第六幕 打ち上げ、そして次への目標
無事に部活動PRウィークを終えた舞風学園演劇部の12人は多目的室で打ち上げを行い、ひのりが仕切っていた。
「皆さん、お疲れ様!」
「私達にとっては3回目、りんかちゃん達にとっては2回目、綾音ちゃん達にとっては最初となる初公演、みんなどうだったかな?」
ぐるりと全員を見渡して、笑う。
りんかがすぐ手を挙げる。
「はい! 去年よりちょっと落ち着いてた気がします!」
「それ、自分で言うんだ」
七海が即座に返す。
「でも実際、去年よりは暴れてないよね?」
紗里が笑う。
「暴れてた自覚はあるんだ……」
音羽が静かに言うと、りんかは「ある!」と胸を張った。
ひのりは苦笑しながら、今度は一年生を見る。
「綾音ちゃんたちはどうだった?」
綾音は少し考えてから答える。
「……すごく緊張しました。でも、舞台に出たら、思ってたよりちゃんと前を向けました」
風花がすぐに続く。
「私は緊張してたはずなのに、途中からちょっと楽しくなってました」
「三日でやめる予定だった人が?」
紗里が言う。
「そこは今いじらないで!」
風花が即座に返して、笑いが起きる。
美春は紙コップを持ったまま、静かに言った。
「私は……人形ではなく、人が演じる意味を少しだけ掴めた気がします」
その言葉に、まひるが嬉しそうに顔を上げる。
「やっぱり今回、列車の衣装とか雰囲気、ちゃんと効いてたよね……!」
「効いてたわ」
唯香が頷く。
「見た目が役を支える瞬間、ちゃんとあった」
音羽も静かに続ける。
「アナウンスも、去年より落ち着いて入れられた」
りんかが笑う。
「去年の私は落ち着きゼロだったけどね!」
「今年もゼロ寄りだったよ」
七海が言う。
「厳しくない!?」
また笑いが広がる。
ひのりはその様子を見ながら、少しだけ目を細める。
去年までは、自分たちも必死で前を見る側でもあった。
でも今年は違う。初舞台を終えた後輩たちの顔を見ていると、自分たちが“残す側”にいることが、はっきり分かった。
「……なんかさ」
ひのりがぽつりと言う。
「ちゃんと、次に繋がってる感じするね」
七海が小さく頷く。
「うん」
「それは、多分今日の一番いいところ」
しばらく談笑が続いたあと、紗里がふと思い出したように言った。
「そういえばさ、今回の台本って結構変わったよね」
「最初と全然違う感じになってなかった?」
その言葉に、何人かがうなずく。
七海は紙コップを持ったまま、静かに口を開いた。
「ベースは私が書いたけど」
「今回は、途中でかなり組み替えた」
「みんなの提案も入ってる」
ひのりが笑う。
「列車の設定も、最初はもっとシンプルだったよね」
「“使命”とか“選択”の話は後から出てきた」
「うん」
七海が短く答える。
「方向性を決めたあとに、テーマを寄せた」
りんかが身を乗り出す。
「アクション多めにしたの、私だよね?」
「そう」
七海が頷く。
「動きが入ると、舞台が持つ」
音羽も続ける。
「声の切り替えは、少し調整した」
「役ごとの温度差を出したかった」
まひるが小さく言う。
「衣装も……途中で少し変えました」
「動きやすさと、見え方で」
「すごい変わってたよね」
紗里が言う。
「あと私の販売員、あれ絶対遊びすぎたでしょ」
「いつも通り」
七海が即答する。
「褒めてる?」
「半分」
笑いが広がる。
みこは少し考えながら言った。
「おばあさんの役も……最初と違った気がする」
「うん」
七海が頷く。
「みこの雰囲気に合わせて変えた」
「静かな方が、空気が出るから」
少し間が空く。
七海が視線を動かす。
「あと」
「一部は、美春ちゃんにも書いてもらった」
一瞬、空気が静かになる。
美春が顔を上げた。
「……少しだけです」
「自分の役の部分と、繋ぎを」
ひのりがすぐに言う。
「でも、あそこ良かったよ」
「言葉の感じ、ちゃんと“美春ちゃんの役”になってた」
美春は少しだけ目を伏せて、小さくうなずいた。
七海が静かにまとめる。
「今回は、全員で作ったに近い」
その言葉に、自然と全員がうなずいた。
七海の「全員で作ったに近い」という言葉に、ひのりがうなずいた。
「リハのときも、結構変わったよね」
「同じシーンでも何回も止めてさ」
