第30話「咲姫を好きになる十のこと」
第30話目になります。正直、ここまで続くとは思っていなかったので驚きです。今回の話もいつもと変わりませんが、楽しんでいただけると嬉しいです。
第30話「咲姫を好きになる十のこと」
梨衣に階段の踊り場のところまで連れて来られるとキッと睨まれる。
俺はそんな梨衣の姿を見て、うぐっとなってしまう。そんな目で見られると、俺としてもかなりつらくなってしまう。
「成未くん、朝ご飯の時といい、登校中といい、あれはどういうことなの?」
やっぱ、隠せることじゃないよな。
俺は隠すことを諦めて、梨衣に昨日の夜、咲姫とどんな話をしたのかを話した。
「つまり、咲姫ちゃんは私と成未くんが付き合ってることに反対と言うことかしら?」
「やっぱ、そうだよな。でなければ、あんなことは言わないだろうし」
梨衣の表情を見て、俺はいたたまれない気持ちになってしまう。
「ごめん、梨衣」
何回目だろう。梨衣にこうして謝るのは。梨衣をこうして悲しませるのは。
梨衣は無言で俺の胸に頭を埋めてくる。俺も梨衣のことを抱きしめる。
「成未くんが謝ることじゃないよ」
梨衣は静かにそう言うと、首をふるふると振って腕を俺の背中に手を回してぎゅっと抱き着いてくる。
俺も梨衣の背中に手を回して、梨衣のことを抱きしめる。
ごめん、梨衣。不安にさせて。
俺は肩を震わせて静かに泣いている梨衣に向けて、もう一度心の中で謝った。
そりゃあ、妹から告白されさらには、1週間で奪いますよって宣戦布告をされればこうもなるか。
「大丈夫だよ。咲姫もあんなこと言ってるだけで、なんかのおふざけ決まってるって」
俺はあえて梨衣を安心させるために、そう言ったが梨衣にはキッと睨まれてしまう。
「バカ! そういう事を言ってるんじゃんないの!」
そういう事ってどういう事だよと思ってしまうが、口には出さなかった。これ以上、余計なことを言って、梨衣の神経を逆なでしたくもないし。それに何よりも悲しませたくなかった。
しかし、咲姫があんなことを言ってくるなんて思っていなかったので、俺にはどうしたって、昨日言われたことや今日の朝からの出来事が未だに夢に思えるのだ。
咲姫、お前は本当に何を考えているんだ。昨日の咲姫の目や言葉を発した時の咲姫の表情は、おふざけで済ませられるレベルではないことを俺も理解はしていたのだが、どうしたって、咲姫が俺のことをその好きと言うのはあくまでも兄貴のそれであって、恋人に向けるようなそれではないと思ってしまうのだ。要はあれだ。ライトノベルでもあるが、大好きなお兄ちゃんを取られて拗ねている妹的な感じであろうと俺は予想していた。実際、やっていることがそう言ったキャラと大差ないのだから。だから、梨衣がここまで不安になっている理由が俺には分からなかったのだ。
この時、俺は分かってなかったんだ。梨衣が危惧していたことを完全には理解しきれてなんかいなかったんだ。
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あれから予鈴がなってしまい、俺は梨衣を教室まで送り届けてから自分の教室に戻ったのだが、クラスの男子からは恨めしや的な視線を送られるし、女子からは好奇心を隠さないような視線で見られ、綾人に関してはニヤニヤと笑っていた。久野も綾人と同様か。クソ、俺は平穏な学校生活が送りたいだけなのに。
それからすぐに授業が始まったのだが、俺の耳にはちっとも入ってこなかった。何度教師に注意されたかは覚えていない。その度、綾人や委員長が笑ったりしていたので見ていてやかましかった。
「はぁ~、どうにか午前中乗り切ったぁ~」
俺は4時間目が終わると同時に、うーんと伸びをした。
「どうにか乗り切ったって、あなたはほどんどぼぉーと過ごしていただけじゃない」
「そりゃあ違いないね。成未の奴、先生に何度注意されたのか自分でも覚えてないんじゃないのか」
久野と綾人の言葉に俺はうっとなってしまう。
「しっ仕方ないだろ。こういう時に限ってなぜだか、各授業で指されて教科書を読めだとか、前に出て問題を解いてみろとか言ってくるんだから」
そうなのだ。こっちが当ててほしくない時に限って、教師共は狙ったかの如く指名してきやがるので、俺としては非常にいい迷惑を被っていた。
「いやいや、それは成未がぼぁーとしてるからっしょ」
「鹿島くんの言う通りね」
「おいおい、綾人も委員長も容赦なくね?」
2人の容赦ない言葉に俺の心はぽっきりと折れそうです。
「それよりも成未、お前生徒会室に行かなくてもいいの? 四ノ宮先輩待ってんじゃないの?」
綾人の言葉に俺はハッとする。そうだ、梨衣と約束しているの忘れてた!
