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夜のコンビニと君のブラックコーヒー  作者: アキラ・ナルセ
第13章 前途多難な新学期編

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プロローグ ver.2

 ――コンビニを出て、夜道を歩くこと十数分。


 駅前の路地の奥に、その店はある。


 たしか、渚先輩の送別会をやった居酒屋だ。


 ガラガラ、と。


 年季の入った引き戸を開けると、焼き鳥の香ばしい匂いと店の熱気が、どっと押し寄せてきた。


「おーい! こっちこっち!」


 奥の座敷から、ジョッキ片手に手を振る人がいる。


 黒髪に、落ち着いた物腰。


 耳元で小さく揺れる――青いピアス。


 目が覚めるほどの美人が、そこにいた。


 ――渚先輩だ。


「すみません、遅くなりました」


「遅い遅い。どうせまた、あのベンチで話し込んでたんでしょ」


「「……」」


 図星だった。


「あはは! わかりやすいなぁ、君たちは」


 全部お見通しらしい。


(この人には、一生敵う気がしない)


 * * *


 三人分のグラスが揃うと、渚先輩がすっと居住まいを正した。


「じゃ、改めて――大河、澪ちゃん。入籍おめでとう!」


「「ありがとうございます!」」


 カチン、と軽い音が鳴る。


 渚先輩はジョッキを一口あおると、ふっと目を細めた。


「……よく頑張ったなぁ、お前たち」


(……ああ、この感じだ)


 この、まっすぐなあったかさ。


 何年経っても、この人はちっとも変わらない。


「いやー、それにしても。まさか本当に結婚するとはねぇ。あの、タイミングブスくんが」


「先輩。俺、そのあだ名はもう卒業したはずじゃ……」


「何言ってんの。あだ名ってのは一生物だよ?」


「ふふっ」


 隣で澪が吹き出した。


「おい、笑うなよ澪……」


「ごめんごめん。だって、ほんとのことだもん」


(味方がいない)


 まったく。


 この二人が仲良しなのは、今も昔も変わらないのだった。


 * * *


「――で?」


 ひとしきり笑ったあと、渚先輩がぐっと身を乗り出してきた。


「さっきまで、二人でずーっと昔話してたんでしょ。だったらさ、私にも聞かせてよ」


「聞かせるって……何をですか?」


「決まってるじゃん。――私が東京に行ってからの、一年間」


 青いピアスが、店の灯りを受けて小さく光る。


「メッセージじゃちょこちょこ聞いてたけどさ。文字とナマの話は別だぞ、大河」


「あー……」


 どこから話したものか。


 なにせ、あの一年は本当に色々あった。


 コンビニには新人がどっと入ってきて、毎日てんやわんや。


 学校は学校で、新学期からずっとお祭り騒ぎ。


 笑って、焦って、悩んで、走って――たまに、泣いた。


 長いようで短い、やけに濃い一年間。


「……澪。どこから話す?」


「そうだね。……やっぱり、最初からじゃないかな」


 澪は左手でグラスを置くと、いたずらっぽく笑った。


「ほら。大河が、教室で私の名前を呼べなくて大騒ぎしてたあたりから」


「それを本人の前で言うか!?」


「あっはっは! 何それ、超聞きたい!」


 ……こうして、俺の羞恥心と引き換えに夜は更けていくのだった。


 まぁ、いい。


 それじゃあ少し長くなるけど――俺たちの“三年生”の話を、始めるとしよう。


 すべては、あの春の朝。


 昇降口の、一枚のクラス表から始まったのだ。


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