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第5章 : やっと、辿り着いた。

不安定な足取りで自分の部屋へ戻った。廊下の壁だけが支えだった。頭が重く、まるで何かに左へ引っ張られているようだった。視界はぼやけ、左側に薄い霧が張りついているかのようだった。


廊下はいつもより長く感じられた。天井の照明は視界の端でわずかに歪んで見え、その影は本来よりもほんの一瞬だけ長く残っているように思えた。


私は手を上げて左目に触れた。


すぐに痛みが走った。

その周りの皮膚は熱を帯び、張りつめていた。少し強く押すと、鈍い脈打つ痛みがこめかみへと広がった。指先の下で、皮膚が腫れているのがわかった。


ようやく寝室のドアにたどり着いた。ゆっくりと開けて閉め、部屋の中央で立ち止まり、呼吸を落ち着かせようとした。


天井の薄暗い灯りは、部屋の一部しか照らしていなかった。隅は影に沈んだままだった。普段なら気にも留めなかっただろう。だが今は、片側の光が異様にまぶしく感じられ、もう片側は闇に飲み込まれているようだった。


マットレスのところまで歩き、ゆっくりと腰を下ろした。床に映る自分の影は不完全で、左側が切り取られたかのようだった。


ポケットから薬の瓶を取り出した。震える手で蓋を開ける。いつものように水も飲まずに錠剤を飲み込んだ。この薬があざを治すことはないだろう。それでも、頭の重い脈打つ感覚と左目の周囲の痛みは少し和らぐはずだ。