風花がすぐに食いつく。
「あー、あそこ!」
「台本持ったまま固まってたやつね」
綾音が苦笑する。
「……何が正解か分からなくて」
「動けなくなりました」
美春も静かに続ける。
「言葉は同じでも、見せ方で意味が変わるので」
「調整が必要でした」
紗里がニヤッと笑う。
「で、そこで出てくるのが――はい、監督」
全員の視線が唯香に向く。
唯香は少しだけため息をつく。
「その呼び方、やめなさい」
「でも実際そうじゃん」
ひのりが笑う。
「“その一歩、間を置いてから”とか、“視線もう少し上”とか」
「完全に演出だったよ」
綾音が思い出すように言う。
「“声を出す前に呼吸を入れて”って言われたの、すごく印象に残ってます」
風花も頷く。
「“セリフだけが前に出てる”ってやつね」
「地味にきつかった……」
美春が小さく言う。
「ですが、あれで流れが繋がりました」
七海が短く補足する。
「観客の視線が揃った」
ひのりが笑う。
「やっぱり映画監督の娘は違うね」
唯香は肩をすくめる。
「見てきただけよ」
「どう見えるか、を」
綾音が少し真剣な顔になる。
「……すごく助かりました」
美春も静かに続ける。
「はい。あの修正で、役が安定しました」
風花が笑う。
「つまりうちら、ちゃんと“演出されてた”ってことか」
「いい意味でね」
紗里が肩を叩く。
「舞風、普通にレベル上がってない?」
ひのりがその言葉にうなずく。
「うん」
一拍。
「確実に上がってる」
その言葉に、ひのりがふっと笑った。
「じゃあさ」
紙コップを軽く持ち直す。
「次、どうする?」
一瞬、空気が止まる。
「どうするって?」
紗里が聞き返す。
「このまま終わりじゃもったいなくない?」
ひのりが言う。
「せっかくここまで作れたんだし」
「もっとやりたいこと、あるでしょ?」
りんかがすぐに手を挙げる。
「はい! もっと動きやりたい!」
「今日ちょっと抑えたし!」
「抑えた自覚あるんだ」
七海が淡々と返す。
音羽が続ける。
「声の幅も、まだ広げられる」
「今回使ってないトーンもある」
まひるが小さく言う。
「衣装も……もう少しできると思います」
「動きと合わせて、もっと見せられるように」
綾音は少し考えてから口を開いた。
「……私は」
「もっと演じてみたいです」
「いろんな役を」
風花が笑う。
「私は……楽しく続けたいかな」
「気づいたら終わってたし」
美春も静かに続ける。
「観るだけではなく」
「関わる側として、もう少し試したいです」
ひのりがうなずく。
「いいじゃん、バラバラで」
「それぞれ違う方が面白い」
七海が短く言う。
「方向は見えてる」
その時、後ろから声がした。
「いいじゃない」
振り向くと、晴山先生が立っていた。
「ちゃんと“選べてる”ってことだもの」
ゆっくりと部屋を見渡す。
「だったら――」
「チームでやってみたら?」
「同じ方向の子たちで、少しずつ形にするの」
紗里が首を傾げる。
「チーム?」
「ええ」
晴山先生が頷く。
「四人ずつくらいで分けて」
「やりたいことを、それぞれやってみる」
「最後に、また一つに戻せばいい」
ひのりが笑う。
その言葉に少しだけ目を輝かせた。
「私、全部見たい」
全員の視線が向く。
「人形劇も、アクションも、言葉と空気の芝居も」
一拍。
「みんなが変わるとこ」
ひのりは笑う。
「だからさ、全部見せてあげようよ」
自然と視線が交わされる。
「じゃあ私はこっちかな」
りんかが言う。
「動きやるなら一緒でしょ」
紗里が乗る。
「……私も」
綾音がうなずく。
「じゃあ決まりだね」
風花が笑う。
一方で、
「構成はまとめる」
七海が言い、
「演出は見るわ」
唯香が続く。
「私も……そっちで」
美春が静かに加わる。
ひのりは少し考えてから、
「じゃあ私もそっち行く」
と笑った。
残った面々を見て、音羽が言う。
「なら、こっちは声と見せ方」
まひるが小さくうなずく。
「衣装も合わせます」
みこも続く。
「……雰囲気、作ります」
その中で、アリスは静かに言った。
「なら、私は少し違う角度から見る」
一瞬、空気が静かになる。
晴山先生が小さく笑った。
「それでいいのよ」
「それぞれ違うから、意味がある」
