——そのシルエットを私はじっと見つめた。
シャツ、ボタン付きのベスト、そして母校のブレザー。そのほとんどが純白で構成されている。
春にこれほど重ね着をさせる、息の詰まるような制服をデザインしたのは誰だろうか。金持ちのための学校というのは、実用性よりも美学と傲慢さを優先するらしい。
私はバッグを手に取った。部屋の隅には、以前湊がくれたミネラルウォーターのボトルが、かつて結露していた跡を乾かしたまま、手つかずで置かれていた。飲むことはなかったが、なぜかそこに置いてある。助けてくれた人からの贈り物を捨てることはできない気がしたのだ。
準備が整うと、部屋を出た。リビングのテレビの前のソファで、母がまだ深く眠っているのが見えた。床が軋んで彼女を起こさないよう、体重を調節しながら慎重に歩いた。
キッチンに忍び込み、できるだけ静かに蛇口をひねって、空の水筒に水を満たした。水流が大きな音を立てないよう、ボトルを斜めに傾けて。
ボトルがいっぱいになると、玄関へ向かい、ゆっくりとノブを回した。
「……行ってきます」
囁くような声でそう言い、外からできるだけ密閉するようにドアを閉めた。
学園へとひた走る電車の中で、私の頭は計画を練り始めていた。今日、私は風早が最初のヒロインの一人と出会うシーンを考えなければならなかった。
原作小説の冒頭では、作者はその少女の外見をまだ詳細に描写しておらず、風早も彼女の名前を聞く機会がなかった。しかし、私が最も覚えているのは、その時の彼女の性格と状況だ。
少女は少し大人しく、疲れ切った様子だった。自転車に乗っていたからだろうか? 二人は少女の自転車が故障していたため、彼女がそれを押しながら、学園まで並んで歩くことになる。歩きながら、彼らは学校について何気ない会話を交わすのだ。もう一つの重要な点。その少女は、私と同じ「一般枠」の外部生だった。
私はそのシーンを見つけ出し、彼らを監視しなければならない。ヒロインの本当の性質と状況を理解しなければ、二人の関係を深める手助けなどできないのだから。
この小説のオープニングシーンへの期待で、胸の奥に奇妙な高揚感が広がっていた。これは、風早がヒロインたちを攻略するのを助けるための、私の第一歩だ。
どの少女が最終的なパートナーになるのか、あるいはエンディングですべてのヒロインとのハーレムルートに突入するのかは確信がない。けれど、それを実現させるために私は全力を尽くすつもりだ。
物語の序盤しか知らないとしても、少なくともその知識は私の助けになるはずだ。
小説の表紙には風早と少女たちのシルエットしか描かれておらず、顔は隠されていた。キャラクターのイラストは、巻を追うごとに一人ずつ明かされていく仕組みのようだった。
くそ、あの夜、すぐに寝てしまわずに最後まで読んでおくべきだった。けれど、起きてしまったことは仕方がない。これまでに読んできた小説の経験からして、メインキャラクターを見分けるのはそう難しくないはずだ。彼らには際立った「オーラ」があるはずだから。ターゲットを見間違えないことだけを願う。
電車が減速し始めた。私は車両の窓に映る自分の姿をわずかに整えた。
「よし」
いいだろう。彼らを見つけ出す時だ。
電車を降りると、私は駅から学園へと急いだ。
道中、自転車を修理している女子生徒がいないか、目を凝らして探し続けた。
もちろん、すぐに見つかるわけではなかった。小説には正確な場所までは描写されていなかった。ナレーションにはただ、風早が登校途中に偶然その少女に出会ったとだけ書かれていた。
入学式が始まるまで、まだ一時間半ほどある。式典が始まる前に見つけ出せるはずだ。
見落としがないか確認するために駅の周辺をしばらく歩き回り、それから学園へと歩き始めた。
春の朝の空気は涼しかった。駅からの道沿いには、桜の並木が満開を迎えていた。風に吹かれて淡いピンクの花びらが舞い落ち、清潔なコンクリートの歩道を覆っている。学園の周辺はエリート向けの住宅街と、整然としたいくつかの小さな都市公園に囲まれていた。
私は円形の公園の近くの道を歩き続け、すべての交差点をスキャンするように見渡した。学校に近づくにつれ、特徴的な白い制服を着た「花弁」の生徒たちの姿が増えていった。彼らはグループで歩き、楽しそうに笑い合い、お喋りをしている。白い制服は、朝の光の中で本当に輝いて見えた。