「こんなんじゃ勉強できない……」


薄暗い部屋の中でも、視界は不均衡だった。左側はさらに暗く、光が触れることを拒んでいるかのようだった。


やがて私は眠ることにした。


頭は鈍く脈打ち、体は消耗していた。明日、顔を確認しなければならない。


目を閉じても、回転するような感覚は完全には消えなかった。数分後、ようやく疲労が私を本当の意味では安らかではない眠りへと引き込んだ。



壁の上の換気口から朝日が差し込み、床に明るい線を作っていた。


ゆっくりと目を開ける。


一瞬、すべてが普通に感じられた。だが光が顔に直接当たった。

左側の視界が刺されるように感じた。昨夜のような痛みではない。光が強すぎて、鋭く、しみるようだった。目を細め、顔を少し背ける。


私は手を上げ、無意識に右目を覆った。


換気口からの光はそのままだった。


だが格子は細く、はっきりしなくなっていた。淡い色に見えていた壁も、薄い埃をかぶったように鈍く見えた。


何度も瞬きをする。

何も変わらない。


手を下ろし、右目を再び開く。


世界は再び奥行きを持ったように感じられた。

私は黙り込んだ。


「寝起きだからかも……」


少し重い足取りで洗面所へ向かった。部屋よりも明るい白い光が、鏡の前に立った瞬間に顔へ当たった。


左目が腫れているのがわかった。まぶたがわずかに垂れ、右より細く見える。青紫色がその周囲に広がっていた。


数秒間、自分の顔を見つめた。

左側は腫れのせいで少し重く見え、まつ毛は垂れたまぶたのせいでくっついているようだった。


何度か瞬きをする。


視界はまだ少しぼやけているが、昨夜ほどのめまいはない。


幸い、母が持ってきた薬箱を部屋に置いていった。私はそれを取り、眼球に触れないよう注意しながらあざに軟膏を塗った。


今日は土曜日。

学校は休みだ。


普段なら勉強している時間だ。だが今朝は、畳に静かに座り、窓から差し込む光が床をゆっくりと移動するのを眺めていた。


部屋の隅に鞄が置かれていた。しばらくしてそれに手を伸ばし、開けた。


きれいにしまっていた試験用紙はまだ中にあった。


それを取り出し、換気口から差す光を利用して床に広げた。


数字は見える。だがいつもほど鮮明ではない。文字の細い線がわずかに広がって見え、読み間違えていないか確認するために顔を近づけなければならなかった。


一枚を光の真下に移動させる。


ほとんどすぐに左目の奥に重さが現れた。紙を数分見つめただけで、頭が詰まったように感じた。まるで長時間読んだ後のようだった。


私はやめた。


点数は確実に上がっている。少しずつ。


だが今日は、薬を飲んでも体がいつも以上に疲れていた。


用紙をまとめ、壁にもたれた。


今日は勉強しないことにした。


やがてマットレスに横になり、目を閉じ、部屋を再び静寂に戻した。



夕方に目が覚めた。


換気口からの光は位置を変え、床の上、鞄の近くまで伸びていた。


ゆっくりと立ち上がる。


床に置いた鞄に足が引っかかった。さっき見たときは、もっと離れているように思えたのに。


私は立ち止まり、じっとそれを見つめた。


思っていたほど遠くない。


しゃがみ込み、ファスナーに手を伸ばす。


だが手は空を掴んだ。少しずれて、ようやく布地に触れた。


もう一度、今度はゆっくりと手を伸ばす。


見えている位置と、実際に掴もうとしている位置の間に、わずかなズレがあった。


視線をマットレスの横にある本へ移す。


表紙の縁はまっすぐに見える。だが数秒見つめ続けると、その横に薄くにじんだインクのような線が現れる。視線を少しずらすと、その線は再び重なった。


瞬きをする。


変わらない。


私はすぐに立ち上がり、部屋を出た。


廊下はやはり長く感じられる。足の裏が確実に床に触れてから体重を移すように、慎重に歩く。通り過ぎるたび、無意識に手が壁に触れた。


洗面所に入り、電気をつける。


白い光がすぐに顔を照らす。目を細める。


鏡に映った自分の姿に、足が止まった。


左目はまだ腫れている。まぶたが少し垂れている。


だが、私を凍りつかせたのは鼻だった。


その横に、薄い影がある。焦点を合わせないと、その影は元の形からわずかにずれているように見える。


一歩近づく。


顔が近すぎるように感じ、次の瞬間には遠すぎるように感じる。鏡との距離がつかめない。


手を上げる。


指先は鏡面に触れる寸前で止まり、ほんの少し遅れて実際に当たった。


私はまっすぐ自分の目を見つめる。


像が、ほとんど重なる。

ほとんど。


左目の奥に重さが押し寄せる。


反射的に左目を閉じた。


世界が一瞬で安定する。


鏡像がひとつになる。


両目を開く。


薄い影が再び現れる。


今度は浴室の光がまぶしすぎる。鏡の縁の光が、長く見つめていると広がるように感じる。


電気を消す。


薄暗い中では、鏡の縁は先ほどのように広がらない。影は残る。ただ、よりぼやけている。


心臓が速く打ち始める。


これは、ただのあざじゃない。


私は急ぎ足で部屋へ戻り、敷居につまずきかけながらマットレスに座り込んだ。鞄はまだ床にある。


しばらく見つめたあと、無意識に左目を閉じる。


世界が安定する。


鞄の輪郭はまっすぐで、横に影はない。床の角も揺れない。


両目を開く。


薄い影が戻る。


鼓動が速くなる。


左目を閉じる。

開く。

また閉じる。


結果は同じだった。


片目なら安定する。両目だと、世界がわずかに位置をずらしているように感じる。


「そんなはず……」


鞄から本を取り出し、素早く開く。


小さな文字は、長く見ていると溶け合うように重なる。各行の横に薄い影がある。


強く瞬きをする。


変わらない。


左目を閉じる。


文字ははっきりする。


胸が締めつけられる。


私の目……左目に、何が起きてるの……


もし本当に問題なら、どうやって試験を受ける?

どうやって素早く問題を読む?

どうやって勉強する?

もっと悪化したら?


