表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/40

34 色々な者達

未だに不定期更新中ですm(._.)m

村に居る人間の中には、転移により常世に来た者達だけではなく、その子孫や、ここの様な不干渉地帯の集落から流れてきた者達も居る。


不干渉地帯から来た者は、『人間が平和に暮らせる村がある』と言う、常世とこよでは如何にも疑わしい話を聞いて、死を覚悟でヴァイスの領域に向かったのだそうだ。

勿論、ヴァイス領域の全てが【本来、シーヴァスに属する人間】に優しいわけではない。

基本的に敵対する者に遭遇した人間の末路は目にみえている。

偶然にも【村】に辿り着けたのは、そんな挑戦者の一握りなのだろう。


「まさか、こんな形で里帰りする事になるとはな」


人間達の中の一人が口を開く。


この隊列に選ばれる人間は、強制であって拒否権はない。


確かに、あの村は『人間が平和に暮らせる村』ではあるが、隊列に選ばれた人間は、選別担当によって最低限の条件と気分で選ばれる【家畜】でしかないのだ。


「戻りたくて戻る者ばかりじゃあ無いって事か」


確か【テオ】と名乗った男の表情を見て、長一郎は自分との違いを感じて呟く。

【村】を除いては、【人間】は野生の獲物か敵でしかないのだから。


「当たり前だろう。逃げ惑い、抗い、飢えと怯えで暮らす生活に戻りたい奴なんか居るのか?」

「確かに、そんな生活は嫌だな」


日本では大きな争いもなく、我慢して真面目に働けば、生活に困る事は無い。

だが、現世うつしよにおいても、世界各地で飢餓、戦争や地域扮装、勢力争い、殺人や暴力沙汰が日常茶飯事の様に起きている事は、長一郎も知っている。


平和で自分達のエゴを『自由』と称して行動できる、現世の近代日本で生まれ育った事を、彼は今さらながら【異常】であると感じていた。


「おい!ムダ話をしている余裕は無い様だぞ」


蜥蜴人の一人が叫び、数人が窓越しに外をうかがっている。


先程のマップと同じ要領で映し出された映像には、武器を手にして四足歩行する二メートル近い昆虫の集団が見えていた。

形状はキリギリスやカミキリ虫に似ている。


「こんな物が、存在するなんて・・・」


特に長一郎の目をひいたのは、全長が十メートル越えの巨大な昆虫だった。

分類的にはコガネムシやカブトムシに近いのだろう。


現世においては、決して存在しない存在に、長一郎をはじめとした人間達は驚愕した。



----------



重力下では、超巨大生物は生存が難しいのだ。


生物考古学において、当初に繁栄した外骨格生物は、力を求める上での巨大化で早めの限界を迎えた。


細胞膜の延長とも言える外骨格は、巨大化するほどに強度が割りに合わないのだ。

素材の強化でも追い付かない程に、それは深刻化していた。


具体的には、体長を二倍にすればその重量は八倍となり、それを支える厚みの外骨格を持てば筋肉や内臓の容量を減らさねばならなかった現実にある。

更には、巨大豆腐やプリンの様に、分子結合が重量に耐えきれず、下部から崩壊をはじめる。

それは生命維持にも運動機能にも悪影響を及ぼす。


それ故か、後に生物は逆転の発想へと至る。

内骨格生物への転換だ。


骨格もキチン質に代わり、カルシウムと言う軽くて丈夫な金属で骨格を作るに至っている。

これは、外骨格よりも効率が良く、更なる巨大化を実現したが、やはり限界はあった。


他には身体強度を無視し、表面張力などを駆使して巨大化するクラゲやイカなども存在するが、それは多くの身体的犠牲を前提とするしかなかった。



後に生物は、更に地上へと進出した。


海中の様に浮力を使えない為に、機動力を維持するのに、更なる大きさの制限が加わる。


地上の外骨格では全長一メートルのトンボが化石として発掘されている。

内骨格では恐竜を除けば、体高五メートルクラスのマンモス象が最大だろう。


仮に、気球の様に体内に巨大な気泡を持つ事で巨大化を果たしても、やはり内蔵できる筋肉量や強度の問題から、運動機能が低下して格好の捕食対象となる。


だが、この常世では低重力に加え【魔力】の助けも有ってか、更なる巨大化と進化を遂げている様だ。



----------



「敵軍なんですか?」

「いや、装備や規模から見て盗賊のたぐいだろう」


あくまで探索できる範囲ではあるが、その規模から馬車内の蜥蜴人は、その様に口にした。


他所からくる、ましてや敵対勢力の存在は、近々(きんきん)の報復を考えなくて済む獲物だ。


多少の騒ぎは聞こえたものの、馬車は止まる事もなく五分程で、その場を走り去った。


少数とは言え、【貴族】を守る重装備の軍隊である。

半端な盗賊に負ける訳がない。


更には、蜥蜴人の乗る馬や馬車は、巨大昆虫よりも足が速い為に、少しの迂回で逃げおおせた様だ。

飛んできた昆虫人達も、訓練された魔法と剣技で仕留められていった。


「たいした相手じゃなかったみたいですね」

「何を言うんだ?鍛えられた兵と、すぐれた装備だから勝てたんだぞ!我々人間だけだったら村が一つ消えるところだ」


休憩で馬車を降りた時に長一郎が呟いた言葉に、テオと言う地元の人間が異論を唱える。


『逃げおおせば勝ち』と言う選択肢と機動力があれば、最小限の労力で犠牲なく通過できるが、それの無い【地元民】では確かに全滅も有るのだろう。


「確かにね」


隊列と言う狭い環境下で、敵を作ってもトラブルのもとだ。

長一郎は、自分を抑えて早急に肯定した。


映像で見る限りは、賊は長一郎が剣の指南を受けている蜥蜴人より遥かに弱く、長一郎の剣技でも余裕がありそうに見えた。

が、それを言っても仕方がない事だ。


たいした騒ぎにもならなかったが、不満そうに立ち去るテオを見送る長一郎は、その姿が馬車の影へと進むのを見て、自分の行動を反省した。


「これは、ちゃんと謝った方が良いな!」


先程は言葉が足らなかったと思い、長一郎は配布の水を二人分貰うと、テオの後を追う事にした。





長一郎がテオを見つけると彼は、その手から小鳥を手離すところだった。

小鳥の足には、何かが付いている様だ。


テオは長一郎に気かつくと、少し困った表情をして、すぐに照れ笑いを浮かべた。


「困ったなぁ~見られちゃったかな?」

「鳥に・・・何をしていたんですか?」


長一郎は本来の目的を忘れ、水の器を私ながら聞き返した。


テオは、少し考えている素振りをみせて、長一郎の問いに答えはじめる。


「私は、動物支配ビーストテイマーの魔法が得意でね。村では食用家畜の飼育を担当していたんだが、ここまで帰った次いでに、家族に安否あんぴの手紙を送ってみたところさ。村が、まだ残っているかどうかは分からないけどね」


長一郎は、『村』の言葉で本来の目的を思い出し、思考を切り替える。


「それは心配ですね。先程は、そんな事も理解できずに軽はずみな事を言って、申し訳ありませんでした」

「君は転移者な上に、まだ日が浅いから知らなくて当然だよ。もう、気にしてないから」


笑顔を返すテオに頭を下げて、長一郎は急いでソノ場を去った。


勿論テオが何をしていたかは、誉められた事ではないのだろうが、誰かに話す気もない。


長一郎は、皆が休んでいる所へと戻って行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