何度か、自転車に乗った生徒を見かけた。自転車が通り過ぎるたびに、私の視線は即座にそのライダーにロックオンされた。ゆっくりとペダルを漕いでいるショートヘアの生徒もいたが、彼女の自転車はどこも悪くなかった。自転車を押して歩いている生徒もいたが、彼女は少年と話しているのではなく、女友達との会話に夢中だった。
私は、偶然の出会いには理想的な場所である、静かな住宅街や歩道橋近くの下り坂を通る回り道まであえてしてみた。新しくオープンしたコンビニやカフェの前を見て、風早が少女の自転車のチェーンを直すのを手伝っている光景を期待した。
けれど、何もなかった。故障した自転車を押し、疲れ果てた様子で歩く大人しい少女なんて、どこにもいなかった。
私の足は次第に止まった。新しい靴が、かかとに少し違和感を与え始めていた。
「どこなの……?」
私は低く呟いた。
コンビニの時計に目をやった。丸一時間探し続けたが、まだ彼を見つけられていない。私の記憶にある限り、小説では彼らが遅刻して登校したという描写はなかった。
学園の正門前にある最後の交差点を見渡した。学園へのルートをほぼ一周し、あらゆる可能性を排除したが、故障した自転車を持っている者なんて一人も見当たらなかった。
呼吸が重くなる。歩き通して疲れ切った体が、私を停止させた。入学式が始まるまで、あと三十分。
私は公園のベンチに崩れ落ち、花弁学園へと急ぐ白い制服の列をぼんやりと見つめた。
シーンを覚え間違えていたのだろうか? いや、そんなはずはない。あれは二人の出会いのシーン、物語全体の起点となる出発点だ。前世で読んでから二年も経とうとしているが、あんな重要な基盤を忘れるはずがない。
……私が、間違っていた?
桜の花びらが舞い落ちるのを、瞬きもせずに見つめていた。あのシーンの予兆はどこにもない。なぜ? 私がこの学校に存在することで、「バタフライエフェクト」が起きてしまったのか? ここにいるというだけで、私は無意識に何かを変えてしまったのだろうか?
目を閉じ、この二年間にとった自分の行動を一つ一つ思い出そうと脳を絞った。けれど、何もない。私は誰か重要な人物と接触したわけではない。メインのプロットには一切触れていなかった。
その時、恐ろしい考えが突然頭をよぎった。
もし……これまでずっと、この世界が小説だと思い込んでいただけだとしたら?
一瞬にして、体温が急降下した。爪先から骨まで凍てつくような冷たさが這い上がり、全身を包み込んだ。もしこの世界が私の知っている小説ではないとしたら、私はどうやって帰ればいい?
どこで間違えた? 私の記憶は壊れているのか?
気づけば、私の手は白いプリーツスカートの裾を、生地がしわになるほど強く握りしめていた。
頭の中のパニックと共に、聞き覚えのある熱が胸の包帯の裏から広がり始めた。傷跡が再び燃えるように痛む。鋭い痛みが肺を貫き、呼吸が短く、浅くなる。
……落ち着かなきゃ。
震える手で、私はすぐにバッグの中を探り、薬のボトルを取り出した。錠剤を一錠取り出し、無理やり喉に流し込む。苦い味が喉を刺したが、そんなことはどうでもよかった。
膝を抱きしめながら、深く頭を下げて呼吸を整える。永遠のようにも感じられた数分が経ち、化学物質が効果を発揮し始めた。胸の熱は次第に引き、後に残ったのは、疲れ果てるような麻痺した感覚だった。
気づけば、私の顔は紙のように青ざめ、前髪の下の額を冷たい汗が濡らしていた。私はその公園のベンチに、十五分近くも凍りついたように座り込んでいたのだ。
顔を上げると、通りはすでに静まり返っていた。通り過ぎる「花弁」の生徒の数は激減している。もう、時間がなかった。
私は木のベンチから体を起こした。足は少し震え、地面を踏む力も弱かったが、自分に鞭打って学園へと歩き出した。
「どうして……」
空っぽの頭の中に、その一言だけが反響し続けていた。
気づけば、おぼつかない足取りは花弁学園の巨大な門へと私を運んでいた。
鉄の門をくぐった瞬間、目の前の光景に息を呑んだ。朝日に照らされ、桜の花びらが宙に舞っている。鮮やかな赤い絨毯が敷かれ、メインの中庭を二分し、中央の建物へと続いていた。