震える手で本を閉じた。


数秒間、ただ座り、不規則な呼吸を落ち着かせようとする。


両目を開き、再び違和感のある世界を受け入れる。影はそのまま、微動だにしない。


鼓動が速い。

喉の空気が重い。


立ち上がった瞬間、鞄にまたつまずきかけ、マットレスに崩れ落ちた。枕を抱きしめる。胸の内側のざわめきがあふれ出さないように。


一時的なものだ。


まだ腫れが引いていないだけ。

神経が少し圧迫されているだけ。

明日になれば元に戻る。


そう何度も心の中で繰り返す。鼓動がゆっくり落ち着くまで。


空腹も喉の渇きも曖昧になる。思考の渦がすべてを覆い隠す。


薬の瓶に手を伸ばし、素早く飲み込む。苦味が、少なくとも思考を鎮める助けになる。


目を閉じる。


疲労か、それとも体が先に限界を迎えたのか、やがて眠りに落ち、土曜日はそのまま過ぎていった。



朝の光が、すでに部屋の奥まで差し込んでいる頃に目が覚めた。


体が重い。胃は空っぽで、喉は乾いている。昨日はほとんど何も口にしていなかった。


数秒間、ただ横になったまま、壁の上の換気口を見つめる。長く見つめると、格子の横にやはり薄い影が現れる。


少しも良くなっていない。


マットレスから体を引きずるように起こし、浴室へ向かう。昨日のように距離を誤らないよう、慎重に歩く。


電気をつけ、シャワーの蛇口をひねる。


冷たい水が肌に触れる。


頭から肩へ、水を流す。髪が顔に張りつく。まだ腫れている左まぶたの上を水が伝う。


両目を開けたまま、正面のタイルを見る。


長く見ていると、わずかに揺れているように感じる。床の線の横に、かすかな影。足を動かすと、足場を確認するのに一瞬余分に時間がかかる。


片目を閉じる。


床は正しい位置に戻る。


再び開くと、ずれがゆっくりと戻ってくる。


水は流れ続ける。


明日は月曜日。


学校の廊下。階段。黒板。小さな文字が詰まったノート。


この状態なら、歩くのも不安定になる。読むたびに焦点を合わせ直さなければならない。


両手で顔をこすり、数秒間、息を止める。


腫れがまだ引いていないだけ。

神経が少し圧迫されているだけ。


心の中で繰り返す。だが答えがそれほど単純でないことも、どこかで分かっている。


水が冷たく感じ始める。


シャワーを止め、しばらく立ち尽くす。入浴しただけで、異様な疲労感がある。


部屋に戻り、マットレスに座る。薬箱は鞄のそばに置いたままだ。


開ける。


残っている包帯を取り出す。布のように折りたたみ、左目を覆う。


残りの包帯で即席の紐を作り、動いてもずれないように結ぶ。


顔を上げる。


マットレス横の本の縁に、もう薄い影はない。


部屋は少し狭く感じるが、床も壁の角も揺れない。


ゆっくりと頭を左右に動かす。視界は安定している。


片側を覆うと、確かに見える範囲は狭くなる。


床を見つめる。


それでも、このほうが動きやすい。


静かに息を吐く。


明日も、いつも通り学校へ行く。



ナツメ・コハルになってから、一年半が過ぎていた。


時間は、ほとんど意識しないまま流れていく。


同じ日々が繰り返され、やがて私は、アイパッチのない生活を思い出せなくなっていた。


左目は完全に壊れている。


数日間つけ続けたあと、元に戻る可能性を考えるのをやめた。


中二病の口調にも慣れた。最初はただの言い訳だった。それがいつの間にか癖になる。


人々は私の目について尋ねなくなった。結論は単純だった。治らない中二病。


何人かの教師は理由を聞いたが、答えると、それ以上踏み込まなかった。


成績は少しずつ上がり続けた。


この中学校で、友達と呼べる存在はできなかった。


理由は分からない。ただ、皆が自然と距離を取る。


交流したくなかったわけではない。だが、私とクラスメイトの間には、薄いガラスの膜があるようだった。


笑い声は聞こえる。会話も聞こえる。


だが、その輪の中に私はいない。


特にグループ課題のとき、それを強く感じた。


教師が気づくまで、私はどの班にも入らない。


一度や二度ではない。教師は、私を入れる“空いている班”を覚えるようになった。


話し合いのときは意見を述べる。必要な返答は返ってくる。


そのあとは、私を含まない会話が続く。


テレビ番組。部活。週末の予定。


聞こえるが、入り込む隙間はない。


何か言葉を挟めば、一瞬だけ会話が止まり、別の話題へ移る。


私は、招かれていない客のようだった。


西村とその友人たちは、私が通り過ぎるたびに名前を口にした。


何を言われているかは分からない。近づくと、必ず沈黙が落ちる。


私は、どの会話にも、どの活動にも含まれない。


家では、状況はほとんど変わらない。


母は感情のはけ口を求めてやってくる。夜。朝。あるときは、私が眠っている間に。


左目の視力が落ちてから、彼女が近づくたび、反射的に顔を覆うようになった。


右目まで失う可能性は、深く考えない。


時間があれば勉強する。


成績はゆっくりと上がった。急激ではない。だが確実に。


やがて、その変化は周囲にも見えるほどになった。


ある日、数学の教師が中間試験を返却した。


いつもより早く私の名前を呼んだ。ミスではない。


点数はクラス二位。


