36 シーヴァス
休憩の時に、目的地付近を見上げた長一郎は、地平線の辺りに森以外の物を見付けた。
「あれは、何ですか?」
【現世】の地球では、地球の丸みで遠方が見えなくなる。
だが、球体の内側にある様な【常世】では、遠方が見えなくなる原因は空気による白濁だけだ。
なので、意外と遠方までの視界が効く。
「私も見たことは無かったが、たぶんアレが【バベルの塔】と【シーヴァスの都市】なのだろう」
シーヴァス領に近づくほど木々は疎らになり、既に荒野となって見張らしはよくなっている。
ティラナと共に目を凝らした先に見えたのは、柱が途中で折れた様な巨大過ぎる存在と、その麓に幾つも浮かぶ小さな【何か】だった。
かつて、【天界】と【下界】を繋いでいた数多の【柱】は、以前も見えてはいたが、距離があるのと、細い故に森の木々に紛れていて、目立つ物ではなかった。
しかし、これはひと味違う。
近くに寄っているのも有るが、明らかに異質であった。
【バベルの塔】は、昔のSFアニメで出てきた、大マゼラン星雲の某惑星の様に、下界たる地球と、天界をつなぎ止め、支えていた数多の柱の中の一本で、最も太い物だ。
グージャスの話では、これが地球の南極と繋がっており、【天を支える巨人アトラス】としてアトランティス大陸だった南極の繁栄をも支えていたと言う話だ。
近年のSFならば、軌道エレベーターに近く、神々の世界へと続くその道の恩恵は計り知れない。
さながら、神話の時代のシルクロードだったろう。
ギリシアでも神々が住まうとされる【オリンポス山】伝説があり、ユダヤ神話でも【シナイ山】、インドや中国では【須弥山】という様に、神々が住まうのは『山』というのが現世での傾向だ。
多くは現存していない、その【山】と言う認識の根幹が、これらの雲を貫く、かつての【柱】であったり、【柱の残骸】であった可能性は大きい。
話では太古の人間が、この南極の柱を『空間分断システム』として改造し、活用した為に、ガイアと呼ばれていた惑星が【現世】と【常世】に別れたらしい。
二万年近く経過する現在も、この【バベルの塔】周辺は空間が歪み、システムに登録された人間や家畜以外の種族は、近寄れないと言う。
たまに、異形の服を着た人間が現れたり、他の地方に残された人間を登らせたところ目の前で消えたりしたので、今でも現世とのゲートとなっていると考えられている。
「目的地が近いと言う事ですね?」
「そうだな、長一郎」
長一郎の帰還実験について知る者は、長一郎とミストレア、ティラナの三人しか居ない。
剣の訓練は、御気に入りとして同行させる為の自衛手段だし、食事の量を増やしているのは、『まだ体質が現世のまま』と言ってある。
馬車の外では無闇な話が出来ないのだ。
その後も馬車がシーヴァス領に近付くにつれて、【バベルの塔】の麓にあった物の正体も、明らかになってきた。
巨大な円盤状の物が幾つも宙に浮かんでおり、そこからは人工的な光や白煙、黒煙があがっている。
「あれは、都市だったんですね」
休憩の度に大きく見えてくるソレは、既に皆の知るものだったが、正体については諸説紛々だった。
だが流石に、この距離まで近付けば、その言葉に異議を唱える者はいない。
その都市は、ゆっくりと上下左右に位置を変えており、中には時おり長い花火の様な長い光を発し合っているものもある。
「あれは、【ラピュータ】なのか?」
「ラピュタ?」
転移者の一人が口にした言葉に長一郎は鋭く反応した。
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