「悪い、綾人! 俺、生徒会室行ってくる!」
俺は綾人にそれだけ言い残して行くと、教室を飛び出し生徒会室に向かおうとしたのだが……
「どこに行こうとしているのかな、な・る・み」
階段を駆け下りようとしたが、咲姫にそう引き止められる。
「ああ、生徒会室に行こうと思ってさ。梨衣と昼飯を食べる約束をしてたからさ」
「ふ~ん、1週間は咲姫の彼氏の癖して他の女とご飯を食べようとしてたんだ。付き合って早々から浮気なんて良い性格してるね、成未」
俺は特に気にすることもなく目的を話したのだが、当然のことながらそんなことを咲姫が納得するはずもなく、今は6月のはずなのに俺は底冷えをするような感覚に陥った。それほど、咲姫の声は冷たく冷え切っていた。ついでに言うと視線もゴミを見るような感じになっている。
「そうか。そうなのね。成未はまだあの女の彼氏という気分が抜けてないのね。だったら、それを分からしてあげないとね。うふふふふふ」
うちの妹がマジで怖いんですけど! 咲姫って本当にこんなキャラだったか? 俺の記憶が正しければこんなにブラコンではなかったし、ヤンデレチックな感じでもなかったはずだ。それなのに、本当にどうしたというのか?
俺が咲姫の雰囲気に飲まれていると、その間に咲姫は俺との距離を詰めていたらしく、目の前に咲姫のかわいい顔があって俺は驚いてしまう。
「いい、成未。これからは咲姫とお昼を食べるの! これはもう決定しているの! ちなみに言うと、梨衣先輩からはもう成未とお昼を食べることの了承はもらってるから、成未と咲姫はなんも気兼ねなくお昼を食べられるよ」
いやいや、ここは学校だから周りの目があるからね! そして、梨衣のフォローマジでどうしよう⁉
俺はそうツッコんやりたかった。やりたかったのだが、咲姫の瞳を見て俺に勝ち目はないことは最初から明らかだった。だから、俺は諦めたため息を一つ吐くと頷く。
「分かったよ、咲姫」
俺の答えを聞いて咲姫は、それはもう嬉しそうに笑うのだった。
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所変わって屋上に俺と咲姫は来ていた。まだ6月上旬ということもあり、そこまで外も暑くはないので、ここで食事をしても今ならまだ問題はないだろう。
それに、ここならクラスの連中やその他諸々の視線も回避できるため、咲姫とお昼を食べるのであればここがちょうどよかった。
「さあ、成未。お腹空いたよね? 今日は咲姫が作ったから食べよ、食べよ」
咲姫は嬉しそうにお弁当を広げている。中の具材オーソドックスな内容なのだか、それがまた食欲をそそった。
俺はジーとそのお弁当を眺めてしまう。
「ん? 成未、どうしたの? 咲姫のお弁当をそんなに眺めて」
ずっと眺めている俺を訝しく思ったのか、咲姫がそう聞いてくるので、俺は思っていたことをそのまま口にした。
「いやさ、あの料理が苦手だった咲姫が良くもまあここまで上手くなったって思ってさ」
俺がそう言うと、咲姫は顔を真っ赤に染めあげて反論してくる。
「べッ別に良いじゃない! もう昔の話は! 今はちゃんと食べられるレベルなんだから良いでしょ!」
「確かに今はな。あの時は何度、三途の川を見たことか……」
俺は思い出して、遠い目をしてしまう。ああ、どうして俺はこうして生きているのだろうか? と不思議に思えるぐらいには三途の川の番人の姿を見たものだ。確かあの時は笑顔でこちらに手を振っていた気がする。
「もう、お兄! いい加減にしないと咲姫も怒るよ!」
よっぽど、恥ずかしかったのか咲姫の口調は、あんなことを言う前に戻っていた。
「あはは、悪い悪い。でも、咲姫はやっぱそうしてた方がかわいいよ」
「なっ! 別にお兄にかわいいとか言われても全然嬉しくないし!」
そんな顔を真っ赤に染めながら否定されても説得力ないっての。
俺はそう思いつつ、咲姫が作ってくれた卵焼きを箸で掴むと口に運んだ。
うん、美味いな。形も綺麗に整ってるし、色もちゃんと綺麗な黄色で見た目からも確実に美味しいというオーラと言うのだろうか、まあ、そんな感じのが出ていた。
次に鶏のから揚げも食べてみるが、こっちもカリッと揚がり中はジューシーに美味しく揚がっていた。
「本当に咲姫、料理上手くなったんだな」
俺は思わず、咲姫がこんなにも料理を上達してくれたのが嬉しくて、咲姫の頭を撫でてやる。
咲姫は最初はとろけるような笑みを浮かべながら撫でられていたが、やがて我に返ると、俺の手を払いのけてチワワのように威嚇してくる。そんな姿も愛らしいとは思ってしまうのだが。
「お兄に褒められてもちっとも嬉しくない!」
「はいはい、でもさ、俺らがこんなに仲良くなれたのって咲姫が料理ベタであってくれたからだよな」
「そうですとは言いずらいけど、確かに咲姫とお兄がこうして普通の兄妹みたいにられたのは、あの時がきっかけではあるよね」
あの時か。本当に懐かしいな。むしろ、あの出来事がなければ、俺は咲姫とこうして普通に会話するどころか、波瀬家にすら未だに馴染めていなかったかもしれない。
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