赤絨毯の両脇には、数十人の上級生が整然と列をなして立っていた。彼らは新入生が通り過ぎるたびに、あえて桜の花びらを宙に撒いているのだ。
その後ろでは、「委員」と書かれた腕章をつけた数人の生徒たちが、落ちた花びらを籐の籠に集め、再び前列に戻して撒き直すという作業に追われていた。
私はこの演劇的な光景に、少し呆気に取られて立ち尽くした。周囲では、到着したばかりの新入生数人が、委員の上級生たちに声をかけられていた。
上級生たちは新入生の胸元に、何か小さな物を取り付けている。
何が起きているのかを把握しようとしていると、突然、誰かが私の方へと歩み寄ってきた。
明るい茶色の髪に、春の太陽のような輝かしい笑顔を浮かべた少女が目の前に立った。彼女は私を真っ直ぐに見つめた。眼帯をつけている私の姿を、奇妙に思っている様子は微塵もなかった。
「花弁学園の新入生だよね?」彼女は親切に尋ねた。
「……はい」私はかすれた声で答えた。
「じゃあ、これは君に。大切にしてね」
彼女が近づいてくるのを、私はただぼんやりと見つめることしかできなかった。彼女の細く温かい指が動き、私の白いブレザーの左襟に、金属製のピンを留めた。
ピンがカチッと小さな音を立てて固定された直後、少女は私の耳元に顔を近づけた。
「花弁へようこそ」彼女はメロディアスな声で、静かに囁いた。「咲き誇れ。そして、その名に栄光を」
彼女は身を引き、心からの笑顔を私に向けた。
私は凍りついたように立ち尽くした。彼女の言葉は、頭から冷たい水を浴びせられたかのようで、私を締め付けていたパニックの霧を一瞬にして晴らしてくれた。
つい先ほど、公園のベンチに座っていた時は、この世界があまりにもリアルで、小説の記憶通りに進まないことに絶望しかけていた。けれど、この芝居がかった台詞、そしてこの過剰なまでの歓迎の儀式……。現実世界の普通の学校が、こんなことをするはずがない。
この世界は、あの小説だ。この儀式がそれを証明している。
そしてなぜか、名前も知らないモブキャラクターの温かい笑顔が、私の胸を少しだけ軽くしてくれた。
「ほら、急いで。入学式が始まっちゃうよ」上級生の声が、私の思考を遮った。
「ホールへ向かって。この赤絨毯を辿っていけば、すぐに見つかるから」
私はすぐに背筋を伸ばし、頷いた。「……ありがとうございます、先輩」私は唇に違和感を感じながらも、無理やり薄い笑みを浮かべて答えた。
「どういたしまして!」彼女は快活に答え、手を振りながら、赤絨毯の上を踏み出す私の第一歩を見送ってくれた。
私は足早に進んだ。上級生たちが投げる桜の花びらの雨が私の周りを舞う。ピンクの花びらが私の髪や肩に柔らかく降り注ぎ、メインホールへと向かう一歩一歩に寄り添っていた。頭の中はまだ少し混乱していたが、先ほど経験した恐怖と、今受け取った奇妙な温かさが混ざり合っていた。
赤絨毯の終点には、先輩が言っていた巨大なホールが荘厳にそびえ立っていた。入口の登録デスクには数人の生徒が群がっている。彼らが名前を告げると、委員がクラスと指定席を教えていた。
ようやく私の番になり、委員がリストをチェックした。私は「1年E組」であることを告げられ、前から六列目の席に行くよう指示された。座席の横にはクラスの標識があり、見つけやすくなっていた。
ホールの二重扉をくぐり、中へと足を踏み入れた。
ほとんどの席はすでに埋まっていた。私は1年E組と書かれた小さな標識を見つけるまで、通路を数歩歩いた。何人かがこちらを振り返り、私を見た。私の髪の色のせいか、あるいは左目の眼帯のせいだろう。私は彼らの視線を無視し、ぎっしりと並んだ膝の間を通り抜けて、その列の空席を見つけた。
すぐに腰を下ろし、足元に慎重にバッグを置いた。
呼吸が完全に落ち着くのを待つ間、顔を上げた。ホールは非常に豪華に装飾されていた。
天井からは大きな桜の形をしたガラスの装飾が吊り下げられ、巨大なシャンデリアの光を反射している。部屋の雰囲気は非常に明るく、まさに満開の春の本質を体現していた。周囲では、他の生徒たちが隣に座る新しい友人との会話に夢中になっているようだった。