ひのりが最後に手を叩く。
「よし、決まり!」
「また一つ、作ってみようか」
全員の表情に、少しだけ新しい熱が灯った。
チーム分けの話で一度まとまりかけた空気の中で、
「……あの」
美春が小さく手を挙げた。
視線が集まる。
「一つ、やってみたいことがあります」
「何?」
ひのりが促す。
美春は少し言葉を選んでから、続けた。
「今回、舞台の上で“作られた世界”を見ていて思ったんです」
「人形だからこそできる表現も、あるんじゃないかって」
「それを、もっと前に出した形で……人形劇としてやってみたいです」
一瞬、静けさ。
「人形劇?」
紗里が聞き返す。
美春はうなずく。
「人が演じるのとは違う表現になるので」
「見せ方や構成も変わりますが」
「……新しい形として、試せるかと」
七海が少し考える。
「なるほど」
「視点を変える、という意味では理にかなってる」
唯香も続ける。
「演出としても面白いわね」
「制約が増える分、工夫が必要になる」
ひのりがぱっと顔を上げる。
「面白そうじゃん、それ!」
一歩前に出る。
「やろうよ」
「私もそっち行く」
七海が軽くうなずく。
「構成は見る」
まひるも小さく手を上げる。
「……衣装と、人形のデザイン、やってみたいです」
美春が少しだけ驚いたように目を瞬かせる。
「……ありがとうございます」
ひのりが笑う。
「じゃあ決まりだね」
「人形劇チーム」
紗里がからかうように言う。
「なんか一番クセ強そうなチームできてない?」
「いいでしょ、面白い方が」
ひのりが返す。
そのやり取りを見ながら、アリスが静かに口を開いた。
「人が動かす人形」
「……演じる、の別の形ね」
美春が小さくうなずく。
「はい」
一拍。
「だから、やってみたいんです」
その言葉に、七海が短く言う。
「じゃあやろう」
シンプルな決定。
ひのりが手を叩く。
「よし、人形劇チームはこれで確定!」
新しい方向が、はっきりと形になった。
ひのりが手を叩いたあと、りんかがすぐに前に出た。
「じゃあ次!」
「動きやるチームも決まりでしょ!」
勢いのまま言う。
「アクションとか、もっとやりたい!」
紗里が笑う。
「出た、暴れる気満々の人」
「暴れるんじゃない、魅せるの!」
りんかが即答する。
風花も手を挙げる。
「それなら私もそっちかな」
「体動かすの、普通に楽しかったし」
ひのりがうなずく。
「いいね、バランス取れるし」
その流れで、紗里も肩をすくめる。
「じゃあ私もそっちでいいや」
「ツッコミながら動く係で」
「何それ新ジャンル」
風花が笑う。
その時、少し遅れてアリスが口を開いた。
「動き」
一拍。
「面白そうね」
全員の視線が向く。
「身体で見せる方が、誤魔化しが効かない」
「だから、分かりやすい」
りんかがニヤッとする。
「いいじゃん、来なよ」
「一番分かりやすく見せてやる」
アリスはわずかに頷いた。
「ええ」
静かな肯定。
ひのりが笑う。
「じゃあ決まりだね」
「アクションチーム」
紗里が軽く手を挙げる。
「ケガだけはしない方向でお願いします」
「そこは気をつける!」
りんかが元気よく返す。
こうして、もう一つのチームも形になった。
アクションチームまで決まり、ひと通り方向が見えたところで、部屋の空気が少し落ち着いた。
その中で、唯香が静かに口を開いた。
「少し、いいかしら」
自然と視線が集まる。
「せっかく分かれてやるなら」
「それぞれ“何を見せるチームなのか”を、はっきりさせた方がいい」
七海が短くうなずく。
「意図を共有する、ということね」
「ええ」
唯香が続ける。
「今の流れなら――三つに分けられると思う」
指を軽く折りながら示す。
「ひとつは、人形劇」
「外から作る表現。形や構成で見せる」
美春とまひるが小さくうなずく。
「もうひとつは、アクション」
「身体で見せる表現。分かりやすく、強く」
りんかが笑う。
「任せて」
唯香はそのまま、最後に視線を向けた。
「そして、もうひとつ」
一拍。
「言葉と空気で見せるチーム」
綾音が少しだけ顔を上げる。
「……言葉と、空気」
「ええ」
唯香が静かに続ける。
「動きが少ない分、誤魔化しが効かない」
「声、間、視線――全部で伝える必要がある」