教室が一瞬静まり、後ろの椅子がきしむ音がした。


「マジで?」


小さな声。


私は微笑み、答案を受け取る。右上の数字は明確だった。


その週、掲示板の上位に初めて自分の名前が載る。


その日を境に、笑いの質が変わった。


ただの嘲笑ではない。そこに別の感情が混ざる。


それでも、輪に入ることはない。


だが、成績が配られるたび、彼らは私の名前を見る。


少なくとも、完全な透明ではない。


教室の中では。


土日だけが、考えずに済む時間だった。


午後、公園へ行く。


最初は、毎週同じブランコに座り、足先で地面を押すだけ。


風が頬に触れる。その間だけ、何も考えなくていい。


ある日、小さな男の子が立ち止まり、私のアイパッチをじっと見た。


「目、どうしたの?」


無邪気な声。


「黒竜の封印。」


何気なく答える。


数秒の沈黙。

それから目を輝かせる。


「かっこいい。」


笑いも、ひそひそ声もない。ただ純粋な反応。


それ以来、彼らは私を遊びに誘うようになった。


滑り台を走り回る。軽すぎるボールを投げ合う。


「魔王城が襲撃された」と言えば、影の兵士になる。

木を指して「次元門」と言えば、疑いなく隠れる。


いつの間にか、私はそこで試していた。


口調。言葉選び。立ち方。手の動き。


それらは“遊び”として受け入れられる。


動きが少し遅くても気にしない。左をあまり見なくても問わない。近づいても声を落とさない。


言葉を選びすぎる必要がない。空気を読む必要もない。


公園では単純だ。


笑えば、面白いから。

怒れば、はっきり言う。


走り回る日もあれば、ただブランコに座る日もある。


その間だけ、どの輪の外側にもいない。


公園は、私の知るどこよりも楽しかった。


遊び終え、ブランコに座って休む。


明日は、花びら学園の合格発表の日。


いつもより少し長く、ブランコに座っていた。



換気口からの光が床に細い線を作る頃、目が覚めた。


体を起こし、左目にアイパッチをつける。薬も飲む。


胸の傷はとうに塞がり、瘢痕になっている。それでも薬を飲まないと、時折、熱を帯びる感覚がある。


飲めば消える。


部屋の隅を見る。壁際に、乱雑に畳まれた服。制服以外は二着だけ。


今日は白いブラウスと暗い色のスカートを選ぶ。


浴室へ持っていく。


狭い空間で慎重に着替える。床は冷たい。最後に黒いジャケットを羽織る。薄い包帯が巻かれた腕の一部を隠す。


小さな鏡の前で、指で髪を整える。


静かな住宅街を五分歩き、駅へ向かう。朝の風がジャケットの裾を揺らす。手をポケットに入れ、小さな震えを抑える。


電車が金属音とともに到着する。


車内で、背の高い人々に囲まれ立つ。香水の匂いと冷たい空気。吊り革を握る。


窓に映る自分の顔。


最悪の想像が浮かぶ。


名前がなかったら。

落ちていたら。

すべてが空虚だったら。


新宿で降りる。


人の流れに押される。高層ビルが空を狭くする。


花びら学園は駅から数分。


近づくほど、緊張が強まる。


掲示板の前はすでに人だかり。笑い声。叫び声。足音。


一瞬立ち止まる。


それから中へ入る。


人混みに押されながら、掲示板の前へ。


視線を走らせる。


下から確認する。


最下段。


その上。


ない。


少しずつ視線を上げる。一文字ずつ追う。


ない。


胸に焦りが広がる。


さらに上へ。


ない。


鼓動が速まる。


最上段を通り過ぎかけたとき、最初の文字が目に入る。


ナ—


もう一度読む。


ナツメ・コハル


無意識に手が掲示板に触れる。


名前がある。


15位。


もう一度確認する。


変わらない。


周囲の音が遠のく。


一年半。


頭痛に耐え、薬を飲み、文字がにじむまで読み続けた。


名前は、そこにある。


合格。


「……やっと。無駄じゃなかった。」


笑い声はかすれている。


すべての圧力が、一気に抜ける。


軽すぎる。


頭が空白になる。


視界の端が暗くなる。掲示板の文字が遠ざかる。


息が薄い。


膝が抜ける。


体が傾く。


腕を誰かが掴んだ。


「大丈夫か?」


何度か瞬きをする。


「大丈夫です。」


「医務室に行くか? 学園内にあるはずだ。」


「少し……疲れただけです。座れば平気です。」


人混みから連れ出され、掲示板近くの長椅子へ。


背もたれに頭を預ける。


「ここで待ってて。水を取ってくる。」


「いえ、大丈——」


すでに離れている。


目を閉じる。


体が空っぽだ。力を掲示板の前に置いてきたように。


ゆっくり息を吸う。


「……やっと、辿り着いた。」

やあ……作者です。

やっぱり明日は無理みたいです、はは。昨日、急な用事が入ってしまいました。

そしてついに新しい章に入ります。メインストーリー「ハナビラ」です。(これまで何回この名前を出したでしょうか? 今回こそ本当です。)

プロローグがかなり長くなってしまいましたね、すみません。本当はもっと軽いテーマを選ぶべきだったかもしれません - , -

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