特別な力
ヘルンメイル様は、逃げようとしているけれど、ガッチリと掴まれて逃げられないようにされている。
「女王様の仰る通り、城の地下に隠れておりました」
「ば、馬鹿な! どうしてわかった!?」
ゲオルグ様が驚いている。
本当に遠くに逃がしていれば良かったのに。
「ゲオルグ、隠れる期間が長かったな」
「なに!?」
「今日だけ隠れていれば良かったものを、数日間、しかも侍女を連れて隠れていたのだ、水や食糧を運び込む隠し部屋に出入りする侍女を見つけてしまえば終わりだよ」
「ど、どうして……」
打つ手打つ手が裏目に出ている。
ゲオルグ様は愕然としていた。
「この魔法使いの娘から、事情を聞いていたんだ」
「なっ……こ、この、裏切り者めっ!」
昨日、わたしは、アルフレート様に事情を話した。
そして、女王様に呼び出されて全てを告白していたのだ。
それにしても、裏切り者とは心外だ。
自分は、わたしを切る気満々だったくせに。
「ゲオルグよ、残念です」
女王様が、静かに宣告した。
有罪であると。
「な……こんな……馬鹿な……」
「メアリーが本物の魔法使いなら、その夫となっていれば良かったものを」
「う、嘘だ……魔法使いと婚姻など……」
「お前は将来、どれほどの地位と名誉を得られていたか、わからないのですか?」
「そ、そうか、貴様! 魔術で人を操っているな!?」
狂気に血走った目で、ゲオルグ様がわたしを睨んできた。
不安定になっている。
過度なストレスで興奮しているのか。
「わたしに、そのようなことはできません」
「黙れぇぇぇぇっ!」
ゲオルグ様は、剣を抜くとわたしに斬りかかってきた。
距離は五メートルほど。
数歩踏み込んで斬れば、その刃はわたしに届くだろう。
「仕方がないですね」
ご先祖様、お力をお借りします。
ほんの一瞬の間。
剣を抜いて振り上げ、斬りかかってくるまでの間。
何代前のご先祖様なのか、それすら、もうわからない。
でも、その姿を今……謁見の間に現していた。
わたしの後ろに立つ美女。
お師匠様であり、ご先祖様である伝説の魔女。
「魔術など、オレには利かん!」
しかし……その剣を弾いたのは、わたしではなく……アルフレート様だった。
「ぐあっ」
手が痺れたのか、ゲオルグ様が手から剣を零す。
「命拾いしたな、ゲオルグ。僕が止めなければ、お前は今頃どうなっていたことか」
わたしの周りに、百本ものきらびやかな剣が現れていた。
ゲオルグ様の剣なんて、簡単に弾いていたことだろう。
「ま、魔法使い? 魔法使いなの? この呪いを解いてくれるの!?」
ヘルンメイル様がすがるような目でわたしを見ていた。
「…………」
無言で禁忌の力を解く。
すると、美女の姿は消えていた。
「呪いの話自体初めて聞きました、今のわたしには無理だと思います」
「そんな! なんとかなるでしょ!? 魔法使いなんだから!」
ヘルンメイル様が、わたしに迫ってくるが……。
ビンタされそうになるのを、後ろに下がって避けた。
まぁ、アルフレート様が振り上げた手を掴んでいたけれども。
「ヘルンメイル、祈りの準備ができていないようですが……仕方がありません、無理矢理にでもやってもらいます」
「じょ、女王様、お慈悲を、お慈悲を下さい!」
やつれた顔で、女王様にすがっている。
しかし、女王様は首を横に振った。
「祈りの間へ連れて行きなさい」
「いやー! いやー! 助けてゲオルグ!」
泣き叫んでいるのは、とても王女には見えない、惨めな姿だった。
どこでボタンの掛け違いが始まったんだろうか。
わたしにはわからないけれども……。
アルフレート様が外から兵士を呼んで、ヘルンメイル様を連れて行かせる。
「ゲオルグがそそのかしたことは明白です、牢へ連れて行きなさい」
「お、覚えておけよ、お前ら!」
「見苦しいぞ、ゲオルグ!」
そして、ゲオルグ様も兵士に連れて行かれてしまった。
「はぁ……」
これで終わったように見えるけれども……まだ、わたしへの沙汰が決まっていない。
無罪というわけにもいかないだろう。
計画に荷担していたわけだし。
「しかし、女王様、あの状態で祈りは捧げられるのですか?」
「無理でしょう、祈りではなく、呪いを捧げかねません」
「それでは……」
女王様が、手をかざして王配殿下の言を止めた。
わかっていると言いたげだ。
「誰かが祈りの間に入らなくてはならないのです……五年……いや、三年は入っていてもらいましょう」
「三年で、一体どうするのですか?」
「なに、これからは、我が国にチャーミングな宮廷魔術師様が居るのです」
「え」
なにか、雲行きが怪しくなってきている。
「先ほど、メアリーは、今のわたしには無理だと言いましたね」
「えええええっ!」
そ、そういうつもりで言ったわけではない。
なんというか、言葉のあやというか……。
「なんとか……できるのかい?」
「うっ……」
アルフレート様の物憂げな瞳で見つめられると、目を逸らしてしまう。
そして、それを見た女王様がニヤリと笑うのが見えた。
心を見透かされている……。
「呪いのことも、祈りのことも知ったばかりなんです、まだ何もわかりません」
「これより、メアリーを我が国の宮廷魔術師として迎える! 皆敬意を示せ!」
アルフレート様と、王配殿下までもが、わたしに対して膝をつく。
えええええ……こんなの困るよ。
でも、わたしの気持ちとは裏腹に事態は進み……。
それから、我が祖国は魔術を解禁し、多くの技術的革新を経て発展していったという。
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