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35 地上絵の源

現世うつしよの地球上には、古代遺跡として幾つもの地上絵や巨大造形物が存在する。


巨大遺跡の多くは、その存在が地上から見えるが、一部には上空からしか確認できない物もある。


有名な物は南アメリカはペルーのナスカ平原に描かれた無数の地上絵。

同じくペルーのアタカマの地上絵。


北米の立体造形物サーペント・マウンド。


シリア・ヨルダン・サウジアラビアなどの国々で発見された花の様な遺跡。


イギリスには、ウィルミントンのロングマンやサーンアバスの巨人、アフィントン白馬など多数の地上絵や石列が存在する。


これらは地上からは地面の変色や溝、傾斜にしか見えないが、上空からだと緻密な絵などとして確認する事ができる。


『考古学上』は飛行する事が出来ないとされる当時の人類が作ったコノ様な造形物は、天に昇った祖先の霊への供物なのか、天上に存在する神への祈りなのか、惑星探査の異星人に『知的生命体が居るぞ』と知らしめるメッセージなのか、単なる落書き大会なのかは、未だに分かっていない。


ただ、成層圏辺りに【天界】とも【常世】とも言われる大地が存在していると、話は違ってくる。


『鑑賞者が居る芸術』や、その名残なごりとして、鑑賞者達が消え去った後も描かれたり、いまだに鑑賞者が居ると信じて描がいていたのかもしれない。

宗教上は、いまだに『天におわします』と言っているくらいなのだから。


ただ言える現実は、『人工衛星などの軌道からは、人間の肉眼でナスカ平原を見ても何か有る程度の事しか分からない』と言う宇宙人説を覆す事実だろう。


勿論、宇宙人の視力や探査能力と人間の視力を同列に見るのも根拠には乏しいが。



----------



走行中の馬車中では、この二ヶ月に及ぶ行程の復習が行われていた。

長一郎達が見せてもらっているのは、現在までの移動行程だ。


この世界にも行商人は存在しており、複数の勢力圏を行き来する関係上、地図の存在は必然と言える。

勿論、高価な情報であり、行商人から買うには貴族でもない限りは無理だ。


こうして人間を含めて提示されているのは、万が一の時に単独でも村まで戻る為だと説明された。


現世の馬車は、一日に四十キロメートルほど走るが、常世では魔力の助けもあり六十キロメートル以上走るらしい。


約六千キロメートルの行程で、百日前後を予定しており、日数的には三分の二近くを消化した計算になる。


以前から蜥蜴人から見せてもらっていた地図の魔法に行商人地図の情報を引用し、光魔法を用いた表示を重ねて、分かりやすく解説を受けていた。


「万が一の時は、多少は遠回りになるが、先の盗賊などを避ける為には、こちらの街道寄りがお薦めだ。ただ、人間諸君は捕食対象になるから、誰にも見つからない様に注意して帰還する様に」

「「「頑張ります」」」


各所の目印になる湖や山などの解説を、広範囲地図を見ながら聞いていた人間の一人が、地図上のアル事に気が付いた。


「聞いて良いですか?地図の各所に描かれている、ドラゴンや虫、天使の絵は勢力図か何かですか?」


よく見ると、薄い色で言われた形に見える絵が描かれている様に見える。

他に幾何学模様に見えるラインもある。

大きさは、小さいものでも数キロ単位。大きい物は百キロ近いだろうか?


「この色分けは高低差だ。山岳地帯なので植物が生えずに、上空からは緑の中に茶色い岩肌が浮かび上がって見える」

「そんな形に、自然になったのですか?」


説明していた蜥蜴人は、あからさまに笑った。


「ははは、そんな訳がないだろう。これは【バビルの塔】以前の【天界】の力が盛んだった頃に、【遊び】として地形を加工した遺跡だ。当時は【下界】、今で言う【現世の大地】から眺めたりしたものだった。小規模な物は下界側にも作られていた筈だ。聞いた話では、今の現世では星の並びを動物に例えて『星座』と言うそうだが、【天界】に描かれた、これらの地上絵を方角の目安にしていた名残りなんだろう」