私はまだ誰一人知っている者がいないので、ただ静かに彼らを眺めていた。新入生の入学式がこれほどまでに贅沢なものだとは、本当に予想していなかった。
小説の冒頭で説明されていたとはいえ、テキストを読むのと、現実世界で自分自身がそれを体験するのとでは、威圧感のレベルが全く違った。
ゆっくりと、視線がブレザーの左側へと落ちた。
指先を上げ、先ほど先輩が付けてくれたピンの表面に触れた。それを撫でると、金属の縁にわずかな傷があるのを感じた。その傷のおかげで、このピンが工場で大量生産された新品ではなく、長い間存在し続けてきたものであることに気づいた。
好奇心に駆られ、私はブレザーからそれを外し、もっと近くで見てみることにした。
ピンは光沢のある銀色で作られ、桜の花びらの形をしており、中央には小さな血のように赤いルビーが埋め込まれていた。
ピンを裏返し、背面を見た。そこには、シリアルナンバーと一連の数字が整然と刻印されていた。
「03-617……?」
これがシリアルナンバーだろうか? 数字の横には、盾の形をした小さく精巧なロゴがあった。
ピンの刻印を注意深く調べていると、突然、私の名前を呼ぶ声がした。
「夏目さん」
私はわずかに肩を震わせた。顔を上げ、右を向くと、見覚えのある顔を見て少し驚いた。合格発表の掲示板を確認したときに出会った、紺色の髪の少年の顔。今も私の部屋の隅に置かれている、冷たい水のボトルをくれたあの奇妙な男だ。
「……湊くん?」私は無意識に言った。
「ああ、やっぱり夏目さんだ。遠くから見て、そのダークなオーラに聞き覚えがあると思ったんだよ。まさか同じクラスになるとはな」彼は気負わずに答えた。隣の空席に座りながら、彼の顔に微かな笑みが広がった。
体が強張る。生存本能が即座に作動した。
「右手の具合はどうだ?」
彼は声を潜め、最初に出会った時のことを少しからかうように尋ねた。
「黒龍は、このエリートな環境に慣れてきたか?」
私はゆっくりと息を吸い込み、すぐに「キャラ設定」を呼び出して自分のぎこちなさを覆い隠した。足を組み、右目だけで彼を鋭く一瞥する。
「当然よ」私は平坦に答えた。「この場所の豪華なオーラは、その激しい気性を鎮めるのに十分だわ。それに、私の瞳の封印も今日は完璧に共鳴しているわ」
湊は低く笑った。嘲笑うような響きは全くない、穏やかな笑いだった。
「このホールのベンチ、結構座り心地がいいよな」彼は何気なく言った。
それから彼は、ホールのデザインから正門の列の長さまで、他のどうでもいい話を始めた。私はフロントのマイクの声が私たちの会話を遮るまで、曖昧な生返事で応じていた。
司会者が入学式の開始を告げた。直後、ホールの隅にある巨大なスピーカーからインストゥルメンタルの音楽が流れ始めた。司会者は私たち全員に起立し、国歌を斉唱するよう求めた。
人々が立ち上がり始めるのを見て、私は急いでピンをブレザーに戻し、立ち上がった。
私たちは厳かに、そして一斉に国歌を歌った。最後の一音が消えた後、私たちは整然と着席するよう促された。ホールの雰囲気は、瞬時に非常に静かで公式なものへと変わった。
その後、校長が登壇した。彼は開式の辞を述べ、ビジョンとミッションを説明し、校長らしい長々とした標準的なスピーチを行った。私は彼の言葉をほとんど無視しかけていたが、彼が学園創設の歴史を簡潔に語り、「レガシーピン(Legacy Pin)」の伝統について少し触れたところで耳を傾けた。ただし、より詳細な情報は後で生徒会長から提供されるとのことだった。
校長が降壇した後、式典はいくつかの重要な来賓代表のスピーチへと続いた。そのほとんどは、提携大学の理事や、巨大な企業スポンサーの代表たちだった。聞き慣れない肩書きや企業名の羅列を聞きながら、私は自分の世界がいかにこの場所と異なっているかを痛感した。このようなエリート提携の資本主義システムを持つ学校では、ごく普通の光景なのだろう。
次のセッションは私にとって非常に興味深いものだった。担任教師の発表だ。自分のクラスを導く教師が、物語の中に登場したキャラクターの一人であるかどうかを知りたかった。
私のクラスの番になると、「椿リナ(つばき りな)」という名前が呼ばれ、部屋中に響き渡った。ステージ横の教師席の列から、一人の女性が立ち上がった。非常に美しい、若い教師だった。彼女の髪は明るい銅色——茶色とオレンジが混ざったような色——で、綺麗に結ばれていた。