音羽が小さくうなずく。
「……悪くない」
みこも静かに言う。
「……やってみたい」
綾音は少しだけ考えてから、
「私も」
と短く言った。
唯香が軽く頷く。
「なら、そこは四人で組みましょう」
ひのりが楽しそうに笑う。
「いいね、それ」
「三つとも全然違うじゃん」
七海がまとめる。
「方向性は明確になった」
「やりやすい」
紗里が肩を回す。
「じゃあさ、それぞれ勝負ってこと?」
「結果的にはそうなるかもね」
ひのりが笑う。
唯香は少しだけ表情を緩めた。
「勝ち負けではなくていいわ」
「どれだけ伝えられるか」
その一言に、空気が少しだけ締まる。
ひのりが手を叩いた。
「よし、決まり!」
「三チーム、それぞれやってみよう!」
新しい方向が、はっきりと形になった――その時。
「いいわね」
晴山先生が微笑んでいた。
「みんな、それぞれ違っていて」
一人ひとりを見渡す。
「だからこそ、どんなふうに個性が出るのか……とても楽しみだわ」
少しだけ間を置く。
「同じ“演劇”でも、見せ方は無限にあるのよ」
七海が小さく頷く。
「確かに」
晴山先生は続ける。
「自分の得意なところも、まだ気づいていない魅力も」
「きっと、ちゃんと舞台に出てくるから」
ひのりが笑う。
「いいじゃん、それ」
「じゃあさ、全部見せてやろうよ」
りんかが拳を握る。
「おっしゃ、燃えてきた!」
風花も笑う。
「なんか、また始まる感じするね」
美春が静かに言う。
「はい……楽しみです」
晴山先生は満足そうにうなずいた。
「ええ」
「次は、どんな舞台になるのかしらね」
その言葉に、全員の表情が少しだけ引き締まる。
新しい挑戦が、もう始まっていた。
――少しだけ、空気が落ち着いた。
笑い声がひと段落して、誰かがジュースを注ぐ音だけが小さく響く。
ひのりが、ふっと息をついた。
「……でもさ」
一拍。
「私たち、あとどれくらいだっけ」
誰もが分かっている問い。
七海が静かに答える。
「およそ五ヶ月」
「文化祭、その後は引退、進路、受験」
淡々とした言葉が、現実をはっきりさせる。
風花が小さくつぶやく。
「……思ってたより、短いね」
紗里が肩をすくめる。
「急に現実見せてくるじゃん」
りんかも苦笑する。
「でも、そうなんだよなあ」
少しだけ間。
ひのりがゆっくりとうなずく。
「アリスも、その頃には帰るしね」
アリスは静かに頷いた。
「ええ」
「それが、区切りになる」
その言葉は、重くはないけれど、確かにそこにあった。
そこで、みこが小さく口を開く。
「……少し、寂しい」
一拍。
「でも」
視線を上げる。
「ちゃんと終われるなら、いいなって思う」
その言葉に、空気が静かに揺れる。
唯香も、ゆっくりと続ける。
「終わりがあるからこそ、舞台は意味を持つの」
一拍。
「限られた時間で、どこまで伝えられるか」
「……それが、今の私たちね」
七海が静かに続ける。
「学校生活も、人生も」
一拍。
「思っているより、ずっと短い」
誰も口を挟まない。
「限られた時間の中で、何を選ぶか」
「それは――これから先も、ずっと向き合うことになる」
静かに落ちる言葉。
りんかが顔をしかめる。
「……うわ」
「急に現実突きつけてくるじゃん」
紗里が苦笑する。
「でも否定できないのがきついな」
まひるが小さくつぶやく。
「……なんか、深いです」
風花が少し考えながら言う。
「選ぶって、続いていくんだね」
「今だけじゃなくて」
綾音がうなずく。
「……だから、今も大事にしたいです」
美春が静かに続ける。
「限られているからこそ」
「どう使うか、意味が出るので」
ひのりが、全員を見渡す。
一人ひとりの顔を、確かめるように。
「じゃあさ」
一歩、前に出る。
「悔い残さないようにやろうよ」
一拍。
「残り五ヶ月」
「全部、使い切るくらいで」
りんかが拳を握る。
「いいじゃん、それ!」
風花も笑う。
「思い出、めっちゃ作ろう」
紗里が乗る。
「どうせなら派手にいこうぜ」
美春が静かにうなずく。
「……はい」
七海が短くまとめる。
「異論なし」
ひのりが最後に言う。
「よし」
「残り五ヶ月、全力でいこう」
一瞬の静けさのあと、
全員が、小さくうなずいた。
続く。