地形すら変えるのは、まさに神々の能力と言えた時代なのだろう。

二つの世界に別れてからは、その能力は崩れたバランスを保つ為に使われ、そうそう【遊び】には使えないのだ。


長一郎以外の転移者は、飛行機や情報氾濫以前の人間ばかりなので、ナスカ平原をはじめ巨大地上絵などの話を知らない為に、反応が薄い。

常世生まれに至っては、退屈な歴史の授業だ。


「空を飛べる者には良い目印だが、地上からは単なる山脈だからな。大抵は抜け道もあるし、形状を覚える必要はないものだ」


年長蜥蜴人の言葉に一同が頷く姿は、変なシンパシーを感じる物があった。



休憩の度に馬車の裏手へと行く様になったテオを見ながら、長一郎はミストレアの馬車へと向かう。


毎日の様に続けた剣の訓練は、既に走りながら複数の相手をする段階に及んでいる。


訓練の後は無理に詰め込む様な食事をしながら、目的地の話を聞いて馬車の出発時間を待つのが長一郎の日課になっている。


時おり、ミストレアの【食事】の為に呼ばれた人間には、長一郎の食事を奇異な目で見られる。

だが、彼の近くに住む者は皆無な為に、長一郎の首輪を見て『現世から来て間がない為に食生活に便宜をはかられている』として、特に話題にもならなかった。




この惑星の内側に向いた大地【常世】は、太陽や宇宙からのエネルギー供給よりも、【創造種族】である【ブラース】の産み出す物質と魔素によって支えられている。


生命の多くが魔素により魔力と言うエネルギーを得ている。

しかし、【バベルの塔】事件以来、その魔素の大半が、失われた下界【現世】の欠落分を補うバランスに費やされている為に、それ以前よりは生命に供給される分が激減している。


かと言って、魔素が生命を支えている一部である事には変わり無く、酸素に次ぐ必須要素には変わりない。


その魔素が産み出す【魔力】によって、人間も少しの魔法が使えたり、千年の寿命を持ったり、週に一度程度の食事で済んでいたりする。


現世から転移してきた長一郎も、徐々に魔素を取り込む様になり、徐々に魔法を使えたり食事の回数が減ってきたりしてきた。


だが、今回の帰還実験の為に、魔素に頼る体質からの脱却が求められたのだ。


首輪の【適応カリキュラム】を止められ、減った食事の量を増やし、魔法は可能な限り使わない生活を続けた。


移動の最中に行われた、この行為によって【現世の肉体】に、どこまで戻れるのか、現状維持なのかは定かではないが、確実に【悪化】にはならないと判断されていた。


「【物質による体力】も、かなり付いてきた様で、何よりだ」


長一郎の盛り上がってきた筋肉を見て、指南役のティラナが頷く。


ここでは、魔力の併用により、痩せた人間でも、かなりの力や持久力を持っている。


「そう言えば、長一郎が【使節団】に参加すると聞いて、ガルド・ベリアル様が、困惑しておられたわ。久々に話題に上がったので思い出したけど」

「ガルド・・・・様って、どなたですか?」


ティラナに言われた名前に、長一郎は聞き覚えが無かった。


「ああ、ほとんど面識は無かったのよね?転移してきた貴方を発見した地方役人なんだけど、その功績で出世しようと企てていたらしいのよ。今回の実験で貴方が居なくなると、全てが水の泡だから、可哀相でね」


当初は長一郎にも伏せられていたが、流石に二ヶ月もミストレアの馬車へと出入りしていれば、情報も入る。


この【使節団】は、シーヴァス派が現世で行っている行為についての抗議文をシーヴァス派の代表に持っていく為のものだ。


その途中で長一郎は『便宜をはかられている事で図に乗り、ミストレア様に無礼を働き放逐される』と言う筋書きなのだ。


ガルド・ベリアルに罪はないが、功績も消え去るので、ティラナ達は同情していたらしい。


いまだに不定期更新ですm(._.)m

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