彼女は列から歩み出て、自然な優雅さで軽くお辞儀をした。指示通り、私とクラスメイトたちも一斉に立ち上がり、敬意の印として彼女にお辞儀をした。
教師の紹介が終わると、式典は生徒代表のスピーチへと続き、部屋の雰囲気がわずかに変わった。生徒会長がメインの演台へと上がった。
生徒会長は、短い銀髪に、背が高く頑丈な体格の男だった。引き締まった顎のラインと真剣な眼差しを持ち、小説家が描くリーダーキャラクター特有の絶対的な支配オーラを放っていた。
「おはよう。そして、花弁学園へようこそ。私は生徒会長の九条隆宗だ」彼は言った。彼の声は低く、ホール全体に響き渡った。驚いたことに、第一印象は非常に厳格だったが、挨拶を述べる彼の声のトーンは非常に温かく、親しみやすいものだった。
彼は、先ほど赤絨毯に撒かれた桜の花びらについて語ることからスピーチを始めた。それを、学園創設以来続いている、すべての上級生からの愛情と心からの希望の形だと呼んだ。その後、学校生活についての標準的なアドバイスを行い、実績を追求し、組織活動に励むよう私たちを励ました。彼の言葉には、見下すような態度は一切なかった。
しかし、甘い冒頭の挨拶を終えると、彼の表情は次第に厳粛なものへと変わっていった。彼は、先ほど校長が触れたトピックについて語り始めた。
「今、君たちの左胸に留められているピンについてだ」生徒会長は言い、ホール内のすべての新入生を見渡すように視線を走らせた。「それは単なる制服のアクセサリーではない。それは『レガシーピン』だ」
私は反射的に、胸元の小さなルビーに再び触れた。
「それは、何世代にもわたって受け継がれてきた伝統だ。この学園が創設されてから約四十八年間守り続けられてきた歴史だ」彼は続けた。「今日君たちが身につけているすべてのピンは、君たちの前の世代が身につけていたものと全く同じものだ。そこにある小さな傷は、時の流れの証拠なのだ」
生徒会長の声は、ホール全体を魅了した。
「それぞれのピンの裏にはシリアルナンバーがある。その数字が、そのピンの系譜を教えてくれる」生徒会長は言った。「中央図書館でそれを調べてみるといい。そこには、第一世代からの各シリアルナンバーの歴史を記録したマスターアーカイブがある」
「運が良ければ、君の胸にあるピンが、かつての国会議員や、有名なプロ野球選手、あるいはこの国を支える巨大企業のCEOが身につけていたものであることに気づくかもしれない」
彼の親しみやすいトーンは、なぜか歴史の重みと、ピンの価値への感情的な近さを私に感じさせた。それは単なる金属片ではなく、新入生と過去のエリートたちを繋ぐ架け橋なのだ。
しかし、その温かさは、生徒会長が警告を発した瞬間に消え去った。
「かけがえのない歴史的価値があるゆえに」彼の声は低くなり、完全な注目を要求した。
「レガシーピンを紛失することは、許されざる不名誉だ。それは君が、自立と責任という面において完全な失格者であると判断されたことを意味する。紛失者は最高レベルの懲戒処分を受け、その汚点は君たちの記録に永久に刻まれることになる」
彼は沈黙し、脅しの重みが私たちの心に沈み込むのを待った。
「だが、最も重い罰は学校からのものではない。最も重い罰は、君たちが歴史の鎖を断ち切ってしまったという事実だ。学校は新しいピンと交換することはできるが、新しいピンには新しいシリアルナンバーが刻まれる。君たちの古いピンの鎖は、二度と繋がることはない。先人たちによって慎重に守られてきた歴史の記録は……君たちの名前と共に死に、永遠に終わるのだ」
ホール内は瞬時に静まり返った。その社会的な脅威は、どんな肉体的な罰よりも恐ろしかった。このエリート機関の歴史的遺産を破壊することの重大さを、私たちは本当の意味で実感させられた。
その威圧的でありながらも魅力的なスピーチの後、生徒会長は甘い言葉ではなく、絶対的な挑戦の言葉で締めくくった。「ゆえに、自らがその歴史を受け継ぐにふさわしい存在であることを証明してみせろ」彼は力強く言った。
そして、権威に満ちた微かな笑みを浮かべ、先ほど外で先輩が私に囁いたのと全く同じ言葉を口にした。
