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魔界の平和は彼らによって  作者: ダイアのナイン
第1章 皇国遠征編
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Chap1 ep18-拮抗、戦場は雨模様

 レイエス小隊が待ち構える山間部は、湖から皇都への最短ルートとなっており、先の騒動でも激戦が繰り広げられた。


 今度の百鬼夜行でもこの砦が最重要関門になることは疑いない事実である。魔物の軍勢と向かい合う形で、皇国軍の大規模勢力とウォック小隊の合同部隊が配置されているとは言え、たったの1個小隊、それも隊長処女であるレイエスの隊に任せることには反対の声が上がっていた。


 当のレイエス小隊長も自身にとっては過剰なまでに重い荷を背負わされたことを痛感している。

 

 班長と弓手がいないフローセル班は人数過少により別班に併合された。かつて班長が伏せた街道と灰に染まった草原から、苦々しい思い出が脳内を巡る。皇国へ来てからそう長く日は経っていないが、独特の魔物や風景は、すっかり見慣れてしまっていた。


 緊張感に包まれたレイエス小隊の耳に、壮大な魔術砲の音が響く。


「始まっ、てしまったのか」


 小隊長の呟きは誰の耳にも届かなかったが、その

声には確かに絶望感が滲み出ていた。第一撃が鳴り止むと、山間部は再び沈黙に帰す。しかしそれも長くは続かない。第二撃が轟く。


 一撃で仕留め切れなかったと取るか徹底した殲滅であると取るか、捉え方は様々であった。どちらにせよ、第三撃が訪れることはない。代わりに小隊長の通信魔術具が音を上げる。


『完封作戦、失敗。山間部まで撤退する』


 全身を針で刺されるような感覚が、小隊長を襲った。怯んではいられない、自身を鼓舞するために拳を握り締め、声を張り上げる。


「武器を構えろ! シュレン小隊を保護する!」


 よく通る声は広範囲に響き渡った。突然の指令に、小隊中に更なる緊張が走るが、動揺は見られない。


「ジーケル、ステイナー。最前線は任せる」


「ああ。俺達で戦況を変えてやる」


 同班の大盾使いと剣士は劣勢を察していた。同時に、班長兼小隊長であるレイエスの支援に尽くす事を誓う。鋭敏な感覚を持つ者は、大地の僅かな揺らぎによって、迫り来る群衆に気付いていた。


 死に物狂いで走り続けた十数人の魔術師や弓手が山間部へ辿り着く。魔力と体力を大きく消耗しており、乱れる呼吸を整えるのに必死であった。


「生き残りはお前らだけなのか?」


 レイエス班の剣士ステイナーが尋ねると、不規則に深呼吸を続ける魔術師が否定する。


「小隊長が何人かを引き連れて来るはずだ」


「作戦の遂行、ご苦労。後方支援に回ってくれ」


 十数人の中に、サンティアの姿はない。前線を張っていたジャックとルアナに不安が過った。その不安はすぐに掻き消される。


「来るぞおおぉォ!!」


 シュレン小隊長は叫びながら、数人の隊員と共にレイエス小隊前線と面会した。


「サンティア!」


 精霊使いの声に気づいたら弓手はすぐに駆け寄る。互いの無事を喜ぶ間も無く魔物の軍勢が大地を揺らした。


 幸いにも皇国軍の主戦力である騎兵団の陽動により勢力が分断される。皇国ウォック小隊は未だ合流を果たせていなかった。狭い山間を塞ぐように配備されたレイエス小隊が侵攻を堰き止める。


 ステイナーはこの数日の間でほとんどの種の処理法を熟知していた。無様な飛び掛かりを見れば喉元を突き破る。頭に皿を乗せたふざけた魔物は頭上から剣を振り下ろし叩き割った。


「1匹抜けたぞ」


 惜しくも捌き切れなかった、特殊な尾を持つ猫の魔物も後衛の火力支援により蹂躙されることとなる。


 戦場を俯瞰するレイエスに目に、やや優勢といった具合の戦況が映った。ステイナーとジーケルにより形成された前線では激戦が繰り広げられるが、その優れた前衛部隊の奮闘によって、レイエス含め後衛の魔術師の魔力は温存できている。


 例の大鎌使いがいれば、差は更に広がっていたかもしれない。尤も、病床で天井と睨み合いを続けるのは本人としても不服そのものであった。


 どんなに前衛部隊が優れていると言えど、長期戦には不向きである。一刻も早く行列が絶たれることが望まれたが、防衛有利の地形でやっと互角以上の戦果を叩き出せる程度の戦力では、無闇な行動は許されない。


 守護精霊(ガーディアン)により小物の蹂躙に勤しむ精霊使いの前に、初見の大物が姿を現す。悍ましい牛頭に、蜘蛛のような胴、6の脚は刃のように鋭い


「国ィ・・・・・・を、俺達のォ国を、そのためならァ」


「ひっ」


 言葉を発する魔物が総じて只者ではないことを、街道の狐や班長から学んでいた精霊使いは思わず声を漏らした。詠唱の口を開く前に横槍が入る。


 蜘蛛のように膨らんだ胴部には矢が刺さり、葡萄酒のような血液が滴っていた。落ち着きを取り戻した精霊使いは小戦士(ミニオン)を召喚する。直ぐに突撃を図り、大鎚が左の前脚を粉砕した。


 体勢が崩れる際の隙を見越し、透かさず地面から剣を発現させる。魔物は避けることもできず無数の刺し傷が生まれた。牛頭が憤怒の形相に変わる。


 近辺の小集団を片付けたジャックが加勢し、2対1の状況となった。援護射撃をする弓手も含めれば3対1だ。


 1体の魔物に対しては人数差が有効であることが多い。生憎この戦場には大量の妨害要素が溢れており、相対する魔物も究極体の一角に君臨する難敵である。


 レイエス小隊長の熱願により、ウォック小隊が進路を変え山間の砦に向かい始めたが、依然慢性的な数的不利を抱えていることに変わりはない。


 いち早く眼前の牛頭を始末しなければならなかった。

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