「改めて、花弁へようこそ。咲き誇れ。そして、その名に栄光を」
彼は一礼してステージを降り、重い期待感と、私たちの心に反響する壮大さを残していった。
式典の最後は、新入生代表による宣誓だった。
一人の少女がメインステージに上がった。ステージのライトが彼女の顔を照らした瞬間、私の目はわずかに見開かれた。その紫の髪、その立ち姿……。私はすぐに彼女だと分かった。彼女は私と同じ中学校の卒業生だった。中学の頃、私は花弁学園に入るために必死に勉強していて、周囲に目を向ける余裕なんてほとんどなかった。
彼女が当時から目立つ生徒だったのか、それとも平凡だったのかさえ、私は知らなかった。
少女はマイクの前に堂々と立ち、微塵の躊躇もなく、眼下の精鋭生徒たちの海を真っ直ぐに見据えた。
「新入生代表」彼女の声が響いた。澄んでいて、揺るぎない声だった。「月城 雫」
月城 雫。
その名前を耳にした瞬間、私の記憶は即座に彼女のイメージをロックした。彼女がそこに立っているのを見て、私の本能が即座に推測を始めた。花弁学園のような学校での新入生代表という名誉ある地位……。この少女のプロフィールは、脇役にしてはあまりにも目立ちすぎている。彼女は、間違いなくメインヒロインの一人だ。
私の唇に、微かな笑みが浮かびそうになった。もし私の推測が正しければ、これは絶好の機会だ。風早の青春ラブコメ計画を円滑に進めるためには、後で二人を繋げる方法を見つけなければならない。そして、雫と私が同じ中学の出身であるという事実は……。怪しまれずに彼女に近づくための、非常に自然な理由になるのではないだろうか?
彼女が自信を持って宣誓を読み上げるのを聞きながら、私は頭の中で簡単なシナリオを組み立て始めた。そう、適切なタイミングで彼女に挨拶をすればいいだけだ。
彼女のスピーチが終わり、雷鳴のような拍手が部屋を満たした後、入学式は公式に終了した。
生徒の列は、一人、また一人と解散し始めた。マイクが再び入り、ホールを出てそれぞれの教室に移動するよう指示された。
私は素早く左目の眼帯を整え、頭の中で整理された計画を持って歩き出す準備をした。
「夏目さん」声が私の思考を引き裂いた。
振り返ると、湊が隣に立っていた。「長い式典だったな。行こうぜ。廊下が混む前に教室を見つけなきゃ」
私はゆっくりと瞬きをし、計算モードから自分を引き剥がして防御態勢を戻した。普通に答える代わりに、トーンを少し落とし、自分の役割を演じた。
「ええ……真実の幕が、今上がったばかりよ」私は静かに答えた。自分の本当の計画を隠すために、あえて曖昧な台詞を使った。「この学園の運命の歯車が、回り始めたわ。湊くん」
それを聞いて、湊の唇の端がわずかに上がった。彼はそれを無視する代わりに、私が作ったシナリオに滑らかに入ってきた。
「それなら、他の勢力に奪われる前に、俺たちの新しい本拠地を確保しなきゃな?」彼は私の役割に合わせるように、あえて真剣なトーンで答えた。「行こう」
私は小さく頷いた。内側では、奇妙なむず痒さを感じていたけれど。正直に言って、湊が私の馬鹿げた芝居にここまで付き合ってくれるとは思っていなかった。彼のような普通の人間が、あんな大げさな話し方をしているのを見ると……正直、こちらまで少し恥ずかしくなってくる。
けれど、それでも私はホールから溢れ出すエリート生徒たちの海を、彼について歩いた。少なくとも、湊が私の芝居に付き合ってくれる限り、私の正体はまだ安全だ。……そして、私はすでにターゲットの一人を見つけ出すことに成功したのだから。
皆さん、こんにちは。作者です。
新キャラクターたちの深掘りに没頭していたら、予想以上に時間がかかってしまいました。まだ制作途中の部分はありますが、クラス内の人間関係が固まってきたので、まずはこの章を公開することにしました。
今回のエピソードは少し熱が入りすぎてしまったため、全体の長さを抑えるために入学式の描写は重要な部分だけに絞って編集しています。
正直なところ、最近は執bitペースが少し落ち込んでいて……。物語の整合性や理屈を考えすぎてしまい、たった一段落を書き進めるのにもかなり苦戦している状態です。




